ショルテン&バーイングス、色彩とパターンの探求。

  • 文:土田貴宏
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デザインの精鋭たち File.05:デザイン界のトレンドをリードする高度な感性。

色彩のマジックを使いこなす。

「Colour Plaids」でチャールズ&レイ・イームズのラウンジチェアをくるんだ写真。「Colour Plaids」は5色展開でクッションなどのバリエーションも生まれた。
Photography: Inga Powilleit
ショルテン&バーイングスの出世作となったのが、2005年発表の「Colour Plaids」というブランケットです。目の覚めるような色彩のグラデーションが大きな特徴で、その色使いがメリノウールとコットンのソフトな素材感とも合っています。テキスタイルデザインの文脈においては、カラフルなプロダクトは珍しくないでしょう。しかし彼らが提案したのは、このブランケットで家具などのアイテムをくるむような、より積極的に色彩を日常へと取り入れる試みでした。
モダンデザインの歴史をさかのぼると、素材や構造といった要素に比べて、色彩の働きが重視されてこなかったのがわかります。ショルテン&バーイングスは、そんな傾向に一石を投じるようなデザインに取り組んだのです。彼らが率先してプロダクトに用いた水色、ピンク、イエロー、蛍光色やそれらのグラデーションは、やがてインテリアの大きなトレンドになっていきます。
「COLOUR PORCELAIN」は有田焼としては手頃な価格で製品化されている。
Photography: Scheltens & Abbenes for The New York Times
日本の陶磁器ブランド「1616 / ARITA JAPAN」から発表されたテーブルウェア「COLOUR PORCELAIN」も、ショルテン&バーイングスの高度な色彩感覚がすみずみに発揮されたプロダクトです。1616年以来の歴史をもつ有田焼の名品をリサーチした彼らは、そこからさまざまな色彩をピックアップして再構成し、ミニマルなフォルムを彩りました。リサーチをデザインコンセプトの起点とするデザイナーは多いものの、そこから新しいデザインを発想していく彼らのプロセスは実に丹念で緻密です。繊細な色彩がテーブルの上で響き合う様子は、きわめて美しく印象的。もちろん実用性もしっかりと踏まえています。
「COLOUR BLEND」のためのバスルームのイメージビジュアル
Photography: Freudenthal/Verhagen
2013年、ショルテン&バーイングスは「COLOUR BLEND」というトイレのデザインを手がけました。トイレのフタを水色やグレーなどの細かなドットで彩ったのです。生活のあらゆるシーンに色彩やパターンを取り入れ、新しい空間のイメージをつくるという彼らの活動に一貫したテーマが、このプロジェクトにも活かされました。製品のために制作されたちょっとシュールなイメージビジュアルは、彼らのデザインが素材、光、そしてライフスタイルや感性と不可分のものであることを伝えます。

イメージの世界を広げるかたち。

「Luce di Carrara」のテーブル。大理石の種類によって形状やパターンが異なる。
Photography: Scheltens & Abbenes
色使いに個性が発揮されることの多いショルテン&バーイングスですが、最近はさらに作風の幅を広げています。この大理石のテーブルはイタリアのブランド「Luce di Carrara」から発表されたもの。素材に固有のありのままの色彩とパターンからインスピレーションを得て、豊かな丸みを帯びたフォルムが発想されました。そして部分的に、彼らのトレードマークともいえる幾何学パターンを立体的に施しています。大理石はデザインの対象としてはきわめて長い歴史をもつ素材ですが、近年はデジタル技術や巨大な加工機器の発達により、造形の自由度が格段に高まりました。そんな時間軸と向き合ったアーティスティックな作品です。
HAYの「DOT CHAIR」は、ショルテン&バーイングスらしいドットのパターンを穴によって表現。
Photography: Inga Powilleit
2014年にデンマークのHAYから発表された「DOT CHAIR」は、遠目にはありふれたプラスティックシェルの椅子に見えます。しかし近づいてみると、このシェルには1300個以上もの小さな穴が規則的に開けられているのです。この穴を光や風が通り、向こうの風景が透けることで、これまでのプラスティックの椅子にはないエレガントな表情が生まれました。もちろん手に触れた感じも独特です。また座面に穴があることで、屋外で使用した際に雨水などが溜まらないというメリットもあります。シンプルな操作で、見慣れたはずのものの存在感を一変させる。ショルテン&バーイングスのデザインには、そんなマジカルなところがあります。
ロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムでの展示。ラグやテーブルクロスも彼らの作品。
Photography: Inga Powilleit
2013年秋、ロンドンデザインフェスティバルの際に、ヴィクトリア&アルバートミュージアムの歴史的な空間でショルテン&バーイングスによるインスタレーションが披露されました。館内の一室に大きなテーブルを置き、その周囲を自身の手がけたプロダクトで埋め尽くしたのです。さらにオリジナルのBGMも流しました。ミュージアムの展示は、たとえ日用品であっても、展示台やガラスケースの中に陳列されるのが一般的です。ショルテン&バーイングスはより日常に近いシーンを設定することで、来館者にある種のとまどいを与え、興味を喚起することを意図しました。こうしたインスタレーションでは、キャロル・バーイングスのセンスがとても重要。彼女はあらゆるディテールに妥協せず、ミリ単位で見せ方を工夫するといいます。一方、夫のステファン・ショルテンはどんなに実験性の高いプロジェクトでも具体的な形にしていく能力の持ち主です。

二者択一を超えたものづくり。

アートやデザインについて優れた書籍を多く発表しているファイドンの新刊「REPRODUCING SCHOLTEN & BAIJINGS」。
2015年に発売されたばかりの「REPRODUCING SCHOLTEN & BAIJINGS」は、ショルテン&バーイングスにとって初めての本格的な作品集。ただし、これまでの作品を網羅するのではなく、あえて取り上げるプロジェクトの数を7つに絞り、デザインの長いプロセスを豊富な図版で伝えます。つくり手とのコミュニケーションを惜しまず、自らのスタジオや工場での試作を積み重ね、イマジネーションを最大限にふくらませながら、デザインを完成させていくキャロルとステファン。日本のKARIMOKU NEW STANDARDや1616/ARITA JAPANとの仕事も紹介されており、精度と上質さを重視する日本のものづくりと彼らとの相性のよさがうかがえます。また作品の印象と同様に、色彩、パターン、手づくりのオブジェであふれた彼らのスタジオの様子にも目を凝らさずにいられません。
1616/ARITA JAPANのプレートとKARIMOKU NEW STANDARDのテーブルのコーディネート。Photography: Inga Powilleit
ショルテン&バーイングスのクリエイションは、カラフルとモノトーン、シンプルとデコラティブ、クラシックとコンテンポラリー等々の二者択一を超越したものを感じさせます。既存のプロダクトのあり方にとらわれず、より自然で人間らしい暮らし方をありのままに受け入れるなら、こうしたデザインに存在意義があるのは明らかです。彼らが用いるさまざまなモチーフが、やがてインテリアのトレンドになっていくことが、その証明でしょう。ショルテン&バーイングスの魅力は、視覚に訴える表現の豊かさや洗練だけでなく、息の合った二人の感受性の確かさにあるように思えてなりません。(土田貴宏)

Image©Scholten & Baijings

www.scholtenbaijings.com