暮らして見つけた、私的サンフランシスコ案内【Part 1】

  • 文、写真:佐藤千紗

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世界中から注目を集める街、サンフランシスコ。多彩な文化が穏やかに交じり合う、心地よい暮らしを通して発見した、小さな名店の数々を紹介します。

コミュニティを育む、誇りをもてる店。

サンフランシスコはいつも、時代を先取りするカルチャーが現れる場所でした。ビートニクをはじめ、ヒッピー、ゲイムーブメントまで、この街はカウンターカルチャーの聖地として、既成概念を否定し、新しい価値観を常に生み出してきました。この街に脈々と流れる先進的な気質は店づくりにも表れるようで、ITブームによる好景気のなか、自分たちのアイデアを店という形で実現しようとするムーブメントが花開いています。

特に、私が住んでいた「ミッション」と呼ばれるエリアは新旧が入り交じり、ユニークな店が集まっていました。ミッションは、近年コーヒースタンドや話題のレストランが次々とオープンし、流行に敏感なヒップスターが集まるトレンド発信地となりましたが、昔からヒスパニック系の移民が多く住むラテン文化が濃厚な地区でもあります。また、アーティストや作家などが集まる古書店、ミニシアターなどが軒を連ねるエリアとしても知られています。
この店の前を通るといつもフレッシュな花の香りが漂い、店に入ればフルーツや野菜、ハーブの青く瑞々しい匂いを感じます。フルーツは味見できるようにカットされ、チーズからビネガーまで、商品のほとんどは試食が可能。棚を眺めていると必ず店員が近くに寄ってきて、愛想良く商品の説明をしてくれるはず。
Bi-Rite(バイライト=正しい食べ物を買おう) Marketは、サンフランシスコのフードムーブメントを象徴する革新的な食料品店。北カリフォルニアの良心的なつくり手から直接仕入れた“グッドフード”を集めた食のセレクトショップです。扱う食品は美味しさを第一に、顔の見える生産者によって、できればオーガニックで育てられたものを集めています。肉にも生産農家の名前が明示されていますが、大量生産が主流のアメリカのフードシステムでは、このような少量生産で手間のかかる食品は高くならざるを得ません。それでもBi-Riteで買いたいという意識の高い、経済的に余裕のある若い層に支持されて、狭い店内はいつもお客でひしめき合っています。

フレンドリーで親切なスタッフによるレコメンド、消費者と生産者をつなぐイベントの開催、レシピ本の出版、さらにニュースレターやブログなど、Bi-Riteは食を通じたさまざまな情報発信を行ってきました。食べ物に関する情報をオープンにし、裏側にあるストーリーを伝えることによって、小さな農家やつくり手を支援します。大手チェーンでは不可能な、個人商店ならではの手厚いコミュニケーションによって、つくり手と売り手と消費者のコミュニティを形成していく。Bi-Riteの成功は、サンフランシスコにおける新しい店づくりのロールモデルとなっているのです。
左写真:店先には香り高い季節の花が並ぶ。向かいにはフードイベントスペースの18 Reasonsがあり、ワイン試飲会や料理教室などを実施している。

右写真:1940年創業の家族経営のグローサリー。現オーナーのSam Mogannamさんが1998年に父から譲り受け、店の改革が始まった。ベイエリアの名産品が揃っているので、お土産を買うのにも最適。

Bi-Rite Market
3639 18th St, San Francisco CA 94110-1531
TEL:(415)241-9760
営業時間:9時~21時
無休
www.biritemarket.com
ミッションのメインストリート、ヴァレンシア通りの外れにあるArizmendi Bakery(アリズマンディ・ベーカリー)は、いつも地元のお客で賑わっています。特に、ランチタイムに売り出される1スライス2.5ドルという良心的な値段の日替わりピザは、「レベルの高いサンフランシスコのピザのなかでも一番」と言う人も。オーガニック原料をおもに使用し、ホームメイドのサワードゥ酵母を使って焼き上げるパンにも素朴な味わいがあります。
けれどもこの店の特徴は、実はその経営手法にあるのです。それは、ワーカーズ・オウン・コープという従業員全員が平等に店の経営にも関わる民主的なワークスタイル。ボスもいなければ、給与体系も一律。70年代から続くコープの先駆けとして知られる、The Cheese Board Collective(ザ・チーズ・ボード・コレクティヴ)というバークレーの名店からレシピや運営方法を学び、そのスピリットを受け継ぎました。現在はサンフランシスコ周辺のベイエリアに6店舗の姉妹店を開いています。ここミッション店では、地元のヒスパニック系住人などを積極的にメンバーにし、職業訓練も行っています。この店で買い物をすることがコミュニティをサポートすることにもつながる。店に集う人がどこか誇らしげなのは、そのせいでしょうか。
左写真:Arizmendiはワーカーズ・オウン・コープを始めたスペイン、バスク地方の司祭の名前に由来する。

右写真:焼きたての日替わりピザ2.5ドル。サンフランシスコの北は酪農が盛んで、チーズも美味しい。

Arizmendi Bakery
1268 Valenica Street, San Francisco CA 94110
TEL:(415)826-9218
営業時間:7時~19時(月、水~金) 8時~19時(土、日)
定休日:火曜
色鮮やかで手の込んだフォークアートで飾られたショーウィンドウが目を引くCasa Bonampak(カーサ・ボナンパク)。メキシコをはじめ、ラテンアメリカの民芸品を集めた店です。オーナーのNancy Charragaさんはアメリカで生まれ育ち、故郷の歴史を教えられてこなかったヒスパニック系のチカーノたちに、自分たちのルーツや伝統に培われた美しいものを見せようと、この店を始めたと言います。薄紙を切り抜いたメキシコの旗や紙細工の花、繊細な刺繍の施された民族衣装、骸骨のオブジェから、祖国の誇りであるフリーダ・カーロのグッズまで、ミステリアスで美しいものがたくさん。ミッションにそこはかとなく漂う郷愁に寄り添うショップです。
左写真:ショーウィンドウには、オバマ大統領のフラッグ。オーダーメイドでオリジナルのフラッグを注文することもできる。

右写真:ヴァレンシア通りの外れ。日常のサンフランシスコの光景。

Casa Bonampak
1051 Valencia St, San Francisco CA 94110
TEL:(415)642-4079
営業時間:11時~19時(火~土) 12時~18時(日)
定休日:月
www.casabonampak.com

地元の人が愛するボヘミアンスポット

話題のレストランやショップが立ち並ぶヴァレンシア通りから2ブロック隔てたミッション通りには、タコススタンド、理髪店、青果店、携帯ショップなどがひしめき合い、まるでメキシコの街角に紛れ込んだよう。まったく異なる世界が隣り合っているのも、サンフランシスコの街ならでは。本誌では、タコスがお薦めの店として「ラ・タケリア」が紹介されていましたが、ブリトーの人気店がこちらTaqueria Cancun(タケリア・カンクン)。店内には鮮やかなメキシカンフラッグがはためき、異国情緒を盛り上げます。ベジブリトーが人気ですが、巨大サイズなので、覚悟して。さっぱりとした甘さ控えめのフレッシュジュース「アグアフレスカ」も、サルサの辛さを和らげてくれてお薦めです。
左写真:カラフルなメキシコの旗が目印。

右写真:アボカド、サワークリーム入りのSuper Tacoは3ドル。

Taqueria Cancun
2288 Mission St, San Francisco CA 94110
TEL:(415) 252-9560
営業時間:10時~深夜1時(月~木) 10時~深夜2時(金、土) 10時~24時30分(日)
キラ星のごとくミッションに集うコーヒーショップの中でも、ちょっと風変わりでレイドバックな、そして最もサンフランシスコらしい雰囲気をたたえているのがPhilz Coffee(フィルツコーヒー)。サードウェーブコーヒーのようなスタイリッシュさはない代わりに、リラックスし、気取らない居心地の良さがあります。
食料品店を営んでいたPhil Jaberさんが25年にわたるコーヒー研究の後、2003年にオープンさせたPhilz Coffee。今の主流であるシングルオリジンではなく、30種類以上もあるブレンドが中心。エスプレッソはなく、すべてハンドドリップと、独自路線を貫いています。一番人気はまろやかでコクのあるTesora(テソラ)。さまざまなカスタマイズができるのも特徴で、お薦めはアイスミントモヒートコーヒー。クリームを入れたコーヒーにフレッシュミントを添えた、夏にぴったりのドリンクです。マイペースなPhilzですが、口コミサイトyelpでは、他の強豪を抑え、サンフランシスコのベストコーヒーに選ばれています。この選択肢の多さと一人一人好みのカスタマイズに応えてくれる柔軟性が、地元の人々に愛される所以でしょう。
左写真:オーナーの「おばあさんの家みたい」という天井までペインティングが描かれたインテリア

右写真:アイスミントモヒートコーヒー。

Philz Coffee
3101 24th St, at Folsom St, San Francisco CA 94110
TEL:(415) 875-9370
営業時間:6時~20時30分(月~金) 6時30分~20時30分(土、日)
無休
www.philzcoffee.com
日本の文具も扱う書店Press(プレス)。癖のある個性派揃いのミッションの書店の中でも、日本のいまどきの古書店のセレクトに近いセンスの店です。
美術、ファッション、デザイン、工芸の他、サンフランシスコらしいカウンターカルチャーのコーナーもあるのがユニーク。そこでレコメンドされていたのが、Foxfire(フォックスファイヤー)という雑誌。1966年からジョージア州の高校の授業の一環として、学生たちが地域のお年寄りに昔の生活を聞き書きしたものをまとめた冊子です。集められたのは、開拓生活で培われた木工技術や手芸、料理など、生活のためのスキルや知恵でした。1972年にはベストセラーとなり、都市を離れて自然に回帰して生活するヒッピーたちに、テキストとして読まれたそう。
オーナーのセレクトの視点が明快で、本との出合いが巧妙につくられているPress。Philz Coffeeの目の前にあるので、こちらで本を買って、コーヒー片手に読めば、至福のひとときになるでしょう。
左写真:Pressでは、VoyagerやFreeman’s Sporting Clubなどの人気ショップに並べる本の選書も行っているそう。

右写真:Foxfireの冊子。オーナーの親世代では「ホール・アース・カタログ」と共に読まれた本だったという。

Press: works on paper
3108 24th Street, San Francisco California 94110
TEL:(415)913-7156
営業時間:10時~19時(月~土) 11時~18時(日)
http://pressworksonpaper.com

暮らして見つけた、私的サンフランシスコ案内【Part 1】

  • 文、写真:佐藤千紗

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