語れる服 Vol.13 : さりげなくファッションになじむ気鋭のアイウェアブランド「ayame(アヤメ)」。設立した今泉 悠さんによるデザイン解説と、アイウェア業界への提言をお届けします。
今回の語れる服 Vol.13にご登場いただいたのは、アイウェア業界で働いた経験がないまま、2010年に自身のブランド「ayame(アヤメ)」を立ち上げた今泉 悠さん。
彼にうかがった話のテーマは主に2つ。1つは、セレブリティからファッションピープルまでを魅了するアイウェアのデザインの秘密について。彼が手がける上品で繊細な製品には、どんな工夫があるのでしょうか? そして、もう1つの内容は、彼が考える日本のアイウェア業界における製造や流通システムの改善点です。たった一人で鯖江市の工場とやり取りし、生産も卸し営業も担ってきた今泉さんが日頃感じている思いを、素直な言葉で語っていただきました。小さな独立ブランドでも、オリジナリティのある製品を生み出せるインフラの整備を望む彼の貴重な体験談は、一読の価値アリです。
やれる技術を惜しみなく注いで。
まずはアイウェアに秘められたデザインポイントをひも解いていきましょう。現在のファッション傾向にフィットするモデル2型から。
2016年の春夏モデル、「FOUFOU」。近頃のトレンドといえるクラシックなラウンド型をアヤメ流にアレンジさせ、現代のアイウェアであることをさりげなく示しています。
「『合口(あいくち)』と呼ばれるヒンジ部分を装飾したくて、でもそればかりが特徴的に目立つようにはしたくありませんでした」と、今泉さん。
「人の横顔って大事だな、と思ったんです。そのためにヒンジを工夫して、透け感のあるフレームと調和する合口にしました。フレームのツートーンの色は、笹柄の『墨流し』という日本らしい技法を用いています。兵庫県にある工場でつくっていただいています。肌に合う色ですから、悪目立ちすることなくかける人に馴染むと思います」
続いてご紹介するのは、超軽量&高度な技巧にこだわったメタルフレームモデルです。
究極にシンプルといえる「MANRAY(マンレイ)」も、アヤメらしいこだわりが満載。
「とにかく最軽量に挑戦したかったんですね。かけていないようでかけているものを。世の中にはこれより軽量な製品もあるでしょうが、アヤメでは一番軽いモデルです。オールチタンで、ブリッジとノーズが一体型になっています。この名称をメガネ業界では『マンレイ山』と呼ぶため、そこからネーミングしました。フレームを捻ることで独特のニュアンスを出しています。このモデルは、真鍮製などのヴィンテージを自分の中で消化しつつ、いまの技術でどこまでやれるかを目指した一本です。歴史の中で支持されてきたクラシックから学びつつ、アヤメらしい落とし込みにしています」
次ページは、日差しの強い夏にぴったりのサングラスです。
威圧感のないサングラスを。
サングラスとして展開しているモデル2型を見ていきましょう。どちらも、人に威圧感を与えないアヤメ流のデザイン思想に基づいた工夫があります。
「KORO」は、歴史的な定番のウェリントン型をベースにした太いフレームが特長。かけたときに人に好印象を与えることに配慮したデザインは、かつてヘアサロンに勤務してヘアメークを手がけていた今泉さんならでは。
「サングラスをかけた姿が人に忌み嫌われる理由は、威圧感があるからだと思うんですね。このKOROはエッジを丸くして印象を和らげています。ブランドスタートから2シーズン目で出したこれはアヤメのベストセラーになりまして、女性にもすごく人気です」
「エッジや接合部(合口)のなめらかさは、研磨による仕上げによるもの。磨きはメガネづくりでのオリジナリティの表現において最重要と言っていい工程です。工場による得意、不得意の違いも表れてきます。海外のメガネでは合口に段差があるケースが多いですが、アヤメがなめらかなのは鯖江市の工場の職人さんの高度な技術があればこそです」
「セルフレームにメタルフレームを加えた『GENERAL』というコンビモデルがあります。これを5年ほど前に初めてつくったのですが、実はそのデザイン段階で、卸し先のお店とのやり取りで困ったことがありました」
いったい何があったのでしょうか?
「いまでは市場全体ですっかり人気になったメタル使いですが、当時は評価が低かったんです。お店にコンビデザインの話をしたら、『あまり売れてないから興味ないですね』『メタルのテンプルは調整しにくいからイヤ』、と言われてしまいました。でもつくってみたら、市場にメタルフレームがどっとあふれて流行の兆しを見せていた。店舗に面白がっていただけないのは、つくり手にしてみると本当に残念なことです。実はアイウェアって、製造するのに高いハードルがありまして……」
アイウェア業界における、さまざまな疑問点を語るこの続きは最終ページにて。
新規参入が難しい日本のアイウェア業界。
独学でアイウェアの絵を描き、鯖江市の工場の門を叩くことからスタートした今泉さんのデザイン活動は困難の連続でした。
「『メガネのデザインなら僕にもできる!』と思ったんですよね。ヘアメークの仕事をしていたから同じ感覚でメガネをつくれる自信がありました。でも鯖江市に初めて足を運んでから、ブランドを設立するまで5年ほど掛かってしまいました」
その原因として、工場の生産ロットや、眼鏡店との取引の仕方がありました。
「工場から、『先に数量くれないとサンプルつくれないよ』、と言われました。その生産ロットは、当時の僕ではつくれないほどの数量でした。つまりつくり手の我々は、在庫リスクを回避するためにマーケティングして確実に売れるデザインをしないといけない。だから面白いデザインが生まれにくい。さらに日本は、リテーラーの力が強いのです。メガネのセレクトショップでも、地方店だと買い付けるメガネは、一型につき一本だけ。それが売れたら、再び一本を追加オーダーするシステム。皆さんに諸事情があるのはわかっていますが、この体制だと、常に在庫を抱えてすべてのリスクを背負うブランドが疲弊してしまいます」
日本において、小規模でも自由にモノづくりをすることはできるでしょうか?
「それは可能だと思います。メガネのセレクトショップでも、デザインする側への理解があって、本数を買い付けてくださる方もいます。最近では鯖江市の工場で、『少量の生産ロットで、受注生産でいい』、と言ってくれるところに出会いました。コストは割高になりますが、彼らと一緒に実験的なデザインのラインをつくってみようか、と考えているところです」
新風をもたらすクリエイティブな挑戦に多くの人が興味を示すことが、アイウェア業界全体の発展と、アイウェア好きの人を増やす結果につながるのかもしれません。
「僕は人の顔だけを考えてメガネをデザインすることはしません。ファッション傾向や、使うTPOに合わせたメガネのあり方を常に意識しています。僕は素人だったから、『なぜこれができないの?』という疑問をもってこの業界に参入しました。夢は自分の工場をもつこと。ちゃんとした仕組みをつくってインフラを整備することが業界全体の底上げになると思う。鯖江市で生産されるメガネ全体は、国内の販売本数で見れば過去の時代よりも大幅に減少してるんですよね。このままではいけない、もったいないという危惧を抱いています」
プロダクトだけが自己主張しないように、かける人の一部になる絶妙なバランスのアイウェアを追求し続ける今泉さん。そのデザインにも通じる温和で穏やかなムードの持ち主です。ですが、内側に熱い闘志を秘めた人でもあります。既にアヤメのファンの人もそうでない人も、今後の彼の活動にぜひご注目ください。(高橋一史)
今泉 悠
Yu Imaizumi
ヘアサロンでのヘアメーク経験を経て、2010年に自身のアイウェアブランド「ayame」をスタート。ブランド名は、出身地・茨城県潮来市のシンボルの花であるアヤメと、「目を彩る=彩目(あやめ)」という想いのダブルミーニング。アイウェア専門セレクトショップのみならず、好感度なファッションのセレクトショップでの展開も広がっている。
問い合わせ先:ayame TEL03-6455-1103
www.ayame-id.jp