2017年の「グッドデザイン賞」が決まりました。

2017年の「グッドデザイン賞」が決まりました。

2017年11月1日、六本木のグランド ハイアット東京で開催された授賞式会場で、今年度のグッドデザイン大賞が選ばれました。見事、大賞に輝いたのはヤマハの管楽器「Venova」です。審査委員と受賞者による投票によって決まる大賞選出の様子をお伝えするとともに、永井一史審査委員長と柴田文江副委員長のおふたりに2017年のグッドデザイン賞について振り返ってもらいました。

2017年度の大賞は、ヤマハの管楽器「Venova」が受賞!

2017年度の大賞は、ヤマハの管楽器「Venova」が受賞!

大賞選考の会場では、投票に先立って、各候補者が5分間のプレゼンテーションを行います。「Venova(ヴェノーヴァ)」は、開発者自ら壇上でVenovaを奏で、楽器を演奏する楽しさをストレートに表現。多くの方々の共感を呼びました。審査委員長の永井一史さんは「この大賞は、時代性を象徴したり反映していることが評価されます。いま、多くの人が行き詰まり感や閉塞感を抱いていると思うのですが、この楽器は人間の根源的な喜びを実現してくれる。そこに評価が集まったのでは」と振り返りました。副委員長の柴田文江さんは「プロダクトの完成度が評価されただけでなく、演奏で得られる『体験』という豊かな時間がいまの時代に必要とされたのでは」と続けました。最初の投票で僅差となったペースメーカー「Micra™」との決選投票を経て、2017年度のグッドデザイン大賞に選ばれたVenova。長い開発期間を積み重ね、ヤマハがデジタル先端技術をアコースティックに変換し、暮らしの身近な喜びとしたデザインプロセスに、感動したデザイナーたちも多かったようです。

  • 2017年度のグッドデザイン大賞を受賞したヤマハ「Venova」。小学校で習ったリコーダーさえ吹ければ、サクソフォンのような音色を奏でることができる夢のような管楽器。

  • 大賞候補者が行うプレゼンテーションでは、開発者たちが自ら「Venova」を使って実際に演奏を行った。その楽しげな様子と本格的な音色が、多くの共感を呼んだ。

  • 大賞を贈呈された、ヤマハ株式会社デザイン研究所の辰巳恵三さん。ヤマハ「Venova」のデザインを担当した。右は永井一史審査委員長、左は柴田文江副委員長。

大賞候補となったのは、このデザインです。

大賞候補となったのは、このデザインです。

「今年の大賞候補は、それぞれのジャンルで未来のモデルになる可能性を秘めたものばかりだった」と永井さんが言うように、各々の6つのデザインはどれもイノベーティブであり、領域を横断して大きな共感を呼んだプロジェクトやプロダクトばかりでした。審査委員がそれぞれ印象に残ったデザインを紹介する企画展「私の選んだ一品」で、「うんこ漢字ドリル」をセレクトした永井さん。声に出すのもはばかられる言葉と教育をブリッジする、そのあり得ない組み合わせを発見したのは、デザインの大きな可能性だったと強調します。また、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」も、実際に乗車した際に、旅の最後に多くの乗客の方が涙を流すエピソードを知り、単に車両のデザインにとどまらない、濃密な体験としてプログラム全体がデザインされていると感じたそう。
「今年は3年間審査を務めた中でいちばん印象に残ったし、ワクワクしました」とコメントした柴田さんは、一次産業を支援する流通システム「SEND」が、ビッグデータを使いながら、人が関わる時のインターフェイスが非常に洗練されていたことを例にとり、グッドプロジェクトがグッドデザインとして納得のいくものになっている点で今年らしかった、と評価しました。

  • インパクトあるネーミングとコンテンツで話題となった「うんこ漢字ドリル」(文響社)。学習を作業から楽しむものに、という目線に共感が集まった。

  • さまざまな平滑面に投写した映像を操作したり、タッチしたりすることが可能な、まったく新しいスマートプロダクト「Xperia Touch」(ソニー+ソニーモバイルコミュニケーションズ)。

  • 東日本旅客鉄道によるクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」。ハイブリッド車両というハードと列車の旅というソフト両面を追求した点にも注目したい。

  • 「Micra™」(日本メドトロニック)は世界最小のまったく新しいペースメーカー。外科手術や感染症の原因となるリードが不要に。患者の心理的負担を軽減する課題解決を実現。

  • SALHAUSによる「陸前高田市立高田東中学校」は、東日本大震災で被災した3つの中学校を統合した新校舎。地域社会に開かれた設計が評価された。

  • 生産者のモティベーションを立て直し、農業の魅力をつくることを最大の目標とした、BtoBベースの流通システム「SEND」(プラネット・テーブル)。

社会における「デザイン」は、ますます広がり、厚みを増す。

社会における「デザイン」は、ますます広がり、厚みを増す。

2017年はアジア各国からももちろん、国内からのグッドデザイン賞への応募数が増えました。そのことが社会にデザインが広がったことを示している、と感じた永井さん。それはデザインの領域の広がりと同時に、デザインが意味するものの厚みも増しているということ。「自分が取り組んでいることがデザインかもしれない」と意識する人が増えたことを実感した年だったと永井さんは言います。
またそれには、3年目となる「フォーカス・イシュー」の役割も大きいようです。デザインが専門の各カテゴリーだけで議論されるのではなく、社会共通の問題点や課題に対して、デザインに直接関わりのない“外側の人”をつないでくれたり、この「フォーカス・イシュー」がデザインを読み解く方法や視点になっていると永井さん。実際、受賞展に参加した企業の経営者や学生たちが時代性と言葉を結びつけて、これが「グッドデザイン」なんだと認識するようになったことは、60周年を経たこの賞のひとつのエポックなのかもしれません。
また、使い手にとって最も親しみをもちやすい賞である「ロングライフデザイン賞」がアップデートされ、新たな審査委員を迎えるなど、より広い見地から審査が行われました。この賞の審査委員長を務める柴田文江さんは、「ロングライフデザイン賞はそのカテゴリーの“顔”となっている製品が並びます。暮らしの中で大切になったものを応援して、そのデザインをつくり続けてもらいたい、と企業に伝える役割もあると思うんです。今回受賞したものは、主力商品として開発した企業を支える力になっていることを改めて確信しました。ちゃんと暮らしの中に入っているデザインはこれから新しく生まれるデザインのなにかしらのヒントがある。逆にデザイナーやつくり手は、ロングライフデザインから学ぶものが多いのではないでしょうか」と振り返りました。
デザインの深度が増すと同時に、デザインを語る言葉も緻密で多様であることが求められます。選ばれたデザインを見る機会はもちろんのこと、デザイナーや各領域のプロフェッショナルが審査のプロセスで交わす議論や提言を共有する場はますます大切になるでしょう。「グッドデザインとは何か」を私たちに投げかけ、一緒に考える機会を与えてくれるこの賞に、これからも注目したいと思います。

  • 2017年11月1日から5日まで、六本木の東京ミッドタウンで行われた、グッドデザイン賞受賞展の様子。5日間の展示で延べ25万人を超える来場者数を記録した。

  • 同じく東京ミッドタウンで行われたロングライフデザイン賞の展示。ゴム長靴から歩行者天国まで、長年にわたり生活者に支持され続ける優れたものが選ばれた。

  • ロングライフデザイン賞を受賞したうちのひとつ、携帯用カイロ「ホカロン」。発売から40年を経たいまもラインアップを拡充し、このジャンルの代名詞的商品となっている。