期間限定のインターネットラジオ放送がスタート! ヴェロニク・ニシャニアンが語る、「ラジオエルメス」のメッセージとは。

  • 写真:高木康行
  • 文:飴李花
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9月1日から29日まで、約1カ月間限定で放送しているインターネットラジオ「ラジオエルメス」は、エルメスのメンズの豊穣な世界観をラジオというメディアを通して表現する、画期的なイベント。その収録風景やアーティストによるライブ演奏まで体験できるという東京・原宿のポップアップ・ラジオステーションに、来日中のヴェロニク・ニシャニアンを訪ね、話を聞きました。

エルメスのメンズ部門のアーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアン。ところどころに新作バッグがディスプレイされた、ヴィンテージ・ラジカセが築かれた壁面の前で。

いま再び脚光を浴びているマスメディアであるラジオ。エルメスのメンズコレクションに30年以上携わっているヴェロニク・ニシャニアンは、自身もラジオの愛好家だといいます。まずは大人もワクワクするこのイベントの仕掛けを、隅から隅まで堪能。そして約2年ぶりに来日したニシャニアン氏に、「ラジオエルメス」の魅力や、エルメスのメンズコレクションで表現し続けてきた世界観について、大いに語ってもらいました。

期間限定でスタートした、「ラジオエルメス」が発信するもの。

インターネットラジオというメディアの特性を意識し、外壁を飾るのはモダンでスタイリッシュなネオンサイン。もちろんエルメスらしいオレンジがキーカラーとなっています。

インターネットラジオ「ラジオエルメス」のポップアップ・スタジオが東京・原宿の「CASE W」に出現。エルメスにとっては意外なロケーションですが、幅広いライフスタイルや年齢層にメッセージを届けたいという、エルメスの熱い思いがうかがえます。会場がコンクリートや金属、ネオンサインなど、都会的かつ近未来的な要素で構成されている点にも注目。伝統と革新をバランスよく織り交ぜ前進し続ける、メゾンの世界観を見事に表現しています。

本格的な機材を揃えるレコーディングブースでは、期間中毎日実施される公開生放送を見物することも可能。壁の吸音材には、さりげなく「H」ロゴがあしらわれている。

スタジオ内には、実際に生放送を行うための本格的な設備や機材が備わっていて、生放送風景を見物することも可能。あっと驚くゲストに偶然出会えるなんてサプライズもあるかもしれません。スタジオ公開は11時~20時のみですが、ラジオではエルメスの世界観やクリエイション、文化的な背景の一端に触れることのできる、多彩で魅力的なプログラムを24時間聴くことができます。

会場全体の内装デザインは、気鋭の若手デザイナーYOSHIROTTENが監修。クラシックな機材とフューチャリスティックなデザイン、メタリックな素材感が見事に調和。

「ラジオエルメス」のロゴはもちろん、さまざまな内装設備や空間の監修・デザインを担当しているのは、国内外から熱い注目を集めるYOSHIROTTEN(ヨシロットン)。グラフィックアーティストやアートディレクターなど多彩な顔をもち、あのスティーヴィー・ワンダーやボーイズ・ノイズなどのミュージシャン、エースホテル、ナイキ、ユニクロといったグローバル企業と協業する気鋭のクリエイターです。

レコーディングブースに併設されたエンジニアリングルームでは、機械計のようなモニターに今シーズンのネクタイに使われているテキスタイルをモチーフとしたアニメーションが流れる。

会場内ではエルメスのメンズの世界観を構成するさまざまな要素が、YOSHIROTTENのフィルターを通した近未来的な表現として「夢のラジオステーション」を形づくります。たとえばエンジニアリングルームに設けられたモニターは、エルメスのメンズコレクションを象徴するアイテムであるネクタイのテキスタイルをアニメーションとして視覚化。またヴィンテージのラジカセを無造作に積み上げたレトロフューチャーなウォールには、最新のレザーバッグのコレクションが額装されたかのようにディスプレイされています。

ラジオ局のバックヤードのようなオリジナルのレコード棚には、ヘッドフォンが設置されランウェイショーで使用された楽曲を聴くことができる。
棚を移動させる際に握るハンドルにも、自然な形で「H」ロゴを使用。新作のカレがエレガントな彩りを添える。

本物のスタジオのように膨大なレコードのアーカイブが収められたシェルフでは、今シーズンのファッションショーで使用されたさまざまなBGMを聴くことができます。しかもヘッドフォン脇のパネルにレコードジャケットを置くだけで再生が開始されるという、先進的なテクノロジーを採用。レコードジャケットには、ネクタイ同様にエルメスのメンズコレクションにとって大切なカレの新柄がプリントされており、この色とりどりのグラフィックを眺めているだけでも十分に楽しめます。

世界的音楽家・坂本龍一と三味線奏者の本條秀慈郎による共演、RADWIMPSの野田洋次郎、フランス発オルタナティブ・ロックバンドのキャンプ・クロードなど、錚々たるアーティストが国内各所で行ったパフォーマンスを映像で楽しめる。

2階には「ラジオエルメス・ツアー」と題した、アーティストたちによる無観客ライブパフォーマンスのVR映像を視聴できるコーナーもあります。このように会場内は、ただ見るだけでなく、聴く、触るなどの五感を幅広く駆使する体験型の仕掛けが盛り沢山。ラジオプログラムを聴くだけでなく、このポップアップ・ラジオステーションを訪れて実際に体験することにより、エルメスのメンズの世界観への理解と共感がさらに深まることでしょう。

ヴェロニク・ニシャニアンが語る、「ラジオ」と「エルメス」

ポップアップ・ラジオステーションの開場時間は夜8時まで。放送を聴きながら会場を見て回る、なんてことも可能だ。 Photo: Nácasa&Partneres Inc.

エルメスのメンズ部門のアーティスティック・ディレクター、ヴェロニク・ニシャニアンが私たちを迎えてくれたのは、スタジオの屋上に設けられたVIPルームともいうべき空間でした。

「私は世界中のラジオ番組に何度も出演しているけれど、エルメス独自のラジオ放送を始めるのは初めてのこと。だからとてもワクワクしています。もともとこのプロジェクトは、2年ほど前に日本社のスタッフとディナーをしている時に思いついたもの。その頃から私たちは、エルメスのメンズの世界というものを多くの方に知っていただきたいと取り組んでいました。いろいろな会話をするなかで、エルメス独自のラジオ番組を日本全国に向けて発信したら面白いんじゃないかと考えたんです」

ポップアップ・ラジオステーションは2フロア構成。階段を上がると、エルメスのロゴでお馴染みの従者がミュージシャンやDJに変身したかのような楽しいグラフィックが迎えてくれる。

ニシャニアン氏はちょうどその頃、人々がSNSやスマートフォンに支配されてしまっているかのように感じていたといいます。

「みんながスマートフォンの画面ばかり見ている。コミュニケーションの仕方が、変わってきてしまっていると感じていました。そんな時代だからこそ、目で見るのではなく、耳で聴くというパーソナリティをもったメディアであるラジオが面白いと考えたんです。エルメスや私自身が何を考え、どんなメッセージを発しているのか、ラジオを通して伝えたいと思いました」

そんな彼女の“世界”の一角をなしているのが、音楽であるという点も重要でしょう。パリのオフィスで仕事をしている時も、日常生活を送っている時も、世界中を旅している時も、音楽は常にともにあるのだとか。ランウェイでのファッションショーにおいても音楽をとても大切にしており、「服、モデル、空間、そして音楽があって初めてショーは完成する」というのが、ニシャニアン氏の信念です。

「昔から音楽がとても好きで、ラジオもよく聴いています。家には古いレコードプレーヤーがあり、CDよりなによりレコードを愛しているんです。だって音質が一番いいですからね。ジャケットも大切にしているんですよ」

馬車を離れ、前方へ駆け出していく従者を表現したネオンサイン。翼の生えたスニーカーが導く先は……?

音楽を愛し、ラジオに親しみ、ラジオを通してエルメスのメンズの世界観を発信しようと考えたニシャニアン氏。では、いまという時代にラジオを使って表現する意味やメリットは、一体どこにあるのでしょうか。

「レコードでは私と家族や友人くらいでしかシェアできない大好きな音楽も、ラジオなら大勢の人と共有することができます。ラジオの魅力のひとつは、自分の思いや好きなものを、世界に向けて発信しシェアできることだと思うんです。私が興味をもっているゲストと私、ゲスト同士の対話などもシェアしたい。それにラジオは、映像や文字では伝わりづらい、会話の機微を感じてもらうのにも適した、ライブで、ダイレクトなメディアでもあるんです。私はこのあとパリに戻らなければいけないけれど、収録したトークを流すことはできるし、スタジオではライブのDJプレイや演奏などを楽しんでもらうこともできます。これって、とても素敵なことだと思いませんか?」

VR体験コーナーでは、アーティストによる無観客ライブパフォーマンスのムービーを視聴できる。

テレビ以前の主要マスメディアであり、ときに前時代的とも思われがちなラジオを、「とても現代的」と評するニシャニアン氏。その背景には、彼女自身のクリエイションに対する姿勢と共通する、ラジオならではのある特性があります。

「エルメスのプレタポルテやオブジェをデザインする時、私が最も大切にしているのは、軽やかであること、動きがあること、そして自由であることです。これは30年以上仕事を続けてきたいまも、決して変わることがありません。テレビやスマートフォンなどは画面をずっと見ていなければならないけれど、ラジオなら聴きながら仕事をすることもできるし、クルマの運転だってできます。ラジオというメディアと接する時、人は軽やかさや動き、自由さを損なわれることがないんです。マルチプルな人生、つまりさまざまなことを同時進行できるというのは、とても素晴らしいことだと思います」

2階の壁面にはレコードを模した装飾も。タイトルには今季のメンズウエアに採用されている生地の名が刻まれ、レコードジャケットにそれぞれの素材が使用される。
「タイムレスでありながら、時代に合っている」というニシャニアン氏の理念を実践し続けている、エルメスのメンズプレタポルテ。2019-20年秋冬コレクションにおいても、軽やかで自由な男性像を描き出す。 Photo: Jean-François José

そんなラジオと数々の魅力的なプログラムを通して伝えたいと願うのは、ほかでもないニシャニアン氏の思考や価値観、すなわちエルメスのメンズの世界観です。

「エルメスならではのエスプリやオリジナリティを、どのようにファッションとして表現しているのか、どんな思いをもってデザインやものづくりを行っているのかを表現したいですね。そこには最上質の素材や膨大な時間とコストがあり、伝統的な手仕事のよさ、革新的なテクノロジーのよさがある。そういったプロセスを経て生まれる繊細で微妙な素材感なども、日本のお客様には共感していただけていると感じています。美しい製品が、時の流れとともにさらに美しく熟成されていく、そんなエルメスならではの価値観を、さまざまな音楽や声とともに伝えたい。家族や友人同士で意見交換をしていただけるような知識や体験を提供し、私自身とエルメスの世界観をより深く理解していただきたいのです」

踊る従者とラジオエルメスのロゴ。輝くネオンサインがこのイベントの楽しさや斬新さを物語るかのよう。

1988年にエルメスのメンズのプレタポルテのディレクターに就任し、既に30年以上。その旺盛な好奇心と飽くなき探究心、エネルギッシュな情熱は、衰えるどころかさらに輝きを増しているようです。

「自由であること、そして情熱的であることがなにより大事。エルメスというメゾンではクオリティにおいてもデザインにおいても、完璧である必要があります。一流のダンサーやバレリーナのようなもので、練習では細部に至るまでこだわり抜き、地道な練習を必死の思いで繰り返す必要があるけれど、いざ本番となったら動きはとても自然で美しく、シンプルで軽やか。完成されているのに、その裏側にある苦労は感じさせませんよね。最終的に、目に見えるものが軽やかで美しい。そのためにできることは、すべてやるということです。私はこの仕事が大好きなんです。人生をかけて取り組む価値のある仕事で、大切なのは、どんな結果を成していくか。毎日ワクワクするような仕事に取り組める、こんな素敵なことはありませんね」

「ラジオエルメス」の会期は9月29日まで。特設サイトで番組を楽しみつつ、機会があればぜひポップアップ・ラジオステーションに足を運んでみてください。

■「ラジオエルメス」ラジオステーション
開催期間:2019年9月1日(日)〜29日(日)
開催場所:CASE W
東京都渋谷区神宮前6-16-23
開場時間:11時〜20時
入場料:無料

特設サイトはこちらから