“本物”を追い求めたスウェットウエア

  • 写真:江森康之
  • 文:小暮昌弘

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デスティネーション ショップ 01:優良なスウェットウエアの専門店「ループウィラー千駄ヶ谷」。

クラシックなつくりで、いまを表現するスウェット

ループウィラー代表でありショップのオーナーでもある(株)ミスズの鈴木 諭(さとし)さん。大学を卒業後、商社に勤務。糸のセールス中に出逢った和歌山県の吊り編み機に魅せられ、いまから15年前の1999年、ループウィラーが誕生した。
今年で15周年を迎える「ループウィラー」。店に並ぶスウェットウエアやTシャツを見ると、脇の部分に縫い目がないことに気づきます。これは、ボディが丸く1枚の素材で編まれている証拠。しかもこの素材は、すべてが「吊り編み機」という旧式の編み機によってつくられています。この機械は、1960年代中盤まではアメリカでスウェットウエアの製造に使われていましたが、いまでは姿を消してしまった、幻の機械です。
実は、ループウィラーの編み地をつくっているのは和歌山県にある3社の工場で、吊り編み機は日本ではこの和歌山にしかありません。なおかつスウェットウエア用の生地である「裏毛」を吊り編み機で編めるのは、いまや世界でもここだけということです。
吊り編み機による生産は効率こそよくありませんが、とてもゆっくりとした速度で編まれているため、生地に独特の風合いをもたらします。ループウィラーというブランドは、この機械との出会いによって生まれたといっても過言ではありません。
ループウィラーの生みの親である代表の鈴木 諭さんは「つくり方はオリジナル(に忠実)で、クラシックだけど、出来上がるものはコンテンポラリーなものでありたい」と、ブランドと商品のコンセプトを語ります。古い素材を使うと、ついヴィンテージ風に仕上げてしまいがちですが、ループウィラーのスウェットは、ある意味、素っ気ないほどベーシックです。こだわってつくっているそぶりさえ、簡単には見せません。
「昔、アイビーリーガーなどの学生がスウェットを着ていたのも、そのときカッコよかったから。いまカッコよくなければ、(洋服として)ダメだと思うんです」と鈴木さんは語ります。現代的なスウェットシャツであるために、時代に応じて微妙にサイジングを変え、定番であっても常に進化させています。ショップのインテリアもこうした姿勢の表れといえるでしょう。内装は、いたってモダン。商品はガラスの什器に収められ、ショールームのような空間デザインです。吊り編み機や糸などの原料を見せるつくりは、ループウィラーというブランドの原点を語っているといえるでしょう。
LWゴマシオ カーディガン¥25,200。「LWゴマシオ」と呼ばれる素材を編める機械は、和歌山にも1台しかない。
ボタンもブランド名が刻印された本水牛ボタン。前立ては1時間に20cmしか編めないという鹿の子素材が使われている。

上段写真:ショップの入り口に飾ってある吊り編み機。日本で紡績された糸を和歌山県で編み、岐阜県で染色、青森県で縫製。製品は日本を半分縦断してつくられる。




吊り編み機=TSURIAMIは、世界遺産ともいうべき機械

吊り編み機のオリジナルは、スイスとドイツでつくられたといわれ、それがアメリカに渡って広く使われるようになったといいます。しかし和歌山にある機械は実は日本製。明治期に繊維産業が近代化されると日本に技術が輸入され、機械そのものも日本で製造されるようになりましたが、いまは製造するメーカーはなく、工場それぞれが年代ものの機械を整備して稼働させています。
「古いクルマをチューニングしているようなものです」と鈴木さん。和歌山のカネキチ工業と和田メリヤスにはそれぞれ約100台、部品を取るためにも同じくらいの台数が大事に保存されているとのこと。
「昔は裏毛を編む機械として一般的な機械だったんです。吊り編み機という言葉は、工場の梁から機械を吊るしたので、誰かがそう呼んだのがはじまりです。『LOOP WHEEL=ループホイール』と呼ばれる部品が機械に付いていたので、私たちもそれを参考にブランド名を考えました。でも、スウェット用の裏毛を編んでいるのはもう日本の和歌山だけなので、そろそろこの素材は、ローマ字で『TSURIAMI』と呼んでアピールすべきかもしれません」と鈴木さん。
この機械は、糸の自重のみでゆっくりと編んでいきます。一般的に使用されるシンカー編み機の約1/10のスピードで、1時間に約1mしか編むことができません。空気を含ませるように編んでいくため、できあがりの風合いは独特です。糸にストレスをかけていないので、着る人ばかりか素材にも優しいのです。
しかし、吊り編みで編まれた生地も良いことばかりではありません。「度目(どもく)」と呼ばれる目を詰め過ぎると硬くなりますし、ゆるいと縮んでしまいます。特に裏毛は、機械と糸の太さと種類のバランスを上手く計算していかないと、いい風合いができません。機械さえあれば編めるという単純な話ではないのです。
鈴木さんは元々商社で糸の専門家だったので、原料から縫製までを熟知。
ループウィラーのスウェットには袖口に日本語表示のタグが付けられる。

上段写真:裏毛、天竺、鹿の子などの生地は、それぞれ部品を変えて編んでいく。綿糸も植物なので毎年の出来が違う。いくつかの原綿をブレンドして紡績。染色は岐阜で行われる。



方法はクラシックでもコンテンポラリーでありたい

吊り編み機を使って編まれたボーダーシャツ¥12,600
吊り編み機の柔らかさとドライなタッチが共存した、「インレイ」という新素材を使ったロングパンツ¥16,800
ループウィラーの代表的なアイテムは、何と言ってもスウェットシャツです。ループウィラーで「四天王」と呼ばれているのが、まず品番「LW01」と呼ばれるクルーネックタイプ。これはブランドが生まれて初めてつくった製品で、何度もサイジングを変えながらつくり続けられています。そして「LW05」はプルオーバータイプ、「LW09」がジップアップタイプのパーカです。4番目が「LW290」というハイジップタイプのパーカで、4年ほど前に開発し、定番化されました。他の3点が脇に縫い目のない「丸胴」なのに対して、「LW290」は脇に縫い目を入れ、シルエットがシェイプされています。ジッパーもダブルジップ仕様となり、とても人気が高いモデルです。
どの製品も裁断はすべて手作業で行われており、袖などの縫製はアメリカのユニオンスペシャル製のフラットシーマーと呼ばれているミシンで、青森の丸和繊維工業で縫われています。
「このステッチがきれい過ぎず、ユル過ぎない。スウェットシャツの味をつくるんです」と鈴木さん。「LW290」は、ジッパー脇に縫い目を入れず、ジッパーを見える仕様にしてさらにシンプルに。一口に定番スウェットといっても、徹底して縫製やディテールを煮詰めていることも専門店ならではです。
ベーシックなスウェットシャツ以外にも、Tシャツから鹿の子地のポロシャツにいたるまで、すべての素材は吊り編み機によるもの。「実は鹿の子素材がいちばん編むのに時間と手間がかかるのです」と鈴木さんは語ります。時間と愛情がたっぷりと注がれてつくられた製品だけがこの店に並んでいると断言できます。
吊り編み機で丸胴に編まれた素材の裁断は手作業でしかできない。首と肩の美しいカーブは一点一点職人の手でカットされてから縫製されている。「LW09」¥18,900
「LW290」のフロント部分。ジッパー脇にステッチのない仕様で、ジッパーが虫のように見えることから、社内では「虫見せ」と呼ばれる。

上段写真:胸にハリスツイードのポケットを配したハイジップパーカ ¥22,050




アメリカのミシンを使った4本針のフラットシーマー。縫い代が少なく、素肌に着ると縫い目が感じられないくらい。

さまざまな才能とのコラボも大きな魅力

鈴木さんが履いているのは、スウェット素材でつくられた「ループウィラー×ナイキ ワッフルレーサー」。すでにショップでは完売した靴だ。
ループウィラー千駄ヶ谷のインテリアをデザインしたのは、「ワンダーウォール」を主宰するインテリアデザイナー、片山正通さん。「NIKE原宿」「トム ブラウン ニューヨーク 青山」など話題のショップを手がける人で、鈴木さんとは、パリ・コレットで販売された片山さんの出版記念Tシャツを2003年につくって以来の長い付き合いです。「常にコンテンポラリーな商品を」という鈴木さんの意図を十分に汲んだモダンなデザインのショップには、代表的なアイテムを中心に製品が美しく飾られています。店内はさまざまなブランドとコラボレーションしたアーカイブ品も並ぶ、ループウィラーのショールームのようなつくりで、ファンには垂涎の空間といえます。
コラボレーションしているブランドでいちばん有名なのが、「ナイキ」でしょう。これはアメリカのナイキ本社の担当者が千駄ヶ谷のショップを訪れて個人的に買い物をしていた縁もあって実現したもの。コラボ商品はこの店と世界中の限られたナイキショップだけで展開されています。人気が高く、発売後すぐに品切れになってしまうことも多いのですが、今年も継続して生産される予定です。「ベアブリック」や「シュタイフ」など、異業種とのコラボレーションもループウィラーの特徴ですが、この春は「ビームス」と「グラミッチ」とトリプルコラボしたパンツや、マーガレット・ハウエルがデザインする「MHL」との初のコラボ製品などが予定されています。
ループウィラーのショップは千駄ヶ谷のほか、大阪、福岡にも。海外からの顧客も多いので、オンラインで世界中どこからでもワンクリックで商品を買うことも可能です。でも、できるならぜひ直接お店を訪れて、製品を見て、触ってから買うべき品、それがループウィラーなのです。
整然と並んだスウェットシャツ。“四天王”がディスプレイされた什器は、英国の百貨店セルフリッジにあったクラシックな什器をイメージしてつくられたという。
「LW」だけのシンプルなサインボードで、ちょっと知らないとギャラリーかと勘違いしてしまいそう。ショップは原宿の喧噪から少し離れた、千駄ヶ谷の小径沿いにある。

上段写真:店内にはループウィラーのスウェットを着る巨大なベアブリックやシュタイフのベアなど、過去のアーカイブ的な商品まで展示。


ループウィラー千駄ヶ谷

東京都渋谷区千駄ヶ谷3-51-3 山名ビルB1F
TEL:03-5414-2350
営業時間:12時~20時(月~金)
11時~20時(土、日、祝 )
無休
www.loopwheeler.co.jp

“本物”を追い求めたスウェットウエア

  • 写真:江森康之
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