【『VISUALIZE 60』対談企画】後編:過去に学び未来をつくる、三澤遥と上西祐理が目指すデザイン

  • 写真:前中寿方
  • 文:山田泰巨

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日本のデザイン界を牽引してきた日本デザインセンターが創立60年を機に、『VISUALIZE 60』と題した展覧会を開催している。後編では、日本デザインセンターの三澤遥と電通に所属するデザイナーの上西祐理が、「デザインの役割における本質とはなにか」を語り合う。

日本デザインセンター所属のアート・ディレクター三澤遥さん(左)と、電通のデザイナー上西祐理さん(右)。※ポスターの会期は変更前のもの。

1980年代生まれのデザイナー、アート・ディレクターとして、ジャンルを横断した活動で知られる日本デザインセンターの三澤遥さんと電通の上西祐理さん。それぞれが所属する会社は広告を軸にコミュニケーションのカタチを探るという意味ではよく似ているが、その領域や表現は大きく違う。さらにそれを超えて自在に活躍するふたりは、どんなことを考えながら活動しているのだろうか。

同世代のデザイナーとしてさまざまなイベントでも同席することが多いというふたりは、プライベートでも仕事や趣味についてしばしば語り合うこともあるという。『VISUALIZE 60』が展示テーマに掲げる「デザインの役割における本質とはなにか」を軸に、あらためて両者の考えを探っていった。


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意識する以前になにげなく触れていた、日本デザインセンターの仕事。

現在、会場では『VISUALIZE 60』の後期(4月16日まで)が開催中だ。三澤さんは「トビラ絵」と呼ばれる、すべてのプロジェクトのコンセプトを凝縮した線画のアート・ディレクションを担当。前期後期で各30、計60のプロジェクトが紹介されている。

会場を巡った上西さんに感想を尋ねると、「発表された年代は違うのに、それを感じさせません。すべてにたどり着いて然るべきというデザインの必然性を感じます。普遍性をもつデザインこそ難しいですよね」との返答。展示を通じ、取り上げられる作品には生活に身近なものが多いことに気がついたともいう。

「一過性ではなく日常的に定着するもの。いまデザインに求められるのは、こういうことだと改めて思わされました」

上西さん、そして三澤さんはともに、学生時代に日本デザインセンターの仕事を意識するようになったきっかけとして、現在は同社代表を務めるデザイナー、原研哉さんの仕事を挙げる。

「デザインを学び始め、吸収する時期に原さんの仕事を知り、『無印良品』をはじめ、あれもこれも原さんの仕事なのかと驚いたことを覚えています。デザインを意識する以前になにげなく触れていたものは誰かがつくったものなのだという、当たり前の事実を再認識しました」と上西さんは言う。

展示において、デザインの本質へと導く絵図として三澤さんが「トビラ絵」のアート・ディレクションを担当。日本デザインセンターが制作したプロダクト、サイン、映像などを通して、さまざまなVISUALIZE(可視化)を紹介する。
三澤さんが上西さんを案内しながら、自作を含む数々のプロジェクトを紹介する。面と向かって説明するのは恥ずかしいと笑いながら和やかに案内が続き、一時間ほどじっくりと展示を見て回った。

一方、三澤さんは『RE DESIGN―日常の21世紀』を手にしたことがきっかけだという。紙商社「竹尾」の創立100周年を記念した展覧会をまとめた書籍で、展覧会は世界にも巡回された。これもやはり、原さんが企画構成を行ったものだ。

「深澤直人さんが携帯電話『INFOBAR』を発表するなど、デザインが社会に大きな影響力をもった時期です。実はなにより、日本デザインセンター原研哉デザイン研究所という名前に惹かれたんです。研究所っていったいなにをやっているんだろうと」

大学卒業後、三澤さんはデザイン事務所のnendoを経て、日本デザインセンターに入社する。「底知れないデザインの力をもった人を見つけるとその人の下で働きたいと思って、すぐに行動する20代でした」と、自身の遍歴を振り返って笑う。最終的に学生時代から尊敬していた原さんのもとを経て、現在は日本デザインセンターに自身の研究室をもつようになった。

ふたりが見ているのは、前期で展示された永井一正のポスター『LIFE』。1929年生まれの永井が生命をテーマに表現を続けるライフワークだ。本作の自由さ、表現の奥深さに驚くふたり。
それぞれのプロジェクトにはトビラ絵とともに言葉が添えられる。永井の『LIFE』に添えられたのは「じぃっ」。作品の「目」に着目したトビラ絵となった。

上西さんが三澤さんに尋ねる。「原さんのお仕事は幅広いですが、アート・ディレクターの側面が非常に強いですよね。それまでの事務所での経験と大きく違う部分はありましたか?」

「私は原さんをグラフィック・デザイナーという意識だけでは見ていなかったところがあって。構想をし、展示をつくり、本をつくり、まだ社会に出る前の自分にとっては魔法のようでした。原さんの仕事現場で起こっていることは毎日が新鮮で、やはり刺激の連続でした」。三澤さんは答える。

上西さんは山登りや旅が好きで、三澤さんは自然物の観察が趣味だという。共通する「自然」への関心から、「旅や山や自然はミニマムな必要性に立ち返る瞬間があって、その答えの出し方は人それぞれですが、三澤さんの仕事にその必然性や視点を感じて惹かれます」と上西さんはいう。

「空がきれいだとか山は壮大だとか、誰の心もが動く最大公約数のような感受性がありますよね。名作と呼ばれる表現は時代を代表する一方で、時代に流されないメッセージ性ももっています。展示を見てぐっとくるのは、その感性に触れているからだと思うし、その強さに憧れますね」

アクリル絵の具で知られるリキテックス「ガッシュ・アクリリック プラス」のパッケージ。ロゴから滴る顔料をモチーフに、色部義昭さんがアート・ディレクションを担当。「自由に描けるが、思い通り描けない……」という創作のよろこびと葛藤をVISUALIZEしている。ともに美大を出た三澤と上西には馴染み深い道具で、「こういうところにも日本デザインセンター」と上西さんは感嘆する。

過去を見つめることが、未来への布石になる。

この対談を行う前後にもイベントで一緒になるというふたり。カフェで数時間にわたって喋り続けるというほどに親しい。

ふたりに互いの印象を尋ねると、三澤さんは上西さんを「同じような姿勢で仕事に向かう、心強い存在。同世代で、自然物が好きという共通点もあります。関心の触手が伸びる先が近い人だと感じています」と評する。上西さんに、どのようにキャリアを重ねてきたのかを尋ねると「電通は野放しなのがいいところ」と笑って答える。

「ひとりで仕事をしているので、先日三澤さんが、隣で作業している色部さんの姿や仕事を見て刺激を受けると聞いて羨ましいなと思いました。私はもともと広告よりも雑誌やCDジャケットなどグラフィック・デザインに興味があったのですが、広告もデザイン問題点や目的から出発し、カタチに導き定着させ、ともに社会に接する仕事だと気づいたことで、仕事の領域を分けなくていいのではないかと思うようになりました。仕事を通して、社会に出す責任を考えてカタチにすること、提示するメッセージやビジョンの大切さを学び、一時的な広告でもロングスパンな視点をもつことが大切だと学んだことは大きいですね」

三澤遥●1982年、群馬県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。主な仕事に、『waterscape』、飛行する紙のかたちを研究する「散華プロジェクト」、takeo paper show 2018「precision」への出品作「動紙」など。著書に『waterscape』(エクスナレッジ)。
上西祐理●1987年、東京生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、電通入社。おもな作品に、『世界卓球2015ポスター』(テレビ東京)、『LAFORET GRAND BAZAR 2018 SUMMER』(LAFORET)、『FUTURE-EXPERIMENT.JP』(docomo)など。東京ADC賞、JAGDA新人賞、CANNES LIONS金賞など受賞歴多数。

三澤さんは上西さんの仕事に注目したきっかけとして、テレビ東京『世界卓球2015』のポスターを挙げる。ボールが宙に静止した写真で、スピード感ある競技において選手だけが感じるであろう時間感覚を表現した。また上西さんがアート・ディレクション、デザインを手がける博報堂発行の雑誌『広告』は、「チームで組むという手法、その人選も、上西さんの独自の視点と意気込みを感じる姿勢」が魅力的であるという。競合他社である博報堂の雑誌を電通に所属するデザイナーが手がけたことでも話題になったが、なにより毎回テーマにあわせて特殊な造本に挑み、そのデザイン性と着眼点で評価を集める。

「『広告』は私が3人いたらどうだろう……と思って、尊敬する同世代のデザイナー2人に声をかけ、3人並列で制作しています。本が好きだからもっと上手くなりたいけれど、やった数だけ上手くなるから積み重ねですね。一方で表現媒体が変わっても、軸をつくるのが仕事であることに変わりはありません。どういう存在がいいのか、どういう形に導くかという本質は大切にしたい。そして誠実な姿勢をもって臨みたい。過大な表現ではなく、あるべき姿に定着させたいんです」

一方、三澤さんが仕事で大事にするのは「デザインとは異なる専門分野をもつ人に出会うこと」だという。

「いままで出会ったことのない専門領域で活躍している人とつながっていきたいですね。自分ひとりでデザインの仕事をしていても、私の場合は限界を感じます。上西さんが手掛けられた『広告』は仲間と相当な数の議論を経て生まれたことがわかりますし、そこが面白さの根源かと。本当に好きで、本当に興味のあることを掘り下げる、『とことん』やるには想いがないとできない。そのピュアさが詰まっている気がしますね」

『世界卓球2015ポスター』(テレビ東京)。スピードあるボールの応酬が魅力である卓球の一瞬を追求するストイックさ、正確に球を返す身体性を表現しようと、スピードとは裏腹に選手だけが見える「球が止まる」瞬間を表現した。
クリエイティブ・ディレクターの小野直紀が編集長を務める博報堂の雑誌『広告』で、上西さんはアートディレクター、デザイナーを務める。最新号では「流通」をテーマにした特集に合わせ、「段ボール装」という特殊な装丁に挑戦。流通の経路まで可視化するという表現で特集テーマを体現するデザインを試みた。

上西さんは三澤さんの作品を、「芯が強く、説得力があります」と評する。上野動物園のために制作した『UENO PLANET』やAI図鑑アプリ『LINNÉ LENS』を例に挙げ、「主観的な興味や気付きを、存在の必然性に昇華されていて、面白く、納得性もあります」という。三澤さんは最近、自身が葉っぱや石などの自然物に触れる時間が増えてきたと答える。

「元々、手を動かすことが好きで、まず悩んだらつくってみる人間だったのですが、最近はできるだけ手を加えないようなものの有り様に興味が移りつつあります。手数を最低限に留める。『たった~するだけ』でものごとの本質を浮き上がらせてみたい。そう考えています。私がつくらなくても地球上にはあらゆる造形をした自然のカタチがあるんです。その凄まじさや美しさを、いかに鮮やかに伝えられるか。とはいえ、水面下ではたくさんの実験をやるわけですが、目に見えるところではいかに簡潔に明快に伝えるか。そんなアウトプットの方法を模索中です」

「今日もお話をしていて、私には『作品』という意識が希薄だと痛感しました。三澤さんは、自分の興味から発展させ、展示をしていくことの面白さや気づきを大切にしています。あれだけ魅力的な形で世に存在を提示することは素直にすごいという言葉しかでてきません」と上西さん。

三澤さんの作品として発表された『watarscape』は水中生物のいる環境を考えたプロジェクト。水中の「浮く」「沈む」といった条件から、浮力の作用を意識的にコントロールして水中に棲息する生き物たちの生態環境を新たに構築し、具現化した。
『UENO PLANET』は、恩賜上野動物園のためのプロジェクト。動物園を形成している要素をひとつひとつ観察し、従来とは異なる角度から編集し直すことで、見過ごされていた価値を引き出すことを目指した。
三澤さんの『葉っぱ丸』は、一枚の葉がもつ豊かな色彩や質感を再確認するためのワークショップとして制作。葉っぱの一部を丸くくり抜き、他の葉と組み合わせることでその個性や唯一無二の表情があることを伝える。

上西さんが三澤さんにいま関心をもっていることを尋ねると、「保存」だという。

「とある仕事で動物学者の先生にお話を聞く機会がありました。動物学者の研究のなかでさまざまな生物の記録や保存が行われている。それはもしかしたら数百年後、数千年後の学者が研究する役割を担うかもしれない。希少生物だけではなく、いま絶滅に瀕していない生物も同じく保存していくことが未来の研究につながっていくそうです。保存という意識が芽生えたのは1000年前ぐらい程度で、それまでは未来を見るために過去を解き明かすという考えに人間はそこまで意識が向いていなかったわけで……。『VISUALIZE60』も仕事のアーカイブ的な面ももちますが、未来への布石でもあります。コンテンポラリーアートの世界でも、作家の作品をどのように保存し、再現して展示するかが試行錯誤されていると聞きます。私も自分の研究室のプロジェクトをどのように保存していくか、その方法やプロセスを考えてみようと思い始めつつあります」

上西さんも答える。「私もいままでの仕事の整理をしなくちゃいけないと思っているんですが、できていません(笑)。定期的に自分の仕事を一覧して見つめる機会は大切だと思っています。今回の展示は、いろいろな背景をもついろいろなプロジェクトの仕事なのに、静謐な感じ、日本の精神性、普遍的な存在の美しさなど共通性がありますよね。私は意図的に作品の方向をいろいろな角度に振り、探ってきたところもあります。これからは自分のビジョンや個人的な観点を、より仕事に反映していきたいです」

『VISUALIZE60 Vol.2』

開催期間:開催中~2021年4月16日(金)
開催場所:POLYLOGUE(日本デザインセンター東京本社13階)
東京都中央区銀座4-9-13 銀座4丁目タワー
開館時間:10時~20時
休館日:土、日、祝
無料
※オンラインでの事前予約制
https://visualize60.ndc.co.jp

【『VISUALIZE 60』対談企画】後編:過去に学び未来をつくる、三澤遥と上西祐理が目指すデザイン

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