美しく刺激的なオブジェたち―銀座メゾンエルメスの「コンダンサシオン:アーティスト・イン・レジデンス」

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:青野尚子
Share:

若手アーティストの煌めくような才能と、熟練した職人の技術が出合って生まれたユニークな作品群。「銀座メゾンエルメス」にて開催中の展覧会の模様をレポート。

縦に連なる、筒状のオブジェ

「アーティスト・イン・レジデンス」は、ジュゼッペ・ペノーネら4人のベテランのアーティストが「メンター」となり、毎年それぞれ若手作家を1人、推薦するというプログラムです。メンターがアーティストを選び、それぞれのアーティストの滞在する工房についてはエルメス財団が決定します。アーティストの多くは、未知の素材と出合うことになるのです。約3カ月のレジデンス期間が始まる前に、アーティストたちはまず2週間ほど工房に滞在、どんな作品を作るかプランを練ります。制作する作品に、基本的には制約はありません。財団はアーティストから提出されたプランをもとに、工房の責任者と作品制作をサポートする職人の選出も行います。その後アーティストは工房に戻り、職人たちと試行錯誤を繰り返しながら作品を仕上げます。

セバスチャン・グシュウィンド(上写真)は2011年、メンター、エマニュエル・ソーニエの推薦でサン=タントワーヌ皮革工房に滞在しました。彼の作品は大小4つの筒状のオブジェが縦に積み重ねられたもの。鳥かごか、檻のような縦格子の筒に革がかぶせられています。
「革は上からクロコダイル、山羊、オーストリッチ、仔牛と大きさの順になっているんだ。こうして縦に積んでいるのはグリム童話『ブレーメンの音楽隊』で、小さい動物が大きな動物の上に順番に乗っていったのを引用している。彼らはユートピアを目指して飼い主から脱走した。この作品はユートピアを求めながらもそれを完成させられず、がんじがらめになっている、とも解釈できるんだ」
紳士靴で知られるジョン・ロブの工房で作品を作ったのはアンヌ=シャルロット・イヴェール(上写真)。彼女はここで初めて、革の加工の工程をじっくりと見ることになりました。
「革靴は木型に革をかぶせてつくります。硬い木型から、人の足に沿う柔らかさをもつものが生まれるのが面白いと思った。革という動物性の素材がもつ伸縮性や強靱さにも驚きました。今回の作品の一部は、動物の頭蓋骨の上に革を張ったものです。肌の下に骨がもぐりこむようなイメージです。別の部分はコンクリートの棒を革のひもで支えた、よりメカニックなもの。動物と機械との対比も意識しています」
彼女の作品は男性的にも感じられます。
「女性だからと言って特別視されることに抵抗して、結果的に男性的な作品が生まれるのかもしれません。一方で私の作品に柔らかさを感じる、という人もいます。今回に限らずコンクリートはよく使っているのですが、重くて扱いが大変だから男性的なイメージをもたれるのかもしれません。でも私は、制作するときには必ず自分の身体を基準にしています」

夢や隠喩が、複雑に絡み合う。

ブノワ・ピエロンはメンター、リチャード・ディーコンの推薦で2010年、シルクの工房であるアトリエASで制作を行いました。彼の作品(上写真)は色とりどりの装飾が施された、テントのような天蓋があるベッド。実際に人が眠ることができるサイズです。ベッドの天蓋の柱にあたる部分は糸巻きを積み重ねたもの。足の部分にはカラフルな画鋲が刺さっています。
「ベッドはたいていどの家にもあって、生活の一部となっているけれど、生と死のサイクルと深い関わりをもつ家具です。この作品にはいろんなシンボルが込められています。糸巻きは夢を紡ぐという意味。画鋲は歯が痛いとき、画鋲を木に刺すと痛みが取れる、というフランスの言い伝えから。柱の上の白い鳥はベッドで眠る人の安全を守ってくれる。ベッドカバーに使ったザクロは豊穣や生と死を、カーテンに使った女性の下着は結婚の成就を暗示しているのです」
アトリエASには14世紀から現代までのテキスタイルのアーカイヴがあり、彼はそれをじっくり研究することができたそう。工芸の歴史が生み出した、複雑な夢や隠喩が絡み合うような作品です。
2012年、サンルイ・クリスタルの工房に滞在したオリヴァー・ビアーは2つの作品を展示しています。ひとつはガラスでできたラッパのようなオブジェ。もうひとつはクリスタルの球が3つ、その中に小さな金色のオブジェが入っています。
「最初の作品は本来なら窓につけるもの。ラッパ状になった筒に耳を当てると、建物の中にいても外の音が聞こえてくる。だから『アウトサイド・イン』というタイトルをつけました。3つの球体は『沈黙は金(槌骨、きぬた骨、あぶみ骨)』というタイトル。中に入っている金色のパーツは人間の耳で物理的な音を伝える最後の骨を金でかたどったもの。耳の中ではこの3つの骨は隣り合っていて振動を伝えるのだけれど、ここではバラバラになっているから沈黙が生まれる。下に積み上げた紙には何も書かれていない。ここにも沈黙がある、と解釈できるのです」

高度な技量による、美しいオブジェ

「コンダンサシオン」展には全部で16名のアーティストが参加しています。どの作品もじっくり練られたコンセプトが高度な技量で美しいオブジェとなっていて、見ごたえのあるものになっています。

上写真、右奥はエミリー・ピトワゼがピエール=ベニト皮革工房で制作した、プリーツのついた革のカーテン。中央の大きな円はサヤ皮革工房でエリザベス・S・クラークが作った「横切って」というタイトルのオブジェ。左はベレイ皮革工房に滞在したフェリックス・パンキエの「ステーション」という作品。未知の電波をとらえる巨大なアンテナのようにも見えます。
上の写真は、パリを拠点にしている小平篤乃生がサンルイ・クリスタルで制作した作品。内部で時計の針が回転していて、かすかな音を奏でます。その起源を16世紀までさかのぼることができる、サンルイの工房の長い歴史への敬意が込められています。
上は、アトリエASに滞在したガブリエル・チアリの作品です。シルクの布にシミをつけ、一度ほどいて再び織る、という手の込んだ工程でつくられています。端の微妙なニュアンスはそのためです。
マルコス・アビラ・フォレロはノントロン皮革工房で太鼓を作りました。上の写真、太鼓に描かれた絵はアフリカ、ヨーロッパ、南米を人類が移動してきた、その歴史を暗示しています。

16名 の作品には、それぞれに職人たちの技と歴史へのリスペクトが込められています。職人技と現代アートの創造性を結ぶ、エルメス財団ならではのユニークな試みです。

「コンダンサシオン:アーティスト・イン・レジデンス エルメスのアトリエにて」展
~2014年6月30日


会場:銀座メゾンエルメス8階フォーラム
住所:東京都中央区銀座5−4−1
TEL: 03-3569-3300
開場時間:11時~20時(日曜のみ19時まで。入場は閉場30分前まで)
会期中無休
入場無料
www.maisonhermes.jp