作品が起こすハプニング、その理由を考えるのが好き。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    青野尚子・文
    text by Naoko Aono

    作品が起こすハプニング、その理由を考えるのが好き。

    毛利悠子Yuko Mohri
    美術家
    ●1980年、神奈川県生まれ。2015年3月~8月、ニューヨークに滞在し帰国。2015年は、10/18までスパイラルガーデンでのグループ展『スペクトラム──いまを見つめ未来を探す』に参加、10/25までアサヒ・アートスクエアで個展を開催した。11/14~12/27『日産アートアワード2015』展ではグランプリを獲得。

    時折、音をたてて動いたり光ったりする謎の物体。よく見ると、機械や日々使う道具などを分解して組み立てたもの。このオブジェはアーティスト、毛利悠子の作品。場の特性を考慮したサイトスペシフィックなものが特色だ。
    「建物や空間の特徴を観察して自分なりに深めていき、そこでしかできないものをつくります。その部屋とコラボレーションすることから始めるんです」 
    たとえば、2014年の札幌国際芸術祭では1880年、明治天皇の休憩所としてつくられた清華亭という歴史的建造物が舞台になった。そこでアートを見ながら過ごすことで、歴史や建物への理解や興味がわいてくる。 

    毛利の作品は、無機物でできていても生きているように思えることがある。
    「こういうものをつくりたい、と思って制作しているのではなく、作品がハプニングを起こすのを期待しているんです。そのために意識してランダムさをつくっています。いつもは規則正しく動いている機械が壊れたり、エラーが起きると〝しめた〞と思うんです」

    〝忘却〞が全体テーマだった横浜トリエンナーレで展示した音のオブジェは、日本に帰化したアメリカ人がつくっていた楽器を譲り受け再構成したもの。
    「楽器をもらった直後に亡くなって、その人も楽器も忘れられそうな気がして。忘却されかけていた人やモノを、違う形で甦らせたいと思った」 
    『スペクトラム』展の作品は、使われなくなった街路灯が素材。
    「長年使われている間に何度も塗り直されて、シールや貼り紙が貼られたり剥がされたりして、表面がゾウやクジラの肌や恐竜の骨みたいになっているんです。曲がり方も1本ずつ違う。同じはずの工業製品が、年月が経つことで姿を変えていくことに興味がある」 

    『日産アートアワード2015』では、地下鉄の駅など都市の中での水漏れの応急処置をした「モレモレ東京」の新作を見せた。こういった場合、アメリカではせいぜいバケツを置くぐらいだが、日本ではビニールやテープを使って通行人に水がかからないよう器用に水路をつくってしまう。
    「日米で違う、その結果を見ることで思考が変わること自体が面白い。抽象的なことから背景を浮き彫りにするのが、美術の役割だと思います」 
    無機物なのに生きているようなオブジェが、さまざまなことを暴き出す。だから、奇妙な動きを見せる毛利のアートから目が離せない。

    works

    清華亭での展示『サーカスの地中』。毛利はサウンドインスタレーションをつくっていたこともあり、音が出るオブジェも置かれている。
    撮影:木奥恵三 提供:創造都市さっぽろ・国際芸術祭実行委員会

    同じく札幌国際芸術祭2014、清華亭での『サーカスの地中』ディテール。オブジェが回転し風に揺れる。
    撮影:毛利悠子

    ※Pen本誌より転載