腕時計のデザインに新風を送り続ける、ISSEY MIYAKEプロデュースによるウォッチ・プロジェクト。今冬、16作目となる新作が誕生しました。その名は「ガラスの時計」。手がけたデザイナーは吉岡徳仁です。
「当初からガラスの腕時計をつくってみたかったのです。でも、衝撃とか機能の問題でハードルが高く、現実的には難しい。今回はパーツを分解して、強度の研究をしてもらいました。ガラスは光を放つ素材として、魅力があり、光に近い素材でモノづくりがしたかったのです」と吉岡は語ります。
吉岡にとって、ガラスという素材に対する意識は以前から特別なものがあり、建築、インスタレーションやアートピースで才能を発揮してきました。
「金属やプラスチックも使いますが、ガラスが一番美しい。その“本物感”を使って、100年経っても色褪せないものをつくりたいのです」
デザインとアート、建築の界面で世界を驚かす構想と構成のダイナミズムが、最も小さな部類に入るプロダクトに移殖され、凝縮されます。光を透過し、屈折させる繊細な素材を大胆に使う手練れが、腕時計に新しい境地を拓いていきました。それはどこへでも持ち運べる、デザインそのものにも見えます。
時計界に新風を吹き込む、斬新なマテリアル
透明なガラスの鉢の中に沈めた水盤のような文字盤上で無彩色の時・分針が角度を描く、シンプルでミニマルな構成。この「ガラスの時計」では、光を透過するガラスの視覚的な特質を、ソリッドな質量をもつフォルムに削り出し、磨き上げています。クリアな視界は前作「Oオー」でも使われた手法ですが、そこに硬質なテクスチャーをもち込み、「見えないもののカタチ」を生み出していきました。あらゆる入射光を揺るがせてフレアに返す曲面は、峻厳なフォルムを描きながら、どこか艶かしい妖しさをたたえます。ただ無機的に整然としているのではなく、それは「感覚を超越する光の彫刻」への感興を喚起するのです。
「形を変化させることがデザインなのだろうか。本当は、スケッチで描けるものではなく、感覚を超越するもの、心を揺さぶられるもの、感覚を生み出すようなものなのではないか」
一方、本革カーフ製のストラップは、円柱状の外殻を損なうことなくボトムに潜みこんでいきます。コンセプトと同様に、具体化し、製品としてのプロダクトに仕上げる作業にも隙がありません。
腕時計におけるデザインの変遷は、通常は極めて遅く進行し、しばしば停滞するもの。そうした中で、吉岡とISSEY MIYAKE ウォッチ・プロジェクトの邂逅は、腕時計の世界の貴重な瞬間です。世界的な才能と、それをカタチにするプロジェクトが出会う時、音を立てるように進化が始まります。「ガラスの時計」はそうした時計なのです。
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