はいいろオオカミ+花屋 西別府商店―古道具と生花がつくる調和

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

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あたらしい骨董店 Vol. 04:いまの空気を映し出す骨董店を訪ねるシリーズの第4回は、生花と古道具という異色の組み合わせが絶妙な調和を生む、コラボレーション・ショップを紹介します。

大地に根差したロシアの古道具。

古い冷蔵庫を台に、ロシアの壷「ゴルショーク」に活けられた季節の花。
ゴルショークはミルク壷の他、煮炊きにも使われ、焦げ跡も見どころ。釉調や大きさ、把手付きなど形もさまざま。価格は¥8,100~9,180。後ろに見えるのはヨルダンの水差し¥30,240
青山の路地裏、古いマンションの一階にひっそりと店を構える「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店」。隠れ家ショップというにふさわしいその店のドアの向こうには、個性豊かな植物と古道具が息づいています。しっとりとした褐色の陶器壷に活けられたアジサイ、ケイトウ、ブラックベリー。暗く渋い古物の色を背景に、植物の深い色味と存在感のあるフォルムが引き立ち、まるで静物画に描かれた花のようです。花器として使われているのは、ロシアのミルク壷「ゴルショーク」や縄文土器、オリジナルのガラス花器など。そこに、めずらしいロシアの古道具や日本の雑器、民具などが渾然となって、溶け込みます。古道具屋でありながら、生き生きとした植物の生命力が感じられ、また、古いものが“使われている”状態で見られる、これまでにない新スタイルのショップです。
「はいいろオオカミ」店主の佐藤克耶さん。
19~20世紀ホフロマ塗りの木さじ。色鮮やかだったものが使い込まれ、いい具合にかすれている¥2,376~
「はいいろオオカミ」店主の佐藤克耶さんが古道具の店を始めたのは、3年前のこと。それまでは建築設計事務所などで働く建築士でした。
「学生時代から、インテリアのコンペで使う和箪笥を探して骨董市に通ったり、古いものは好きでした。当時はミッドセンチュリー家具がブームで、古いものへと目が向いていた時期でしたが、和骨董を見ていた学生は少なかったかもしれません。やがて実際の仕事をするうち、新しい素材で建物をつくるより、古い家具ひとつで空間を変えることができる骨董に魅かれるようになりました。そういうものに浸って、手元に置いておけば、設計にも影響したり、役立つのではと思って、店を始めたのです」
「はいいろオオカミ」という印象的な名前は、ロシアの民話「イワン王子とはいいろオオカミ」から名付けたといいます。そもそも、ロシアの古道具を中心とするめずらしい品揃えにしたのはなぜなのでしょうか。
「ロシア文学が好きなのですが、ドストエフスキーなどは、カーテンの色や机の脚まで、空間を緻密に描写しています。文章を読んで、細部にまで神経を注ぐ気質から生まれる道具には、そこに宿るものがきっとあるだろうと想像していました。ロシアというとかわいい雑貨のイメージですが、実際に行ってみると、思っていた通り、日本の古道具に近いような民具や雑器などもありました。いま、ロシアでも都市化が進んでいるので、ちょうど古いものが出てくるタイミングなのでしょう」
日本の漆のような木工品、ホフロマ塗りの木のさじや、ぽってりと丸みを帯びた陶器。佐藤さんが選ぶものは、素朴で、手仕事の温かみがあり、どこか懐かしい。大地に根差したロシアの民衆文化が伝わってくるようなものたちです。

花を楽しみ、器を愛でる。

アジサイ、オクラ、ヒマワリ、蓮と季節を取り合わせたアレンジメント。ゴルショークの器とセットで¥14,040
「花屋 西別府商店」店主、西別府久幸さん。
2014年2月から「はいいろオオカミ」内に合同ショップとしてオープンした「花屋 西別府商店」はフローリストの西別府久幸さんが始めました。西別府さんは、中目黒の花屋「フラワーズ・ネスト」で修業した後、独立。野菜やキノコ、溶岩といった、通常フラワーアレンジには使われないようなめずらしい素材や古物までも取り入れたアレンジは独創的です。選んでいる植物は、造形が面白く、旬の勢いがあるもの。大ぶりの古い器に量感たっぷりに活け込まれた植物には、野趣が漂います。
その場でゴルショークに活けてもらいました。アジサイを中心に、オブジェのような蓮の種やオクラが詰まったアレンジはシックで力強い。古い花器の落ち着いた肌合いが引き締めて、華やかなアレンジとはひと味違う大人の花束ができあがりました。
19世紀帝政ロシア時代のリキュールグラスやオリジナルガラス小瓶ベースなどが並ぶ飾り棚は、病院の診察券入れだったもの。リキュールグラス¥8,424、オリジナルガラス小壷¥1,296
カシワバアジサイと壁にかけられた明治時代の挽き臼¥19,440
合同店舗になってから、花と器をセットで買うお客さんが増えたといいます。
「色がなくてもいい。つくられていない形が好きで、なるべく品種改良されていない原種を使いたいと思っています。手を加え過ぎると格好悪くなる。素材を活かすように、いつも心がけています」という西別府さんの言葉は、素朴で純粋なアノニマスな道具を選ぶ佐藤さんの眼差しにも重なります。
めずらしい植物の採集や植物標本の作成も手がける西別府さん。太古からの植物がもつ神秘を見つめたいという博物学的な好奇心は、佐藤さんが集めた世界各地の古いものへも同じように注がれ、相乗効果を生み出しているのでしょう。

現代の作り手とのコラボレーション

吹きガラス作家黒川大介に特注したガラスベース。花が活けやすい形にこだわったオリジナルデザイン。手前右の円盤形¥4,860、手前左のゴルショーク形¥9,180、奥右のピッチャー形(S)は¥3,780。Mサイズ(¥4,860)もあり。奥左はゴルショーク形のプロトタイプ。
造形作家YOSHiNOBUによる天然羊毛フェルトを使ったホッキョクオオカミのオブジェ¥38,000
「はいいろオオカミ」だけの時代から、佐藤さんはいまの作家の企画展に力を入れています。その理由について次のように説明します。
「僕は、骨董店などでの修業なしに店を構えてしまったので、同時代の作家のものづくりを知ることが発見になり、修業になります。そう思って、積極的に窯元や工房を巡り、個展を開いてきました。もちろん現代においても、後世に伝えたいすばらしい道具や作品が生まれていることも、理由のひとつです。」
7月末、個展を開いた吹きガラス作家、黒川大介さんとは、初めてオリジナル花器を制作しました。ひとつはゴルショークの写し。ほかに、デキャンタとしても使えるピッチャー形や有機的な曲線が美しい円盤形など、花屋と古物商ならではのラインアップが揃いました。
レジカウンターに並ぶ西別府さん(左)と佐藤さん(右)。年代物のレジも売り物。
古いアパートの入り口からはうかがい知れない、古物と植物の生き生きとした世界。
ロシアの古道具という新ジャンルを開拓し、古道具と花屋という新業態を立ち上げる。同世代のつくり手たちとコラボレーションしながら、やわらかな発想で、楽しみながら店をつくる。お互いの感性が刺激し合う、生き生きとした新世代骨董店「はいいろオオカミ+花屋 西別府商店」。その世界をぜひ、覗いてみてください。

はいいろオオカミ+花屋 西別府商店―古道具と生花がつくる調和

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

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