建築で古今をつないだ、京都市京セラ美術館。

  • 写真:蛭子 真
  • 文:脇本暁子

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日本最古の公立美術館建築を誇る「京都市美術館」は、80年以上市民に愛されてきた。今春、「京都市京セラ美術館」としてリニューアルオープンを果たした。

本館正面玄関前を掘り、「ガラス・リボン」と呼ばれるエントランスを設けた。右手にカフェ、左手にミュージアムショップを新設。

平安神宮の参道、神宮道脇に立つ「京都市美術館」。東京都美術館に次ぎ日本で2番目に開館した公立美術館である。昭和天皇即位の大礼を祝し1933年に創建、現存する公立美術館として日本最古の建物だ。

開館以来80年以上、京都市民に愛されてきたが老朽化のため2017年に一時閉館。大規模改修を経て、今年5月26日に「京都市京セラ美術館」の通称で甦った。リノベーションを手がけたのは、建築家の青木淳と西澤徹夫。青木は同館館長にも就任。今回の改修の方針をこう語った。

「改修するにあたって心がけたのは、できるだけ壊さないようにすることと、埋もれていた価値を発掘することです」

帝冠様式の堂々たる姿に、ガラス・リボンを加えた。

旧下足室だった、地下1階の新エントランス。柱は耐震補強のためタイルをいったん全部剥がし、一枚一枚同じ場所に貼り直されている。

クラシックな洋館に千鳥破風の屋根を戴いた「帝冠様式」の威風堂々とした外観は、長年、京都市民の記憶に刻まれてきた。緩やかなスロープ状の広場を降りていくと、建物がふわりと宙に浮かんでいるように錯覚する。これは正面玄関前を掘り下げて誕生したガラスのファサード「ガラス・リボン」による効果だ。大きくなだらかに掘られたこの部分は、旧エントランスの真下にあった地下の旧下足室とつなげ、ここを新生美術館のメインエントランスに。そして両翼部分にミュージアムショップとカフェを併設し、美術館の内と外をつなぐ場として機能させた。

「もうひとつ重視したのは、美術館の西玄関から東玄関へ一直線に伸びる軸。ここを強化して、常に風や光が抜けるようにしました」

地下エントランスロビーを抜け、大階段を上ると天井高16mの中央ホールが姿を現す。本館の中心に位置し、入場券を持たずに入れるパブリックスペースだ。ここから各展示室にアクセスできるハブ的な役割をもつ。

第2次世界大戦後は米軍駐留施設となり、その間はバスケットボールコートになった旧大陳列室。改修前まで曲線を描くらせん階段やバルコニーは存在しなかった。「実際はなかったとしても、もともとの建築がもっている流儀を踏襲すればいいのです」と、青木館長は話す。

誰もが自在に通り抜けられる、「開かれた美術館」へ。

新館「東山キューブ」の屋上は無料で往来できる庭園。東山の稜線を望み、五山送り火の大文字焼きも見られる絶好の場所だ。

中央ホールから東側エントランスへ直進すると、こちらもガラス張りの開放的なロビーだ。ガラスの向こうには京都・東山を借景とする植治(七代目小川治兵衛)にゆかりのある日本庭園が広がり、現代アートなどを展示する新設の棟「東山キューブ」へとつながっている。東山キューブの屋上テラスは館外からでも自由に出入り可能。こうして西から東、そして南北に自在に通り抜ける動線を明確にすることで「開かれた美術館」に生まれ変わった。

「埋もれていた価値を発掘する」という観点で特徴的なポイントは、南北にあるふたつの中庭。改修前は空調の室外機などが、縦横無尽に墓場のように置かれていたが、南側の「天の中庭」は竣工当時に近い姿に戻し、北側の庭はガラス屋根をかけて「光の広間」とし開放的な空間へと蘇らせた。

本館北側に位置する中庭「光の広間」。空調室外機などが置かれ非公開だった空間にガラス屋根を設え多機能空間として再生させた。

新旧建築が、自然と混ざり合う内装。

旧エントランスの階段上にある西広間。吹き抜け空間の格子天井にはめ込まれたステンドグラスが往時の美しさを湛える。

総工費約111億円をかけて、耐震補強や設備の大規模改修が行われたが、無理がなく新旧建築のせめぎ合いを感じない。外観だけでなく、内装の意匠も当時のものをできるだけ残し、または再利用しており、一見どこをリノベーションしたかわからないぐらい自然だ。

「ぱっと見ると気が付かないけれど、よく見ると違うぐらいがいい」と青木は微笑む。「我々の眼の変化もあるかなと思います。画像処理ソフトでみんながやっているように、異質なもの同士の境界線を馴染ませてしまう感覚に目は慣れています。新旧を浮き彫りにさせるのではなく、継ぎ目なくつながっているように見えるけど実は違う。そのほうがずっと面白い気がしています」

美術館の北に位置する北広間の階段。歴史的建築の意匠を尊重し、視覚的に邪魔にならないよう細い鉄製の手すりを新設。

一筋縄ではいかなかった、東山キューブの建設。

天皇陛下の控室としても使われた西側2階にある貴賓室。入り口の扉には凝ったブドウの彫刻が施されている。(非公開)

新館、東山キューブは川崎清設計の収蔵庫棟を改築したが、京都市の条例や景観・風致の規制もあり、その外壁素材の選考も一筋縄ではいかなかったそうだ。使用した素材はGRC(ガラス繊維補強セメント)という最新の素材。これを静謐な古都の街並みに合わせるべく、コンクリートに色粉を加え、本館の煉瓦タイルと同じサイズのアクセントを入れ、乾かし方にも工夫を凝らした。

遠くから眺めると本館と東山キューブとがシームレスに見え、近づくほどにその違いが感じられる。東山キューブの壁に埋め込まれたゴールドのステンレス片は陽の光に当たると輝き出し、太陽が雲に隠れると空の色を映し出す。

古都の歴史を抱き新しい一歩を踏み出す美術館。地層のように時代のレイヤーを加え未来を創る。

京都市京セラ美術館

京都市左京区岡崎円勝寺町124
TEL:075-771-4334
https://kyotocity-kyocera.museum

※開館日、開館時間は展示によって異なります。
※事前予約制。ご予約は電話または公式サイトにて受付。公式サイトのみ当日予約可能。
※今後の新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては、内容を変更する場合があります。事前に確認をお薦めします。


こちらの記事は、2020年 Pen 4/1号「京都めぐり、アート探し。」からの転載です。

建築で古今をつないだ、京都市京セラ美術館。

  • 写真:蛭子 真
  • 文:脇本暁子

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