「ASASHI BARBER」、ロンドンにオープンしました!

  • 写真:山内ミキ
  • 文:坂本みゆき
Share:

人気ヘアアーティストASASHIさんが、ロンドンで自分の店を開きました。
内装も自分たちの手でじっくりと仕上げたというその店へ、Pen Onlineはさっそく訪れました!

原点は、子どもの頃に通った“床屋”。

ASASHIさんが渡英したのは、20代の終わりの頃。「ストリートカルチャーが魅力的だった」というロンドンで、セッションアーティストとしてのキャリアをスタート。滞在10年目を迎え、数々の現場を多忙にこなすようになった頃から、自分の店をもつことを意識し始めたそうです。

「僕の原点は子どもの頃に通っていた床屋。その雰囲気や匂いが大好きだったから美容師になることを決めた。ロンドンで暮らすようになってからずっとファッションの現場に居たけれど、いままた自分のスタート地点に戻って、新しいことを始めてみるのもいいなと思ったのです」とASASHIさんは語ります。
店のある「Cleve Workshops」。ここのStudio2にASASHI BARBERがある。
チェッカー模様の床とヴィンテージアイテムがアクセントとなった店内。
店があるのはイーストロンドンのショーディッチ地区。トレンドの発信地と言われて久しいレッドチャーチ・ストリートから至近距離ながらも、知らなければ通り過ぎてしまいそうな脇道にある「長屋」の一角です。ちなみに隣は日本でも注目のメンズウエアブランド「S.E.H Kelly」のアトリエ兼ショップ。その先にもデザイナーやアーティストたちのスタジオや住居が並んでいます。

そんなクリエイティブな空気で満たされた場所とはいえ、契約を結んで鍵を受け取ったばかりの頃の店内はボロボロだったとか。スタッフの林隆生さんとふたり、DIYで壁をきれいに塗り、床材を選び、チェッカー模様に敷き詰めて、内装を整えていきました。そして友人から受け継いだ椅子や「何度行ったかわからない」ほど通ったアンティークマーケットで見つけた鏡や家具、雑貨などを置いて、じっくりと2カ月かけて、店を仕上げていったそうです。
棚の上もじっくりと眺めたくなる雰囲気。黄色い箱のアメリカ製のポマードは販売もしている。
端正に並べられた道具の一つひとつにもASASHIさんの愛情とこだわりが感じられる。
ASASHIさんの長年の友人でもあるデザイナー、ベラ・フロイドのキャンドル。こちらもここで手に入る。

髪を切り、乾かし、スタイルをつくる店。

顧客の髪を切るASASHIさん。
「バーバーにしたのは、自分の原点が床屋だったから。そしてここはヘアダイやパーマもするヘアサロンとは違って『髪を切り、乾かし、スタイルをつくる』店にしたかったから」。またロンドンに移り住んでからイギリスの男性の伝統的なスタイルに興味をもったということもその理由のひとつだそうです。

お客さんの後ろに立ち、バリカンをあてたあとハサミを細やかに動かしながらASASHIさんのカットは静かに的確に進んでいきます。「これまで数え切れないくらいいろいろなタイプの髪を扱ってきた」という経験と、長年培ってきた技。そして何よりも「髪を切るのが好きで好きでたまらない」という想い。彼の手によるカットがそれらに裏付けされていることは一目瞭然です。
きびきびと動く手元の美しさ。みるみるうちに洗練のスタイルが出来上がっていく。
いまロンドンはバーバーブーム。特にメンズの専門店が多く集まるショーディッチ界隈にはここ数年でたくさんの店がオープンしています。
「これまで仕事をした数々のファッション撮影の現場で養った視点が僕の強み。それを活かして他とは違うバーバーにしたい。撮影ではスタッフのひとりとしてのチームワークで仕事をしてきたけれど、ここでは自分自身を発信していきたい。そう考えています」とASASHIさん。

「バーバーといっても大人の男性だけではなくて、子どもも女性も来てほしい。誰でも髪を切りに立ち寄れる店にしたい。ヘアカットが必要なくても、近くに来たら気軽に中をのぞいてお茶しておしゃべりができるような、そんな場所にしたいと思っています」
ヘアカット終了。料金はシャンプー有で55ポンド、カット&ドライで50ポンド。

手がけた髪が、人々の暮らしに溶け込んでくれたら嬉しい。

店の奥の壁には店名をプリントした鏡が。このロゴはASASHIさんたっての願いでカリスマデザイナー集団「Tomato」のサイモン・テイラーにつくってもらった。
ショップ両脇は「メイド・イン・ブリテン」にこだわるデザイナーのアトリエ。隣人にも恵まれている。
ショップカードの置き方ひとつとっても心憎い。
「ヘアとその人のライフスタイルの関連にとても興味があるから、髪を切りにきた人を見ながらカットするように心がけている。僕の手がけた髪が、そうやって人々の暮らしのなかに溶け込んでいってくれたらとても嬉しい」

昔ながらの理髪店の椅子がふたつだけ並ぶ店内は、決して広くはありません。それでもクリーンな白い壁とヴィンテージが並ぶ空間は心地よく、灯されたキャンドルから香るかすかな匂いと、窓から差し込む美しい光に包まれて、心がふわりとリラックスするのがわかります。この香りと光はかつて、ASASHIさんにこの道へ進むことを決心させた、故郷の床屋で彼が感じていたものに限りなく似ているのかもしれません。
(坂本みゆき)