京都コーヒー界のカリスマが案内する、3軒の最旬ショップへ。

  • 写真:内藤貞保
  • 文:小長谷奈都子
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昔から喫茶文化が息づく京都が、いま新たなコーヒー店のオープンラッシュで沸いている。京都コーヒー界の事情に精通した「トラベリングコーヒー」の店主・牧野広志さんがお薦めする最旬の店を訪ねた。

牧野広志●1966年生まれ。94年に渡仏し、パリ、ルーアン、リヨンで暮らす。2002年に帰国後はカルチャー発信地となるカフェを運営。現在は元・立誠小学校をリノベーションした複合施設「立誠ガーデンヒューリック京都」内に構える「トラベリング コーヒー」店主。京都府内で常に6軒の焙煎所から仕入れたスペシャルティコーヒーをハンドドリップで提供しながら、店がコーヒー情報発信の場にもなっている。

数年前からコーヒースタンドが次々とでき始めた京都。とりわけ2019年から2020年にかけては、豆や焙煎、抽出、ラテアートなど、店主のこだわりが貫かれた個性的な店の登場が続き、京都コーヒー界の流れを一気に変えるほどの勢いだ。数あるお店の中からイチオシを紹介してくれたのは、「トラベリング コーヒー」店主の牧野広志さん。毎日、何軒も巡り、この街のコーヒーシーンに精通した“カリスマ”が、いま真っ先に訪れるべき店を案内する。



【ウィークエンダーズコーヒー ロースタリー】町家を改装した空間で、世界レベルの浅煎りを。

店内に入ると焙煎機、カウンター、生豆の倉庫と奥行きのある空間が広がる。さらに奥には中庭も。

「京都には抽出やラテアートなど各分野のチャンピオンが多く、そんなスター選手が京都のコーヒー界を牽引し、支えている。なかでも焙煎のレベルがどんどん上がっているのは、金子さんの存在があるからこそ」。牧野さんが語るように、「ウィークエンダーズ コーヒー」の金子将浩さんは京都コーヒー界のトップランナーのひとり。2005年にカフェをオープンし、2011年から自家焙煎をスタート。深煎り文化が根付く京都で、早くから豆本来の味わいを大切にした浅煎りを追求してきた。

生豆の管理と焙煎を第一に考えて、2019年11月には焙煎所を元田中から街中へ移転。焙煎機もプロバット社の最大容量5kgから、ローリング社の最大容量15kgへとパワーアップした。「目指しているのは、すっと入っていくような味のきれいさと質感」という金子さん。2018年からはコロンビアやエチオピアといった産地へ直接買い付けに行っているという。「金子さんは豆のポテンシャルを最大限に引き出す焙煎家。世界中から金子さんが焼いたスペシャルティコーヒーを飲みに来ます。よそから来たのでなく、ずっと京都から世界に向けて発信している功績は大きい」。築100年以上の町家を改装した凛と静かな佇まいの中、世界レベルの味わいを楽しみに出かけたい。

おくどさん(かまど)があった通り庭(表から裏口まで続く土間)にカウンターを設置。天窓から差し込む光が土壁にやわらかく反射する。「この空間ごと、空気ごと感じてほしい」と一緒に店に立つ妻の亜有美さん。
店主の金子将浩さん。温度や時間、豆の重さなど「量る」ことを大切に抽出するのが金子流。コーヒー豆を買うと、淹れ方の丁寧な説明書きが付いてくる。
ウィークエンダーズ コーヒーの浅煎りは、甘味や酸味をしっかり感じられるピュアな味わいが特徴。「ドリップコーヒー」¥470(税込)
中庭の腰掛待合では、手入れされた庭を眺めながら静かにコーヒーを楽しむことができる。段ボールが並ぶ左手の部屋が、エアコンで一日中温度管理がされている生豆の倉庫。
庭に置かれた棚には、店でも使っているデザイナー柳原照弘が手がけた有田焼のマグカップやオリジナル手拭い、手軽に淹れられるドリップバッグコーヒーなどが並ぶ。豆やカップ、ドリップバッグコーヒーは、公式HP内のオンラインショップで通販することも可能だ。
河原町駅や清水五条駅から徒歩10分ほど。スタンドの営業は週末のみ。

ウィークエンダーズコーヒー ロースタリー
京都府京都市下京区松原通御幸町西入ル石不動之町682-7
TEL:なし
営業時間:10時〜17時
定休日:月〜金
www.weekenderscoffee.com

【アイオライト コーヒーロースターズ】優しい味わいのフルーティなスペシャルティコーヒー

店のオープン当初、「京都へようこそ」という牧野さんのひと言が本当に嬉しかったという吉田さん。

「いいなと思う店はだいたい夫婦でやっている地域密着型が多いけど、ここもそのひとつ。吉田くんのコーヒーは甘くて、口当たりがやさしいのが特徴」。東京・武蔵小山の自家焙煎コーヒーの名店「アマメリア エスプレッソ」で修行ののち、妻の地元である京都で独立オープンを果たした吉田大輔さん。町家をリノベーションした吹き抜けの開放的な店内には、まず入り口に豆の香りを嗅いだり、試飲ができたりするコーナーを設置。そして、修行先から受け継いだというラッキーコーヒーマシン社の焙煎機が鎮座する。

「師匠は職人肌で、データや数値だけに捉われるのでなく、最後は五感で仕上げるということを教わりました。できるだけ素材そのもののよさを伝えられるように、雑味や渋味、焦げ感といった阻害要素を排除しながら、甘さを引き出すようにしています」と吉田さん。ラインアップはブラジルの豆を3種混ぜるハウスブレンドと、シングルオリジンを5〜6種類。いずれも、香りが華やかだったり、果実やチョコレートを思わせる風味がしたりと、ベースに優しい甘さが感じられる。特に浅煎りは、ジュースかと思うようなフルーティさだ。妻お手製の焼き菓子や人気ベーカリー「ワルダー」の食パンを使ったトーストメニュー、キッズドリンクなども揃い、あらゆるシーンに対応してくれる包容力が頼もしい。

修行先から受け継いだ焙煎機を自分好みにカスタマイズ。生豆の投入時から釜出しまでひたすら香りを嗅ぎながら焙煎をしているそう。店の奥にテーブル席を用意。
コーヒーを試飲したり、焙煎した豆の香りを嗅いだりできるコーナーも設置。初心者にもコーヒーの世界を広げてくれるようなアプローチが嬉しい。
物腰のやわらかい吉田さん。「焙煎も抽出もゴールはないので、少しでもおいしいコーヒーを提供できるよう日々研鑽を重ねたい」との言葉から実直な人柄がうかがえる。
果実味あふれるジューシーな味わいに、コーヒーの概念が変わるほど。シングルオリジンの「エチオピア カイヨンマウンテン シャキソ ナチュラル」¥520(税込)
パウンドケーキやチョコレートブラウニーなど自家製の焼き菓子も人気。
店名は、バイキングが羅針盤代わりに使ったという天然石、アイオライトから命名。進む方向を指し示すとともに、帰る港はないという強い覚悟の表れでもあるそう。
妻の祖父母が暮らしていた町家を改装。東に面し、自然光がたっぷり入って店内は明るい。

アイオライト コーヒーロースターズ
京都府京都市中京区西洞院通六角下ル池須町422
TEL:075-231-8989
営業時間:11時30分〜18時(月、木、金) 10時〜18時(土、日、祝)
定休日:火、水
www.iolite-coffee.com

【タレル】コーヒーと自然派ワインが楽しめる気軽なスタンド

牧野さんが坂本さんにコーヒースタンド「ワンダラーズ スタンド」の職を紹介するなど、前々から親交があったふたり。国内あちこちのコーヒー店の話で盛り上がる。

二条城の南東にあるコンテナ19基と長屋3軒からなるユニークな複合施設「共創自治区コンコン」。カメラマンやデザイナー、演出家、染色補正の職人など、多種多様な職種の人が集まるその玄関口に「タレル」はある。朝からコーヒーやワイン、自家製パンなどを楽しめる坂本光優(みつまさ)さんの店だ。「最初に来た時はすごく興奮しましたね。これこそいまの京都だ!って。場所の面白さもさることながら、コーヒーとワインを同列に扱っていたり、パンやローストポークなどを全部自分でつくっているところも魅力」と牧野さん。

坂本さんは、カフェやコーヒースタンドなどで働いた経験を通して、ワインとコーヒーに近しいものを感じ、両方を提供する店をつくりたいと思うようになったという。「コーヒーもワインも生産者の顔が見えるものが好きです。コーヒーは同世代で信頼できる人が焙煎した豆を扱っています。ワインはすべて自然派のもの」。河原町丸太町の「スタイルコーヒー」の豆で淹れるエスプレッソには、シアトルのシネッソ社のエスプレッソマシーンを使用。東京・目黒の「スイッチコーヒー」の豆で淹れるシングルオリジンは、一杯ずつハンドドリップで。コンテナという小さな空間ながら、坂本さんが醸し出す穏やかな空気もあってか、不思議と居心地のいい店内。近所にあったら毎日通ってしまいそうな一軒だ。

吊り棚やテーブルなど、蛍光色をアクセントに取り入れた店内。立ち飲みのカウンターに加えて、テーブル席が2卓ある。
ハリオV60の有田焼のドリッパーを愛用。シングルオリジンの豆は、基本的に4種を揃える。
その日ある豆のラインアップから客の好みを聞いて豆をセレクトする「ドリップコーヒー」¥550(税込)、新潟の友人の店「ダブ コーヒーストア」のレシピをアレンジした「スコーン」1個¥200(税込)
自家製パンとローストポークやレバーペーストの組み合わせは、コーヒーにもワインにも合う。「ポークリエットとパン」¥500(税込)、グラスワイン¥1,000(税込)
常連客のリクエストで即興的にサンドイッチを調理中。コーヒーを淹れたり、ワインを注いだり、パンを焼いたりと、小さなキッチン内はコックピットさながら。
コンテナの外にもテーブル席やベンチを用意。近所の人や知り合いがふらりと立ち寄り、コーヒーやワインを楽しんでいく。
店名は、コーヒーやワインが「タレル(垂れる)」? スペルは違うけどジェームズ・タレルから?などなどの予想を覆し、店主がタレ目なことから命名したそう。