名だたるプロが“ここぞの仕事”で頼りにする、気鋭の木材加工集団「ティンバークルー」とは。

  • 取材・文:小川彩
  • 撮影:榊水麗

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東京・深大寺を拠点とする、木材加工集団「ティンバークルー」をご存じでしょうか? 話題の店舗などで目にする絶妙な風合いの床材加工も、彼らが手がけているかもしれません。その全貌を大解剖します。

東京・深大寺のティンバークルー本社には、魅力的なバーカウンターが。このためか、デザイナーや設計者が打合せで訪れるのは夕方が多くなりがちだとか。ちなみに、ティンバークルーのオフィシャルロゴは、グラフィックデザイナー・平林奈緒美がタイポグラフィーを手がけています。

名だたるデザイナーや設計者が、ここぞという店舗や住宅の床や壁、そして什器や小物を木で仕上げたい時に頼るのが、小久保圭介さんを代表とする12人の木材加工集団「ティンバークルー」です。彼らの仕事を一躍有名にした床材をはじめ、個性のある広葉樹材を使ったカッティングボードやプラントカバー、そして什器など「木」を主役としたユニークな仕事について、ひも解いていきましょう。

絶妙なエイジング加工と、“調色”に定評のある床材。

昨年9月に竣工した「ナノ・ユニバース ルミネ有楽町店」。美しいグレーのパーケット「特注ヘキサゴンブロック」の床材をティンバークルーが製作。六角形の床材を、微妙に異なる3色のフレンチグレーに塗り分けています。設計事務所名は「ライン」。PHOTO by KOZO TAKAYAMA
窓まわりを木の素材感で覆えるウッドブラインドは、創業時から輸入販売を継続。ブラインドからルーバーシャッター、バーチカルブラインドまでラインアップ。塗装のオーダーも受けています。

今年で創業10年を迎えるティンバークルー。当初は商業空間の造園とウッドブラインドの販売を中心としていましたが、「外のテラスと室内の床につながりをもたせたい」というデザインの要望が増え、テラスのデッキだけでなく室内の床を施工するようになりました。デッキ材の色みや幅に合わせて室内の床材を選ぶ程度でしたが、とある店舗の仕事で準備した輸入古材が足りなくなり、急遽新品の床材に傷や打痕をつくって塗装をかけ、経年変化したように見せる「エイジング加工」を施したところ、この仕事をきっかけにエイジング加工の案件が増えていった、とのこと。まっさらな木材が時を経て纏うことのできる深みのある色合いや表情、ちょっとした傷やへこみなど、使い込んだ風合いを見せるエイジングの魅力。ほぼ独学でその再現技術を一からつくり上げていったそうです。

サンダー、ワイヤーブラシ、電気のこぎり、バール、果ては鉄筋や包丁まで。木の表面にさまざまな傷や打痕といった表情をつけるため、ありとあらゆる道具を駆使しています。

「エイジングってやり過ぎるとテーマパークの演出のようになってしまう。『エイジングはさりげなく、存在感が出過ぎないのがいい』と、以前あるデザイナーさんが教えてくださったんです」と小久保さん。一つひとつの現場で優れたデザイナーや設計者と出会った経験が、技術や感覚を磨くきっかけになったそう。

「僕らの仕事は床材を使った絵描き」とも表現します。人の手で床材一枚一枚に自然な経年変化の表情を施す作業は、試行錯誤の連続だったそう。たとえば傷の付け方。ランダムに叩いているつもりでも、同じ人間が作業をすると、すべての床材のほぼ同じ位置に傷が付いてしまい、不自然な仕上がりになってしまう。そのような経験を踏まえて、複数の担当者でのこぎりや鉄筋といった道具をさまざまに変えながら加工するなど、さまざまな工夫を重ねているようです。

工房2階のサンプルラボ。デザイナーや設計者からの依頼を受け、サンプルを制作するスペースです。担当は営業スタッフの役割だそう。塗料や塗装方法、加工方法を試行錯誤し、日々新作がつくり出されます。
「体育館の床のような表情に」というオーダーに応えるためのサンプルを制作中。使い込んだ床を表現するための傷や歪みの入り具合、仕上げ塗装の微妙な艶や色味などを、何枚も調整していました。

「西海岸のビーチの小屋のように」「体育館の床の雰囲気を再現してほしい」など、デザイナーや設計者から寄せられるユニークなお題に応えてきたティンバークルー。

オーダーを受けると、まず営業スタッフが工房2階のサンプルラボでイメージに合わせてサンプルを製作。クライアントであるデザイナーが納得し、実際に発注を受けたら、3階の塗装・仕上げのフロアで製作に入ります。想像力を総動員してつくり上げるエイジングのノウハウは、10年間の数々の現場の経験から編み出された宝物といえるでしょう。もちろんエイジングだけでなく、挽き板や突き板を寄木細工のように一枚の板に貼り合わせた床材「パーケット」の製作や、微妙な調色の提案などもティンバークルーが得意とするところです。

「商業空間の床は流行に左右されます。いま流行りのグレーは、実は綺麗に発色させるのがすごく難しいのですが、僕たちは微妙な色合いのさじ加減を経験しています。グレーの塗装依頼はすごく増えていますね」。デザイナーの求めるデリケートな空気感や表情を実現させる技術の高さが、ティンバークルーの最大の特徴でしょう。

人気のヘリンボーンの床材サンプル。手前は直角に交わった床材をニシンの骨のように重ねていく英国式。後ろは留め(45度)に交わったフランス式。どちらもエイジング加工済み。
ティンバークルーが製作したオリジナルパーケット「AMU」シリーズの03。床全体に施工すると、全体がつながっているように見える独特のモチーフ。

味わいのある木を見逃さず、器や家具に活かしていく。

地下1階は店舗什器や家具用の木材をカットし、組み立て、サンダーをかけて塗装するスペースです。
小久保さんが引き取ったポプラのコブ。使いづらいといわれてきた個性の強い木材でも、デザイナーや設計者と仕事を重ねてきたからこそ、可能性を広げたり提案できます。
市場での価値が低くても、見捨てられず引き取った皮目材の数々。「什器や家具として作品をつくり、多くの人に木の面白さを知ってもらう機会をつくりたい」と小久保さん。

最近ティンバークルーが力を入れているのが、独自の視点によるプロダクト製作です。商業空間の床材や、レストランのテーブルをはじめとする什器の製作を数多く手がけるうちに、仕入れ先で個性的な素材に出合うことも増えてきました。たとえばゴツゴツとコブが浮き出たクスノキの大木の切り株、銘木の大きな板材、木の皮が付いた耳付きの端材、芯の良材だけ取られた丸太の残りの皮目材など、各地で引き取り手のなくなった木材。一般的には表情にアクがあって、プロダクトとして加工しづらいために見向きもされないものですが、それらに魅力を感じ、少しずつ集めてローテーブルを試作したり、カウンターの天板として活用したり。広葉樹を中心に、ティンバークルーのオリジナルプロダクトとして加工し、発表し始めています。

クラロウォールナット材でつくった、厚みのあるカッティングボード。銀色の部分は、金属粉を混ぜたパテを割れ目に埋めた箇所。食品対応のワックスで仕上げているので、フードプレートとしても使えます。
節や木目に合わせてくりぬいたりそぎ落としたりしてつくったオリジナルのプラントカバーやボウル。土を手びねりしてつくったような温かみのある形状。プラントカバーは、落としを入れてフラワーベースとして使っても魅力的。

広葉樹の板材に節や割れがあれば、金属の粉を混ぜたパテで埋めて、表情のあるカッティングボードに加工。大きくて個性的な形状であっても、そのフォルムを活かしてプラントカバーに。均一ではなく扱いづらいという理由で有効活用されてこなかった表情豊かな木材を身近な生活まわりの小物に落とし込んだプロダクトとして活かそうと、「THINK GREEN PRODUCE」の関口正人さんと協業し、「WOODEN」というブランド名で販売する予定です。インテリアの素材だけでなくプロダクトへと広がって、ティンバークルーの新たな取り組みが始まっています。

ユーモアを感じさせる、ティンバークルーの感性。

工房と連結したショールーム。パーケットやヘリンボーンなどの床材、プラントカバーやボウルなどのプロダクトが並びます。

工房やスタッフの雰囲気に惹かれたり、フットサルチーム同士の飲み会で意気投合したり。ここに集まってきた男性たちは、木工の未経験者がほとんどです。けれども「みんな基本的に道具を手にしてなにかしらつくるのが好きなんですよ。僕にしても、子供のころに秘密基地をつくっていた延長線上で仕事をしているようなもの。表現というよりも、身体を動かしている感覚です」と小久保さん。働く時は働き、遊ぶ時はとことん遊ぶのがモットー。現場に行く時のペインターパンツにシャツ、職場でのTシャツと、スタッフのユニフォームはオリジナルでつくったもの。ワークスペースのデザインやスタイルも、好きなものを大切にしてきたら、同じ感覚をもつスタッフが自然と集まってきたそう。こうした感覚をともにして育ってきた集団だからこそ、微妙なニュアンスやセンスを必要とするデザイナーとも共通言語をもつことができるのかもしれません。

スタッフのモチベーションと感覚をチューンナップする、大切なユニフォーム。夏から冬まであらゆる現場に対応できるアイテムをオリジナルでつくっています。現場で「おしゃれ大工」と呼ばれることも。
ティンバークルーのメンバーを描いたイラスト。ニューヨークのロックフェラーセンターを建築中の職人が鋼材に腰かけた、有名な写真を彷彿とさせます。このように工場のあちこちにちょっとしたユーモアを感じるアイテムが。

デザイナーや設計者との仕事が中心であることに変わりませんが、一般のカスタマーにも自分たちの仕事を発信し始めたティンバークルー。その一貫がピザ箱のパッケージに入れた、ユーモラスなサンプルボックスの発送サービスです。また、樹種や塗装、デザインによって、さまざまな木の表情を楽しめることを知ってもらうためにも、今後はショールームで木の質感に触れてもらう機会をつくることも検討しています。

プリントされた木とは異なり、厚みのある木そのものだから引き出せる深みや奥行きがあること。また生きている素材の心地よさと同時に、季節による温度や湿度の変化で痩せたり広がったりする特性も知ってほしい。均一ではなく変化があるから面白い、そんな木の魅力にぜひ触れてみてください。

オリジナルエイジング加工した長尺の「ヴィンテージオークフローリング」のサンプルを、希望者に送るサービスも始めています。基材にオークの3㎜厚の挽き板を貼っているので、素足で木の質感を感じられるし、土足での耐久性も十分。幅189㎜、126㎜、63㎜の3種類を展開。着色も可能。

問い合わせ先/ティンバークルー
TEL:042-444-2748
www.timbercrew.co.jp

名だたるプロが“ここぞの仕事”で頼りにする、気鋭の木材加工集団「ティンバークルー」とは。

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