「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の服を徹底解説。

  • 写真:永井泰史
  • 構成・文:高橋一史

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6月13日(月)まで国立新美術館(東京・六本木)で開催されている衣服デザイナー・三宅一生さんの大規模展覧会。そこに息づくデザインの方法論を解き明かします。

布と服の境界線がない服。

美術ジャンルの一つに、「コンセプチュアル・アート」があります。作品が内包する意味や、つくられた過程、“概念” といったものに目を向けることで理解できる、目に映る作品の印象だけでは価値を判断しづらいアートです。

衣服デザイナー、三宅一生さんの50年近くに及ぶ活動の中で生み出されてきた服にも、同様の論理的な考え方があります。たとえば、複雑な構造に見える服が実は一枚の布でつくられていたり、立体的な服なのに畳むとまっ平らになったり、コンピューター・プログラミングされたマシンで工業的に製造されていたり。どの服もコンセプトに基づいていることに気づくと、美術関係者に三宅さんデザインのファンが多い理由の一端が見えてくるでしょう。

コンセプトに基づいた服づくりの一方で、人々の生活に役立つ機能性や快適さが、着る人の目線で考えられていることも見逃せません。機能する服であることが、まさしく“デザイン”なのです。

三宅一生さん(イッセイミヤケ)、川久保玲さん(コム デ ギャルソン)、山本耀司さん(ヨウジヤマモト)の “御三家” と呼ばれた日本人ファッションデザイナーは、70~80年代に欧米に進出し、前衛的な表現で人々を唸らせました。西洋の服づくりは布を細かく裁断して縫い合わせ、人の肉体を強調する彫刻のごとく “構築的” なものですが、それに対し、着崩したように体と布の間に隙間をもたせた日本の “非構築的” な服は、驚きをもって世界に迎え入れられ新しい時代の息吹となりました。

「国立新美術館」(東京・六本木)で2016年6月13日(月)まで開催されている「MIYAKE ISSEY展:三宅一生の仕事」は、三宅さんの活動の集大成です。この記事では、展覧会を訪れる人の理解の手助けになるように、服の背景となる考え方を中心に解説していきます。

“一枚の布”の可能性を探った初期のデザイン

国立新美術館 企画展示室2Eのエントランスより。
コットンボディウェア「タトゥ」(71年春夏)。

会場に入ってすぐ目に飛び込むのは、ずらりと一列に服が並ぶ光景です。この部屋「ルームA」では初期のデザインが紹介されています。いちばん手前のボディウェアのタトゥー図案のモチーフは、ギタリストのジミ・ヘンドリックスと歌手のジャニス・ジョプリン。1970年に亡くなった二人の偉大なミュージシャンにオマージュを捧げたこの服は、「イッセイミヤケ」の初コレクションとしてニューヨークで発表された71年春夏のもの。注目すべきは、すでに身体と布のあり方が考えられ、三宅さんの発想が過去から現在まで一つの線につながっていることが見て取れる点です。

ウールのコクーン・コート(77年秋冬)。

「ルームA」の最後の展示が上写真の「コクーン・コート」。コクーン(繭)の名の通り、丸みのあるシルエットが特長的です。このコートがもつ大きな意味とは何でしょうか? それは、「一枚の布」の考え方でつくられていること。人が生まれたとき人生で最初に体が包まれるのは、一枚の布。裁断による布の無駄がなく生産性が高いのも、一枚の布。畳むと四角になる和服のベースも、一枚の布。極めて根源的な衣服のあり方であり、エコ・コンシャスでもあるこの布使いを、三宅さんは現在までずっと追い続けています。

「ルームA」では、柔道着でお馴染みの「刺し子」や、「正花木綿(しょうはなもめん)」といった日本古来の技法や素材が用いられた服もあります。異質な存在を好む欧米のモード界で当時、どのように受け入れられたか思いを馳せるのも一興でしょう。

ルームBでの「ボディ」シリーズ。

続く「ルームB」は、80年代を中心に、身体に焦点を当てた「ボディ」シリーズを展示した部屋。従来の服には用いられなかった、テクノロジーを応用した実験的な素材や造形が模索された時代を一望できます。「繊維強化プラスティック」を用いて人体をかたどったトップや、シリコンを染み込ませた布を手仕事で手繰り寄せてドレープをつくったトップなどを、ぜひ会場でご覧ください。

自由に姿を変えていく“布” 。

広い会場のルームC。

「ルームA」「ルームB」で、三宅一生さんの根底に流れる衣服デザインの考え方や手法を見てきた来場者が、三宅さんの膨大な仕事を一気に眺められるのが「ルームC」です。若いチームを率いての最新プロジェクトや、「イッセイミヤケ」と聞いて多くの人が思い浮かべるであろう「プリーツ」の服もこの部屋で紹介されています。

紳士服の芯地を使った「馬尾毛(バス)」(90年秋冬)。

上写真のジャケットとスカートは、「副資材」と呼ばれる、服の内側に隠されたパーツをメインの素材に使ったデザイン。透け感とハリのあるシルエットが美しいこの服の素材は、紳士服(ジャケット)のカタチを整えるための芯地に使われる、馬の尾の毛。服の構造をよく知り、さらに既成概念に囚われない自由な発想があるからこそ成し得た造形といえるでしょう。

絣模様のコットン生地を用いた「組みがすり」(中央)(85年秋冬)。

この展覧会では、民族的な衣装を彷彿させる服が多く、三宅さんの目線が世界中の多種多様な人々の営みに向いていることが分かります。革新的な技術の追求だけでなく、脈々と受け継がれてきた手仕事の良さも取り入れられています。上写真中央の青と白の服は、日本や東南アジアなどの伝統的な「絣(かすり)」技法によるもの。むら染めにした糸で織られ、白の部分が染められていない箇所になります。コートの前身頃と後ろ身頃は一枚の布でつくられています。この服にも、三宅さんの根底にある「一枚の布」の思想が込められています。

プリーツの「ワカメ・ドレス」(82年春夏)。

次ページではいよいよ、三宅さんのデザインを代表する「プリーツ」を取り上げます。その前に、独自のプリーツの技法が開発される以前の時代につくられたプリーツの服を見てみましょう(上写真)。布に熱加工でプリーツ(折り畳みひだ)をつけてから縫製したドレスです。プリーツの服がアイコニックな存在として確立されるまでには、さまざまな技術的な開発が行われているのです。

アイコニックな「プリーツ」が意味するもの。

服の形に縫製した後プリーツ加工した画期的な服「ハロー・プリーツ」(91年春夏)。

27年前に誕生した「製品プリーツ」は、三宅一生さんの仕事を代表するアイコニックな服です。技術の進歩に伴い、さまざまなアイテムに姿を変えて現在まで続いています。服づくりの点で革新的だったのは、いちど服の形に仕立ててからマシンを使い、プリーツの服を完成するというプロセス。ほかにない独自技術の誕生です。

着る人にとってもさまざまなメリットがあります。まず、ポリエステル布を加工したプリーツは、着続けて洗濯してもひだが消えることがありません。糸を使った縫製も最小限なので、ごわつきがなく柔らかい質感です。水洗いできて、濡れても素早く乾きます。クルッと丸めて収納できるため、旅行に持っていく服にもぴったりです。大量生産が可能であり、低コストでつくれて、多くの人が購入できる価格で提供できます。

これぞ、「ジーンズやTシャツのように自由に着られる服を生み出したい」と望んでいた、三宅さんの集大成。そしてこれもまた、ベースは「一枚の布」。現在この手法のプリーツは、「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ」をはじめとする複数のブランドで販売されています。

“一体成型の服” の展示。

三宅さんはシーズン毎に変化をアピールする、モード界の通常のシステムとは異なる立ち位置で活動してきました。社内でのチームワークも大切にしています。三宅デザイン事務所に95年に加わった藤原 大さんのアイデアをきっかけに、98年に発表した「A-POC(エイポック)」もチームによる開発で生まれたシリーズです。

「A-POC」はコンピューターを使って一体成型でつくった服の総称で、一枚の布(A piece Of Cloth)の頭文字が名前になりました。これは、服のカタチが編み込まれたチューブ状の生地がマシーンから出てきて、そこから服を切り出すというもの。原理的には、服のパーツが編まれた糸でつながっており、前身頃と後ろ身頃の2枚が重なっているので“縫う必要がない服”といえます。「A-POC」と呼ばれる服の中には、こうした一体成型の完成服だけでなく、服のパーツが織り込まれた生地がマシーンでつくられ、それを裁断、縫製するものもあります。たとえば織物であるデニムです。

上の写真のインスタレーションは造形作家、関口光太郎さんによる新聞紙とガムテープでつくられた作品と「A-POC」の手法によるジーンズ製造工程の一部を組み合わせたもので す。各パーツがコンピューターのプログラミングにより生地に織られており、この布からパーツを切り出して縫製するとジーンズになるという仕組み。仕立て職 人なら布に型紙を当てて手で線を描き、パーツを切り出すため熟練の業が必要ですが、その工程を大幅に省き布の無駄も最小限になり、大量生産できるのです。

展覧会は、布と服がつながったアートの不思議さを体感するだけでも十分に楽しめるでしょう。興味が湧いたら、もっと深く探っていけばいいのです。


平らに畳まれた状態から立体になる様子が展示されたドレス(2011年春夏)。

ルームCの出口付近に置かれているのが、2007年に誕生した研究・開発チーム、「リアリティ・ラボ(Reality Lab.)」による「132 5. ISSEY MIYAKE」。幾何学的なカタチに折り畳める、折り紙のような服です。再生ポリエステルを素材に使い、数学的なアルゴリズムに触発されたデザイン。畳んだ状態での美しさも計算された、一枚の布の考え方の服。もちろん、収納性の高さや持ち運びの容易さといった機能面も考慮されています。

ファッションは正解のないジャンルです。強いデザインの服を求める人もいれば、匿名性のある主張しない服を望む人もいます。未来的な素材が好きな人もいれば、環境や肌に優しいオーガニックな素材を好む人もいます。流行派もいれば、アンチトレンド派も。派手好み、地味好み、実にさまざまです。一つ確かなのは、“創造” は常に必要とされていること。「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」を訪れて、これまで親しんできたファッションとは違った世界が広がっていることに驚く人もいるでしょう。日本のファッションを世界に知らしめた黎明期から創造を続ける、三宅さんの活動を一望できるまたとないこのチャンスをどうぞお見逃しなく。(高橋一史)

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」

会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
開催期間:2016年3月16日(水)~6月13日(月)
開館時間:10時~18時 金曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜日
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
2016.miyakeissey.org

「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の服を徹底解説。

  • 写真:永井泰史
  • 構成・文:高橋一史

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