ライアン・ガンダーからシロクマの剥製まで、片山正通さんの感性を育んだ“ショッピング遍歴”をたどる展覧会が圧巻です。

  • 写真:永井泰史
  • 文:山田泰巨

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6月25日まで、東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている「片山正通的百科全書 Life is hard... Let's go shopping.」展。混沌と言えるほどに多様なアイテムが並ぶその様子を、ぜひ目撃してください。

ミッドセンチュリー家具の部屋で、ジャン・プルーヴェのデスクに座る片山さん。

日本はもとより、世界的にも注目を集めるインテリアデザイン事務所、ワンダーウォールを主宰する片山正通さん。ユニクロやレクサス、サムスン、ピエール・エルメといった著名なブランドや、NIGO®氏など世界的なクリエイターをクライアントとして、その世界観を共有しつつ空間のコンセプトを構築することで、唯一無二の場を創造してきました。

プロジェクトごとに多様な空間を生みだしてきた片山さんに大きなインスピレーションを与えているのは、さまざまな人や「作品」との出会いだといいます。6月25日まで東京オペラシティ アートギャラリーで開催される「片山正通的百科全書 Life is hard... Let's go shopping.」展では、現代アートや骨董、家具、剥製、多肉植物、書籍、CDまで、多種多様なアイテムで作られる美しい混沌に触れることができます。自身のコレクションに改めて向き合った片山さんとともに展覧会をのぞいてみましょう。

アート作品からガラクタまで、オフィスから大移動。愛するモノが会場を埋め尽くします。

片山さんが今まで世界各地で集めてきた書籍。ここから片山さんの思考の片鱗が読み解けるかも。
約8000枚のCDが陳列されたエリアでは、ロックの名盤からアイドルまでが揃い、片山さんの趣味の幅の広さが伺えます。

まず来場者を迎えるのが、片山さんが普段仕事でも使っている大量の書籍のコレクションです。背表紙のタイトルを追うだけでもかなりの時間を要しますが、書籍の好みはまさにその人の歩みを映し出すもの。片山さんの辿ってきた時間も垣間見ることができます。「好奇心が強くていまも本を買い集めてしまいます。すでに絶版の貴重な資料も多いんです」と片山さんは言います。

次に続くのがCDのエリア。いくつかのCDはジャケットの正面が見えるように配置され、スピーカーからはそのアルバムの楽曲が流れています。おそらくPen読者の世代の多くが会場で目を奪われるのは、オアシスのセカンド・アルバム『モーニング・グローリー』ではないでしょうか。1曲目に収録された『ワンダーウォール』に片山さんのオフィスの名前のルーツを知ることができる、かと思うと実は少し事情が違うようです。

「オアシスは大好きですが、会社名は具体的な何かから引用して名前を付けたわけではないんです。スティービー・ワンダーのワンダーという音が良いなというのはありましたが、他にもジョージ・ハリスンがサントラを担当した映画『ワンダーウォール』もありますし、いまとなっては答えをひとつに絞るのは難しいですね(笑)」と、片山さん。彼を魅了してきたいくつもの要素が、複合的に重なり合って社名になっているそうです。

ワンダーウォールのオフィスの屋上と地下にある多肉植物のガーデンを手がけた、広島の植物店「叢(くさむら)」の植物たち。同じ部屋には、リカルダ・ロッガンの木々をモチーフにした作品「Baumstück 6」が。
「人と動物」をテーマにした複数の部屋では、ドナルド・マクドナルドの人形とともにさまざまな作品が並びます。

多肉植物のエリアでは、「叢(くさむら)」の小田康平さんによるワンダーウォールの屋上ガーデンの雰囲気を再現する植物が並びます。その奥にはドイツの写真家、リカルダ・ロッガンによる写真作品が展示され、その先にテリー・リチャードソン、反対の壁面に金子國義とバリー・マッギーが展示されています。このように片山さんの視点を通して、作品が編集、レイアウトされているのが本展の醍醐味。今回、片山さんがあらためて自身の所有する作品をまとめて見渡したとき、本展のアドバイザリーを務める現代アートギャラリー「TARO NASU」の那須太郎さんに「人と動物の作品が多い」ことを指摘されて、独自の分類方法にて展示をすることに決めたそうです。

本展は17の部屋で構成され、それらをつなぐ空間にも展示があります。膨大な数のコレクションは、片山さんは20代の頃から少しずつ購入し、本格的にコレクションを始めたのはこの10年くらいといいます。そんな片山さんにとってアートとは「自分を驚かせてくれるもの」だそう。

展示準備の合間をぬってインタビューに答えてくれた片山さん。
正面奥はエイドリアン・ゲーニーの作品。ジョージェ・オズボルトが片山さんを描いたユニークな肖像画も必見。

「僕にとって、いい作品とは自分に驚きを与えてくれるものですね。作品を見るときは、既成概念にとらわれず自分の直感を信じるようにしています。あらためて見渡すと、新旧問わずさまざまな作家の作品を集めてきたことがわかりました」

エイドリアン・ゲーニーは、購入後に評価が高まった作家のひとり。「実は携帯の画面で作品を見ただけで購入を決めてしまいました」と片山さん。

「彼の作品はダークな部分とチャーミングな部分を併せもっていて、そうした二面性が惹かれる理由のひとつですね。誰もが認めるものというより、自分に響くか響かないかというのがアート作品全般の僕の判断基準。響いたときには自分が作品を引き受けていく楽しさがあります」

「ジャンルにとらわれることなく、感性を揺さぶられる体験を大切にしたい」

巨大なシロクマの剥製とともに笑顔を見せてくれた片山さん。
大小の動物の剥製とともに並ぶのは、大竹利絵子さんによる2mを超える巨大な木彫作品。

次に片山さんが案内してくれたのは巨大なシロクマの剥製のあるエリア。

「動物の剥製を見ていると、自然が生み出す造形に驚きを覚えると同時にデザイナーとして自然の造形美や迫力に嫉妬します。アートも同じで、人間の思考のもつ凶暴性やグロテスクな側面を知ることで自分では意識することのなかった感覚を見出すことがあります」

会場構成にも、インテリアデザイナーの視点とコレクターの視点が入り混じった片山さんらしい複眼的な考察がみられます。ブラック&ホワイトと名づけられた部屋にはモノクロ写真を展示。オルタナティヴ・ロックバンドのダイナソージュニアの『グリーンマインド』のジャケットに使われたジョセフ・サボの写真「プリシラ」のプリントとともに、ラリー・クラークの写真集『タルサ』の表紙に使われた写真のプリントも展示されています。さらにジョージ・ネルソンが撮影したモノクロ写真など、アートとサブカルチャー、音楽とデザインなどジャンルを横断した作品が並びます。

ブラック&ホワイトをテーマに、モノクロ写真を集めた部屋には、さまざまなジャンルを横断した作品が並びます。
片山さんが「作品の緻密さに心奪われる」と話すのが、松江泰治の作品。写真作品に加え、モニターを使った作品も展示します。

「僕の好きなものを単純にまとめるのではなく、コレクション全体をどう分類して見せるかを強く意識しました。一見文脈の異なる作品同士が、並びあうことで別の文脈でつながることもありますから。また、あえて作家ごとにまとめてはいないので、同じ作家が別の部屋で再び登場することもあります。こういう展示のしかたは、僕が特定の作家に焦点を絞るのではなく、あくまで作品単位で購入を決めてきたからできるのかな、と思います」

上海で個展を開催中のKAWSとは、アトリエの設計を手がけるなど公私ともに親しい片山さん。なかには個人的にプレゼントされた作品も含まれています。
骨董やガラクタの数々が置かれた部屋。時を経たモノに魅力を感じるのは、デザイナーがつくることのできない歴史が美しさに加わっているからなのかもしれません。
片山さんが愛するミッドセンチュリー家具の部屋は、ジャン・プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレなどフランスのデザイナーたちのマスターピースが中心。

片山さん独自の編集スタイルは、展示の随所に生きています。アート作品のなかに、親しい友人でもあるサカナクション・山口一郎さんによるインスタレーション作品や山口さん旧蔵のギターがあると思えば、アンティークのアイテムを展示した部屋もあります。

「骨董とまではいいませんが、以前から古いものを集めるのが好きなんです。そしてこの部屋では、人生の師ともいえるアートディレクターの故・渡邊かをるさんが僕に残してくれた貴重な手帳も展示しています。彼が資料をスクラップしていたこの手帳は、洋書の切り抜き、シガーのリングなどさまざまなイメージの集積ですが、ページをめくると彼の考えていたことが立ち現われてくる。ひとりの人が人生においてどれだけ深みをもつことができるのか、彼はそれを教えてくれた人なんです」

「人との出会いを通じた物語を得ることで、モノは輝きをもち始めるのです」

2015年に東京オペラシティアートギャラリーで大規模な個展を行ったことも記憶に新しいサイモン・フジワラによる作品。彼を「チャーミングな嘘つき」と片山さんは評します。
写真中央に見える壁面には、河原温の作品と、そのコンセプトにインスパイアされた別作家の作品を並べて展示します。

大胆な視点で展開するこの展示のなかでもクライマックスとして位置づけられるのが、コンセプチュアル・アートの部屋です。ライアン・ガンダーとサイモン・フジワラを中心に、河原温や村上隆、そして若い作家の作品も展示されています。

「知るほどに好きになるのがコンセプチュアル・アート。初見ではわからなくても、時間をかけて深く掘り下げ、魅力を見出す楽しさがあります。展覧会に来ていただいたみなさんには、これらのコンセプチュアル・アートを見る前と後とでは気持ちが大きく変わる体験をしていただきたいですね。頭をやわらかくして、新しい価値観や視点を持ち帰ってもらいたいです」

現代アートの魅力は次なる価値観に向かおうとしているところにある、と片山さん。時にこれまでのルールを壊し、何を信じるのか自分に判断を迫られるような作品はこれから歩むであろう人生を揺さぶってくれるといいます。なかでもライアン・ガンダーは片山さんにとって特別な存在であると明言します。

「ライアンの作品も当初はよくわかりませんでした。けれど簡単に理解できないからこそ面白いし、所有することで作品の意味を考えてみたいんですね。彼の作品を見続けていると、意外なもの同士の緩やかな関係性が見えたかと思えば、次の瞬間に関係性が分断されることがある。また、見る側の意識の違いで作品がとてつもない広がりをもつこともある。そんな経験を重ねるうちに、どんどん作品を読み解くことが楽しくなっていって」

会場に展示されるライアン・ガンダーの作品のひとつ、Alchemy Box(錬金術の箱)と呼ばれる箱は、キャプションを読むと、中に封筒やガラスなどが入っているとされていますが、果たして本当に入っているかはわかりません。また同じ中身の箱がサンフランシスコ郊外に埋められており、その埋められた場所の写真作品が並べて展示されています。この箱の価値は一体何なのか。そしてこの箱の中身を確かめようと開封した時に、作品の価値はどうなるのか。この作品に「人生ってまさに、あらゆる可能性に満ちているということを僕は感じます」と片山さんは言います。

ライアン・ガンダーによる、リートフェルトの椅子の組み立てキットを使った作品について語る片山さん。
壁面左の写真と中央の黒い物体がAlchemy Box(錬金術の箱)と呼ばれる箱。果たしてこの中身は説明どおりのものが入っているのでしょうか。それとも…

いまではライアン・ガンダーと個人的な交流をもつ片山さん。人との出会いが強く思い出に刻まれたというエピソードを話してくれました。

まずはライアンに出会うはるか昔、片山さんが独立後最初の仕事となった鎌倉のバー「ザ・バンク」を設計したときのこと。クライアントは前述の恩師である故・渡邊かをるさんで、片山さんはこの仕事で設計料は受け取れないと考えていたといいます。しかし完成したバーをとても気に入ってくれた渡邊さんは、自身の持ち物からなんでも欲しいものをひとつ譲ると言ってくれたそう。片山さんは断るつもりで、渡邊さんが大切にしていた腕時計が欲しいと口にしました。当然断られるだろうと思っていた片山さんでしたが、渡邊さんはそれを片山さんにプレゼントしてくれたと言います。

このエピソードには続きがあります。後にライアンに腕時計(渡邊さんから譲り受けたものとは別の時計)を褒められた片山さんは渡邊さん同様、大切な友人としてその場で時計をプレゼントしたそう。その好意に感動したライアンは、今度は片山さんに自身の作品をプレゼント。片山さんはまたも特別なギフトを手に入れたのです。ちなみに、ライアンはその後片山さんからもらった腕時計から作品を作り上げたのですが、それも今回展示されています。

「モノはやはりただのモノにすぎません。でもストーリーがあることで、お金には代えることの出来ない価値と魅力が生まれるんですね」

ライアン・ガンダーは現在、大阪の国立国際美術館で個展を開催中。片山さんのコレクションと大阪の展示、ともに見逃せません。

「今回の展示を考える上で、片山正通という人間をサンプリングするならショッピングという視点が必要だと思ったんです。というのも僕は、ミニマリストに憧れることもありつつ実際はモノに囲まれた中で過ごしているんですが、ある日モノであふれかえった僕の机に座った佐藤可士和さんが楽しいと言ってくれたんです。だから、いろいろなモノを買い集めるのも悪くはないのかな、と。また、モノだけでなく、人との出会いも僕という人間を形づくってきました。これまで仕事をしてきてたくさんの人に出会いましたが、いろいろな刺激をもらったり、また僕が何か刺激を与える立場だったりというのを繰り返すなかで、僕も少しずつ変化してきた。異なる知識と経験がぶつかり合って新しい思考が生まれるのは、本当に面白いですよね。だからいつも、混沌から生まれるリアリティを追求したいという思いがあります。それも、この展覧会に表れているかもしれません」

濃密な会場の最後では、福助人形が片山さんに代わってお辞儀します。

「いろいろと格好をつけましたが、格好をつけたまま終わっては居心地が悪い。だからこの福助人形です。表情をよく見て下さい。変な顔をしていますから(笑)。ここで現実に戻って展示は終わりますが、ぜひ何度も来場していただき見て回って欲しいですね。回を追うごとに別の見方が出てくるところも魅力じゃないかなと思っています」

「片山正通的百科全書 Life is hard... Let's go shopping.」

開催期間:~6月25日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2]
開館時間:11時〜19時(金・土は11時〜20時)
休館日:月曜日
入場料:一般 ¥1,200

http://www.operacity.jp/ag/exh196/

ライアン・ガンダーからシロクマの剥製まで、片山正通さんの感性を育んだ“ショッピング遍歴”をたどる展覧会が圧巻です。

  • 写真:永井泰史
  • 文:山田泰巨

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