パリ18区、アーティスト自身の住居兼アトリエを改装した美術館で、パリを代表するクチュリエの一つ「バレンシアガ」の作品と彫刻を対比させる、興味深い展示が行われています。

パリ15区にある「ブールデル美術館」で7月16日まで開催中の「Balenciaga, l’oeuvre au noir(バレンシアガ、黒の作品展)」展。「クチュリエの中のクチュリエ」と称された偉大なファッションデザイナーの作品がアントワーヌ・ブールデルの彫刻とともに展示される、ユニークで特別な展示をレポートします。
国民的彫刻家の作品に、バレンシアガの「黒」が並ぶ。

この展覧会は、モードの歴史やファッションを専門とするパリ市立ガリエラ博物館の協力で開かれているもの。ガリエラ博物館は今年、スペインをテーマにした3つの連続した展覧会を企画しており、スペイン出身のバレンシアガの個展はその最初のもの。6月21日から9月24日まではヴィクトル・ユゴー記念館で「Costumes espagnols entre ombre et lumière"(スペインの服、影と光と展)」が、10月4日から2018年1月7日まではガリエラ博物館で「Mariano Fortuny(マリアノ・フォルトゥニー展)」が行われることとなっています。
クリストバル・バレンシアガは1895年、スペイン・バスク地方の生まれ。1917年にスペインのサン・セバスチャンに最初の店をオープンさせ、後にマドリードとバルセロナにブティックを開きます。顧客リストにはスペイン王室や貴族が名を連ねるなど若くして成功を収めましたが、スペイン内戦のためスペインの店舗は閉鎖、37年にパリにクチュールメゾンを開きます。これ以降、メゾンはパリを拠点としていました。

展覧会のテーマである「黒」は、バレンシアガが幼年期を過ごしたスペインの民俗や伝統からインスピレーションを得た色です。卓越した技術を駆使してつくられたバルーンドレス、ゆったりしたウエストのスーツ、チュニックドレス、サックドレスなどさまざまなシルエットの服は黒という色によって禁欲的な空気を纏います。バレンシアガの服に漂う僧のような雰囲気をさして、ディオールはこう言いました。「彼にとって服は宗教だったのだ」と。

展示は「シルエットとボリューム」「黒と光」「黒と色彩」のセクションに分かれています。バレンシアガにとって黒は色彩を超えたものであり、「非色彩」ともいえるものでした。素材が透明か不透明か、艶消しか艶ありかによって微妙に表情を変え、光と戯れます。黒いレースやドレープのハイライトに宿るかすかな光はとても魅惑的。黒はじつに多彩な顔をもつ色なのです。
会話を楽しむかのように、交じり合うふたりの世界。

会場のブールデル美術館はフランスの国民的彫刻家、アントワーヌ・ブールデルの個人美術館。彼が24歳から亡くなるまで住居兼アトリエとして使っていた建物を美術館として公開しています。ブールデルの没後、1961年にグランドホールが、92年にフランスの建築家、クリスチャン・ポルザンパルクによって展示棟が増築されました。庭やテラスにもブールデルの彫刻が置かれています。

会場にはバレンシアガの服とブールデルの彫刻が並んで独特の空気が流れます。面白いのは黒い背景や黒い箱の前や中にバレンシアガの黒い服をディスプレイしていること。目をこらして見ると黒の微細な質感が浮かび上がります。わずかな陰影に注意を向ける仕掛けです。ブールデルが使っていた棚にヘッドドレスが置かれていることも。作品を通してふたりが会話を交わしているようです。

服と彫刻には共通するものが多くあります。ともに美しいプロポーションが調和を、素材の選択が動きを生み出します。一方で彫刻は人間の肉体をそのまま型取り、服は身体をさまざまに変形します。異なるジャンルの造形が出合って普段とは違う緊張感が生まれる展覧会です。

協力:フランス観光開発機構 http://jp.france.fr
パリ観光会議局 http://ja.parisinfo.com
パリ・イル・ド・フランス地方観光局 www.visitparisregion.com
Balenciaga, l’oeuvre au noir(バレンシアガ、黒の作品展)
会期:〜7月16日
会場:Musée Bourdelle(ブールデル美術館)
住所:18, rue Antoine Bourdelle75015 Paris
TEL:+33-1-49-54-73-73
開館時間:10時〜18時
休館日:月曜、祝日
入場料:10ユーロ(一般)
www.bourdelle.paris.fr/en