友栄堂―現代によみがえるアンティーク・ファブリック

  • 写真:江森康之
  • 文:佐藤千紗

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あたらしい骨董店 Vol. 02:いまの時代らしい感性にあふれた骨董店を紹介するシリーズの第2回は、下町の繊維問屋街のほど近く、台東区根岸にあるフランスの布をおもに扱う専門店を訪ねました。

下町のアンティーク生地店。

友栄堂(tomoedo)はフランスのアンティーク生地を中心に、リボン、ボタンなどの服飾資材も扱う専門店。店主の斉藤 淳さんがDIYでつくった店内には、直接ヨーロッパで買い付けてきたベッドリネン、トーション(キッチンリネン)、プリント生地など、色とりどりの布がきれいに積み重なっています。こざっぱりと整えられ、新鮮な魅力を放つ布は、一見すると古いものだとわからないくらい。しっかりとした厚みのリネンはテーブルクロスやカーテンにも使えそうです。これまでも着物や藍染め、更紗などの古布はアンティークの1ジャンルとして、コレクターから人気を集めていましたが、いまの視点で、使える布だけを集めた店はめずらしいのではないでしょうか。
店に漂う清潔感、整然としたなかに凛とした美意識が張りつめた空間は、店というよりは、アトリエや工房のよう。ものをつくる空気感にあふれています。それもそのはず、ここはデザイナーや小売店のお客が中心の予約制の店舗なのです。
店主の斉藤 淳さん。この道16年のキャリアをもつ。
店主の斉藤さんは文化服装学院でシューズデザインを学びました。当時から素材へのこだわりが強く、レザーではなく、デニムや帆布などの布で靴をつくっていたそう。斉藤さんは布に惹かれた理由を次のように説明します。
「革よりも、さまざまなテクスチャーや色がある布に魅力を感じました。色の視覚情報への影響は大きく、温かそう、楽しそう、といったイメージも左右します。そうした色による豊かな表現をもつ布に、広がりを感じたのだと思います」
そんな斉藤さんが古い布と出合ったのは、20歳の頃、旅行で行ったパリの蚤の市でした。
「布のクオリティが違うのに驚きました。いまのものより目が詰まり、細い糸で織られていて、発色がよい。フランスと日本では、生地や色に対する価値観や文化の厚みが全然違う。日暮里などの問屋街では、最低価格はメーター100円くらいですが、パリの生地店ではメーター600円くらいです」
服飾の長い歴史をもつフランスならではの色のこだわり、昔の布がもつ再現不可能な味わいに魅了されました。それ以来、現地の蚤の市で布を買ってきては、知り合いのデザイナーや手芸店などに販売するようになります。そうして学生時代に始めた卸業が16年続き、いまにいたります。つくり手の目線ももつ斉藤さんならではの現代的なセレクト、年に7、8回は買い付けに出かけるという熱意が伝わったのでしょう。2008年には、つくり手と直接出会う場所が欲しいという思いから、店を開きました。やがて大江戸骨董市にも参加し、一般のお客さん相手にも商品を販売するようになります。
1940~60年頃の鮮やかなプリント生地。「アンディエンヌ」と呼ばれるインド更紗の影響を受けたエキゾティックな柄も多い。¥2,000~¥10,000
1950年頃の紳士用シャツやスーツ生地のデッドストック。¥2,500~¥5,000(1メーターあたり)

鮮やかに現代によみがえるアンティーク布。

パリの百貨店ボン・マルシェやプランタンのオリジナルのシャツ生地。シャツデザイナーが買っていくことも。1920~30年頃のもので各¥18,000
斉藤さんの布選びには、“使われること”が根本にあります。
「布がコレクションや趣味になってほしくないのです。布を使って、何かをつくってほしい。一度は古くなって捨てられた布を私が拾い上げ、素材としてお客様に提供し、再び使われることで息を吹き返す。古い布が時代を超えて輝く、そのストーリーにロマンを感じます」
素材としての品質管理にも手を抜きません。買った布は洗濯し、穴やシミをカットして、生地として使いやすいかたちで、店頭に並びます。縫製に耐えられないようなデリケートな布は扱いません。あくまでも実用性を重視しています。つまり、アンティークから古色を剥がして残った、デザインや色、素材感などに価値を見出し、現代に通用する、ものとしてのクオリティを打ち出しているのです。
つくり手の気持ちも忘れたくないからと、いまでも旅行用のバッグやポーチを手づくりしているという斉藤さん。個人的に一番好きな布を聞いてみました。
「古いインディゴリネンの色が好きです。使われたのも、ワックスのついたままのデッドストックもいい。機械織りでもいまのように均一でなく、稚拙さがあって、ナチュラルな風合いが生まれます。自分用に選ぶのはインディゴか白のブロードですね」
インディゴは汚れが目立たない上、防虫、抗菌効果もあり、昔からワークウエアや日常着などに使用されてきた布。いわば、使われる布、働く布としての魅力が一番感じられるアイテムです。また、リネンはかつて各家庭で手紡ぎ、手織りのホームスパンによってつくられていました。ホームスパンのリネンには味があって、生活の身近にあった手づくりの布の温かみを感じさせます。
色つやが美しい手づくりの貝ボタン。精巧にできている。1900年頃のもので¥2,000~¥3,800
1900年~50年頃の色とりどりのボタンのデッドストック。深い色合いのリボンやレースなど、服飾資材も充実している。
ワークコートなどの古着やフランスの陶器、ガラス器も扱っている。フランスのアンティーク・リネンショップでは、食器も一緒に取り扱うという。骨董市では、テーブルウェアを中心に出店。

布に魅入られた伝承者。

木版を型押ししてプリントする。下に敷いた布地のインディゴ染めもインドが発祥。
買い付けをする時は、ルーペで織り目をチェックする。不均一な織り目から、それぞれの個性が生まれる。
最初は30〜40年前の布を見ていたという斉藤さん。それが、だんだん古いものへと興味が向いていき、最近は100年ほど前のシャトーで使われていたインテリア・ファブリックなども扱っています。さらに今年は新規開拓としてインドにも買い付けに赴きました。インドはプリントの布の発祥の地であり、フランスのプリント地も東インド会社によって伝えられたインド更紗を起源としています。
「インド更紗は色目が素晴らしい。天然の茜の染料による赤はヨーロッパにはない色です」と魅力を語ってくれました。取り入れるなら、ストールとして、差し色に使うのもお薦めとのこと。

少し前までは、布地はもっと私たちの身近にあって、それぞれの家で、服や生活で使う布巾をつくっていました。それがいま、洋服は買うものになり、製品になる前の生地そのものを手にすることもほとんどありません。布に魅了された斉藤さんは、ひたむきに古き良き布を探し求めながら、同時にその時代の、布を使うという生活文化をも伝承しようとしているように見えます。こうして見出された「友栄堂」で出番を待つ布たちは、いまの生活に使ってみたいと思わせる輝きを秘めています。
扉の向こうには、周囲の下町らしい風情とは別の世界が広がる。

友栄堂

東京都台東区根岸5-11-32 1階右
電話:080-3564-0986
※店舗はアポイントメント制。月2回、予約なしのオープン日を設けている。週末は大江戸骨董市などに出店。
http://www.tomo-e.com/


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