おいしくてちょっと深い、コーヒーの話をしよう。

  • 写真:江森康之
  • 文:吉田 桂
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シアトルから来日した「スターバックス」のエデュケーションスペシャリストに、美味しい豆の選び方といれ方のコツ、そしてコーヒーの世界を支えるための、深くていい話を聞きました。

美味しいコーヒーで、世界を一周!

「さぁ、では、これからみなさんに世界を一周していただきます。どういうことかって? ここに希少性の高い『スターバックス リザーブ』ブランドの3種の豆を用意しました。南米のコロンビア、アフリカのエチオピア、東南アジアのスマトラ、それぞれで生まれた3種のコーヒーを、環境や加工方法をひも解きつつ味わっていただきたいのです」

そう言って、まずコーエン氏が封を切ったのは「コロンビア モンテボニート」。たどり着くのが困難なほど険しい、標高1600mを超えるアンデス山脈の斜面で育てられている豆です。コロンビアのカルダス県の北東にあるモンテボニート村の、平均2ヘクタールにも満たない97の小さな農園でのみ栽培されています。加工方法は水洗式。果肉を除去したのち、発酵タンクで寝かせてから水洗いし、乾燥させて内皮を除去しています。
「コロンビア モンテボニート」をいれるのは、豆そのものの味が楽しめるフレンチプレスで。美味しくいれるには、4つの秘訣があるとコーヘン氏は言います。

「1つ目は分量。6オンス(約180ml)の湯に対して、大さじ2杯(約10g)がベストです。正確に量るため、キッチンスケールを使うのもいいですね。2つ目は挽き具合。フレンチプレス、ペーパードリップなど、いれ方によって適切な挽き具合があります。フレンチプレスは雑味が出過ぎないよう粗めに挽くとよいでしょう。3つ目は鮮度。コーヒーはフレッシュフードです。いったんバッグを開けると風味は落ちていくので、新鮮なうちに使いきってください。そして、4つ目は水。これが、最も大切なカギです。コーヒーの99%は水ですから。とはいえ、特別な水でなくとも、飲んで美味しい水ならばOKです」

コーヒープレスに粗めに挽いた豆をいれ、沸騰してから少し落ち着いたくらいの90~96℃の湯を注ぎます。スプーンなどで軽くかきまぜ、つまみを上げた状態でフタをします。そして、4分経ったら、つまみをゆっくりと押し下げて、カップに注げば完成です。
「いよいよテイスティングです。まずは香りを十分に楽しみます。次に、口をすぼめて、ズズッと音が出るほど勢いよく啜ってください。そうすると口全体にコーヒーの風味が広がるんです。でも、お行儀が悪いのでレストランではやらないでくださいね(笑)」
コーエン氏によると、初めてのコーヒーを味わった時には、好きか嫌いかを判断することが重要だそうです。なぜか。それは、好みの傾向がわかるから。コーヒーの味に大きく影響を及ぼす加工方法(水洗式、半水洗式、乾燥式)から、自分の好みが知れるのです。つまり、コロンビアが好きと感じたら、水洗式の豆が好きな傾向にあるというわけです。

さらに深くコーヒーを楽しむには、それぞれの味わいを言葉で表現することが大切。その際には“酸味”と“ボディ”の2つの要素について語るとよいでしょう。「コロンビア モンテボニート」は酸味もボディもバランスのとれた味わい。ビタースイートチョコレートのような、ほのかな苦味や、ハーブを思わせる複雑な香りが特徴です。

豆の産地、いれ方をかえて。

次に味わうのは「サンドライド エチオピア コンガ」。エチオピア西南部にあるシダモ地方イエガチョフで栽培された豆を、ウォテコンガという村で加工しています。加工方法は、収穫したコーヒーチェリーを天日干しし、均一に乾燥するように定期的にかき混ぜる乾燥式。手間と時間をかけて乾燥させた豆には、深みのある複雑な風味が凝縮されています。

「袋を開けてみると、さきほどのコロンビアよりも香りが力強いことがわかると思います。これが乾燥式の香りなんです。では、この『サンドライド エチオピア コンガ』をペーパードリップでいれてみましょう。紙が風味を吸ってしまう分、ややコクが抑えめになりますが、それでも十分に豆の特徴を感じていただけると思いますよ」
「フレンチプレスでは粗めに挽きましたが、ペーパードリップの場合は細かめに。抽出しやすいように細かめに挽くんです」
フィルターの端を折り、ドリッパーにセットしたら、先ほどと同様に正確に豆の分量を量り、ミルで挽きます。そう、フレンチプレスの時よりも、細かめに。
「ドリッパーにコーヒー粉を入れる前に、湯でフィルターを濡らします。これは、紙の味がしないようフィルターを洗う意味もあるんです。それからコーヒー粉を入れ、ドリッパーをゆらして平らにし、粉全体が湿る程度に湯を注いで蒸らします。これは“ブルーム”という工程。しっかりと蒸らして、コーヒーの風味を咲かせるんです。20〜30秒経ったら、中央からゆっくりと円を描くように少しずつ湯を注ぎます。決して一気に注ぎ入れずに、数回に分けて注いでください。抽出時間の目安はフレンチプレスと同じ4分です」
一杯目の「コロンビア モンテボニート」は水洗式。二杯目の「サンドライド エチオピア コンガ」は乾燥式。味わいの違いは、その力強い香りを嗅いだ瞬間にわかるはず。勢いよく啜り上げ、口全体で味わうと、ストロベリーやダークチェリーのようなジューシーでみずみずしい味わいとともに、コクともいえるバニラのような濃厚な風味が感じられます。「スターバックス リザーブ」のなかでも豊かで複雑な味わいが際立つ豆といえるでしょう。

1つひとつ選び出した、希少な“ピーベリー”

そして最後は「スマトラ ピーベリー レイク トバ」。スマトラ島北部のトバ湖周辺にある1500ほどの小規模農園で栽培されたコーヒーです。果肉を除去して洗浄したのち、天日で乾燥させ、生乾きの状態で内皮を取り除いてから、さらに天日干しする半水洗式をとっています。これは、スマトラ島特有の加工方法です。

コーヒーの実の中には通常、半球状の豆が2つ入っているのですが、稀に球状の豆が1つだけ入っていることがあります。それが“ピーベリー”。収穫量は非常に少なく、多くともコーヒー豆全体の10%ほど。「スマトラ ピーベリー レイク トバ」は、収穫した実の中から、1つひとつ手作業でグレード1のピーベリーだけを選び出したものなのです。

「自然から生まれた特別な豆なんです。でも、いくら希少価値の高いピーベリーだからといっても、すべてがハイクオリティというわけではないんです。いくつかの生産地を試したなかでも、このスマトラのピーベリーの素晴らしさが抜きん出ていました」
水洗式、乾燥式ときて、最後に半水洗式の「スマトラ ピーベリー レイク トバ」。コーヒーの味は土壌や気候など、産地の自然環境が生み出すものですが、この加工方法も風味に大きく影響するものです。3種の違いをしっかりと感じるためにも、最後はやはり、豆そのものの風味を存分に楽しめるフレンチプレスで。いれたてのコーヒーをひとくち、勢いよく啜ってみると、フルーツのような爽やかな甘酸っぱさに、白檀のようなスパイシーな風味が感じられます。香りは華やかでパワフルだけど、後味はすっきり。
「ワインのようにコーヒーも、毎年味わいが微妙に変わります。それがまたコーヒーの面白いところです。各産地から生豆の状態で購入したものを倉庫で大切に保管し、自社で焙煎したのちに各店舗に届け、年内にすべてを消費します。そして、また翌年の新鮮な豆を仕入れるというサイクルを私たちは40年以上続けてきているのです」

素晴らしき、この世界を支えるために。

これまで生産地の環境や加工方法の違い、フレンチプレスとペーパードリップでの美味しいコーヒーのいれ方、口全体でコーヒーを味わうテイスティング方法などを学びつつ、世界を一周しながら3種の『スターバックス リザーブ』を楽しんできました。

では、もしも、この素晴らしいコーヒーが、数年後には飲めなくなってしまったら!? コーヒーの生産者の多くは小規模農家であり、コーヒー豆の価格変動の影響を受けやすい立場にあります。彼らの存在なくして、美味しいコーヒーは生まれません。そこでスターバックスでは生産者と信頼性の高い関係を築き、高品質なコーヒーの生産を実現するための持続可能な調達モデル「C.A.F.Eプラクティス」を実践しています。

「労働条件の改善や児童労働の制限、土壌汚染の防止などのガイドラインを遵守したサプライヤーだけが私たちのビジネスパートーナーです。そして同時に、生産者の社会環境を整備するため、生産者自体や地域の学校への融資を行っています。コーヒーを販売して利益を上げるだけでなく、人の手によってつくられるコーヒーだからこそ、栽培し、収穫し、加工している人を想い、人として正しいことをすることが企業にとって大切なのです」
また、2004年よりスターバックスは主要なコーヒー生産地にファーマーサポートセンターを開設し、害虫や病気の予防、品質の向上、収穫量の増加などに関するアドバイスを生産者に提供しています。現在では、コスタリカのサンホセ、ルワンダのキガリ、タンザニアのムベヤ、コロンビアのマニサレス、中国の雲南省、そしてコスタリカのアルサシアに2013年に開設された農学研究開発センターを含めると合計6つのセンターが存在します。

「アルサシアのセンターでは、気候変動の影響を受けにくく、ウイルスにも強い品種を研究しつつ、実際にコーヒーを栽培しています。近年では地球温暖化のせいなのか、特にグアテマラとコロンビアではコーヒーの樹が空気感染ウイルスにやられてしまうケースが増加しています。私たちのビジネスは自然とともに生きているので、自然からの影響を受けてしまうのは当たり前のこと。しかし、それを適切に解決していくのが、これからの重要なテーマなんです。そこが、コーヒービジネスの面白いところだと思います」
ここに、「アルサシア ファーストクロップ」があります。ファーストクロップ、つまりアルサシアで収穫された第1号の豆。この記念すべき豆は、なんとスターバックスのパートナー(従業員)の一部にギフトとして配られたのだそうです。
「コーヒー農学の専門家たちがコーヒーの未来のために研究し、大切に育てた豆を味わうことで、パートナーは自分の仕事にさらなるプライドをもてるようになるはず。そのプライドは、今後のコーヒービジネスをさらに盛り上げる大きな力となると信じています」
コーヒーを愛し、コーヒーに携わる人を愛し、コーヒーの未来を切り開いていくスターバックス。シニア・プロジェクト・マネージャー、D.メジャー・コーエン氏の言葉には”コーヒーが好きで好きでたまらない”気持ちがあふれていました。

この記事を読んだあなたは、きっと、いつもよりおいしくコーヒー淹れることができるはず。そして、以前よりももっと深く、コーヒーを味わうことができるはずです。さぁ、そろそろコーヒーが飲みたくなってきましたね。では、コーヒータイムにしましょう!(吉田桂)

問い合わせ先/スターバックス コーヒー ジャパン TEL:03-5745-5890

※スターバックス リザーブのコーヒー豆は、季節によってすべて異なるため、なくなり次第終了となります。