京都の町家をリノベート、日本愛に満ちたフレグランス&カフェ「ル ラボ 京都町家」を徹底ガイド!

  • 写真・文:一史

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抹茶にインスパイアされた人気の香り「THE MATCHA 26」。これはラベルに“京都”と書家の加茂学が筆書きした参考品。

ニューヨークで誕生したル ラボは、スローフードならぬスローパフューマリーを自称する個性派の香りブランド。日本では路面店が東京の代官山や青山などにあり、銀座「ギンザ シックス」のような商業施設にも出店している。壁が剥がれた倉庫のようなビンテージ系の内装が、ル ラボならではの空間表現だ。日本の「わびさび」をフィロソフィーにして不完全な美を追求している。和の美意識を解説したレナード・コーエン著の英語本『WABI SABI DESIGN BOOK』を販売するほど、日本に深い愛情を注ぐブランドでもある。
そんなル ラボが京都に2階建ての町家(職住一体型の家屋)を改装した「ル ラボ 京都町家」をつくった。のれんをくぐり一歩足を踏み入れたなら、ル ラボのファンでなくても思わず感嘆の声を上げてしまうだろう。歴史が息づく和の世界にトリップする贅沢な体験。部屋を移動するたびに発見があり、驚きの連続が待っている。
ル ラボにとって長年の夢だった町家出店である。京都伝統の室内構造を活かしてリノベートされた店のエッセンスを、たっぷりの写真でお届けしよう。

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1階 メインフロア

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店内奥から通り沿いのエントランスを見た様子。手前のシンクは改装前の町家で使われていたもの。水道設備を整えてリノベートされた。

ル ラボ 京都町家は昔ながらの建築構造とテクスチャーが最大限に尊重されている。店内を歩き回れば江戸〜大正時代の生活に触れられる。文化財保存の博物館を訪れたような愉しさだ。これから京都の観光名所になっていくのは間違いないだろう。最寄り駅は四条河原町で、百貨店や飲食店が立ち並ぶ京都の中心的な商業エリア。すぐ近くに流れる鴨川を越えると、そこは舞子や芸姑で知られる祇園だ。ル ラボ 京都町家をコースに組み込んだ観光ガイドを目にする日も近い。

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グラフィカルな色彩が美しい商品陳列コーナー。手を洗うシンクの横にスキンケア用品が勢揃い。ヒノキやバジルなどの自然派の香りが和の空間に馴染む。
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写真右側エリアが町家でいう「通り庭」(上掲載写真2点もこのエリア)で、左側の部屋が「座敷」。
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ガラス越しに「坪庭」が見える「座敷」がフレグランス類のコーナーになった。
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ル ラボを代表するオード パルファム「SANTAL 33」50mL ¥29,700(税込)をはじめとするフレグランスが並ぶ。京都町家限定の香りはなく、ラインナップは既存店と同じだ。

2階建ての家は1階が物販スペースと香水のブレンドラボ、 2階がギャラリー。家の外には坪庭とカフェがある。世界3店舗目となるカフェの日本初オープンも、ル ラボ 京都町家ならではの新しさだ(※詳しくは記事後半にて)。
町家は商人が仕事場を兼ねた住宅で、面白いことに構造がどの家でもほぼ定まっている。通りに面した部屋は「ミセ」で、“店”の役割。ここはお抱え職人の作業場でもあった。続く奥の部屋は「ダイドコ」で、料理をする“台所”とやや違い現代でいうダイニングやリビングに近いようだ。さらにその奥が、庭に面した「座敷」。ル ラボ 京都町家ではこの座敷をフレグランスコーナーにしている。

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2階 ギャラリー

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1階階段より2階に上がると、ギャラリーの2部屋がある。畳敷きなので靴を脱いで上がるのが閲覧マナー。
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階段を上がった先の部屋は「調香の間」。調香の原料や道具などを置いたデスクが片側の壁面に設置されている。
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あたかも明治・大正時代に調香が行われていたような佇まい。幻想的な異空間に魅了される。
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展示原料はル ラボ製品に使用されているもの。調香師のノートも再現されている。この部屋にいるとフレグランスの成り立ちが伝わってくる。

町家は横幅が狭く、奥に何部屋も連なるユニークなつくり。その理由は江戸時代からの税金対策にある。当時は税額が間口の幅で決められたため、狭ければ支払い額を少なくできたのだ。商業都市らしい実利的な工夫だった。
正面のエントランスから一直線上に庭までつながる、廊下のような通路も町家の特徴のひとつ。食材を売り歩く業者などが出入りする「通り庭」と呼ばれる通路である。床が土間仕上げで、履物を履いたまま歩ける。家の者が料理する場所もこの通り庭。木材の梁を複雑に組み重ねて天井を高くし、かまどの煙を外に逃がしたり外光を室内に取り入れた。
ル ラボ 京都町家において、エントランスから坪庭まで続く通路がかつての通り庭だ。高い天井構造もそのままにリノベートされている。優しい光が差し込む日本家屋の魅力を存分に味わえるエリアである。

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「調香の間」の反対側は「工匠の間」。作家のギャラリーとして活用されていく。
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モノづくりの歴史を物語る古道具たち。仕事道具に美を見出す感性は、アメリカのル ラボも日本の我々も共通している。
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天井のシーリングライトは和紙の円型のものが新たに取り付けられた。改装前は長方形の箱型ライトだった。
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掛け軸があった床の間をきれいに整え直して再活用。書は展示作家である加茂学の作品。
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書家の仕事場を表現した道具のディスプレイ。

靴を脱ぎ階段を上がる2階は、ル ラボ 京都町家でなにより見ておきたい和空間。2部屋にはどちらも商品を置かず、ギャラリーに特化している。調香で使う素材や道具を一部屋の「調香の間」に並べ、もう一部屋の「工匠の間」には京都界隈の職人やアーティストの作品を展示。
第一弾となる3月現在の展示は、書家の加茂学の仕事道具。店内の各所にある黒谷和紙に描かれた表札も加茂の手によるものだ。オープン記念としてフレグランスを購入した人がボトルに墨文字を入れてもらえるサービスも用意されている(記事トップ写真参照)。期間限定なうえに加茂が来店するタイミングに限るサービスだが、店舗スタッフに予定を尋ねれば運良く会える確率が上がるかもしれない。

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「工匠の間」の窓からは中庭が見える。揺らぎのある窓ガラスも改装前のもの。
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「坪庭」と呼ばれる町家の小さな中庭。奥の部屋がカフェスペースだ。

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屋外 中庭

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通り庭を出て坪庭から蔵に続く裏口。高い上部から光が差し込み、薄暗い室内を照らす。通路の土間には調理用のかまどなどが置かれていた。
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寂れた坪庭が見事に蘇った。昔のままここにあるかのように自然な仕上がり。

町家には通りから見えず、家の者と客人だけが座敷から眺められる小さな庭がある。それが坪庭でここにもその流儀がしっかり再現された。灯籠と奥の木は、明治12年(1879年)に建てられ現代まで存続してきた当時の面影を残すもの。それ以外はほぼ新しく用意されたしつらえだ。
この敷地のかつての商売は酒屋だった。坪庭の奥に蔵があるのも町家によくある構造である。リノベーションにあたりここに設けたのが、世界3店舗目となるル ラボ カフェだ。

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酒蔵の重厚な扉と外装を残し、室内をスタンド形式のテイクアウトカフェに。

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離れ コーヒー&ティーカフェ

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店名は「ル ラボ カフェ 京都町家」。コンパクトに整えられたスタンド形式のテイクアウトカフェだ。
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ル ラボ 京都町家の家屋の図案がプリントされた紙カップ。この絵は店のショッパーにも描かれた、世界でこの店だけの独自企画。

ル ラボが京都の新店にカフェをつくると聞いたとき、ひとつの疑問が頭に浮かんだ。それは「香水とコーヒーの香りが店内で混じったらカオスでは?」という考え。コスメと食品が同じ空間で調和するとは思えなかったからだ。でもその不安感は、実際に足を運ぶとすぐ消え去った。カフェスペースは坪庭を挟んだ離れにあった。香水売り場とは別の独立した建物で、さらに屋外に面している。ドリンク片手にベンチに座り、坪庭を眺めて一息つくと京都の空気が心に流れ込んでくる。

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この日は抹茶ラテをオーダー。スタッフが専用道具で抹茶を点てていく。
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きび糖シロップを入れたあとカップに注がれたのはオーツミルク。ヴィーガンカフェなので動物性食品を使わないのが店の方針。
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オーツミルクのさらりとしたコクと、きび糖の優しい甘さが抹茶の風味を引き立てる爽やかフレーバ。¥700(税込)。

ドリンクメニューはエスプレッソを使ったカプチーノなど5種類のコーヒー、3種類の紅茶、ラテを含む2種類の抹茶、3種類のソフトドリンク。フードは数種類のペストリーだ。どれもヴィーガンメニューである。白砂糖を使わずきび糖などに置き換えている。その理由は白砂糖の精製のとき動物の骨でろ過する工程があるから。白砂糖そのものに動物成分が混じることはないようだが、ヴィーガン思想の人は動物を利用した食品を避ける。ル ラボ自体がヴィーガンブランドであり、カフェにもその姿勢が息づいている。

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1階 エントランス

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正面左側の格子の内側が町家での「ミセ」部屋。格子による目隠し構造も町家の流儀だ。これは太い木材を組み立てた「酒屋格子」で、重い酒樽が当たっても壊れないよう頑丈につくられた。室内は水、アルコール、香料を瓶に詰めフレッシュな状態で販売する「メイド・トゥ・オーダー」の作業場になる予定。
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のれんをくぐり中に入ると古書が出迎える。隣(写真左)に並べられたル ラボのキャンドルと違和感なく調和するインテリア。
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調度品の大半は日本製のビンテージ。収納家具上に飾られた額装の押し花のようにヨーロッパから運んだ品もある。

この敷地のなかで物販スペースはごくわずか。 わびさびの美意識に根ざすル ラボの世界観を示す空間づくりがなにより大切にされている。
室内構造もテクスチャーも元の姿を残すこの店は、古き良き日本の空気に満ちている。東京、大阪、京都にある他店の調度品は海外から持ち運ばれたビンテージが中心だが、ここにあるのは大半が日本製。時間が経つのも忘れて細部まで見入ってしまう味わい深さだ。
日本の魅力を再発見する場所としても、京都のベストスポットのひとつになったル ラボ 京都町家。人気が続くフレグランス市場が、彼らの挑戦でますます盛り上がっていきそうだ。

LE LABO KYOTO MACHIYA

京都府京都市中京区木屋町通四条上る2丁目下樵木町206番地
営業:10時~19時
不定休
TEL:075-708-3905
www.lelabofragrances.jp

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【画像】京都の町家をリノベート、日本愛に満ちたフレグランス&カフェ「ル ラボ 京都町家」を徹底ガイド!

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抹茶にインスパイアされた人気の香り「THE MATCHA 26」。これはラベルに“京都”と書家の加茂学が筆書きした参考品。

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1階 メインフロア

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店内奥から通り沿いのエントランスを見た様子。手前のシンクは改装前の町家で使われていたもの。水道設備を整えてリノベートされた。

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グラフィカルな色彩が美しい商品陳列コーナー。手を洗うシンクの横にスキンケア用品が勢揃い。ヒノキやバジルなどの自然派の香りが和の空間に馴染む。
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写真右側エリアが町家でいう「通り庭」(上掲載写真2点もこのエリア)で、左側の部屋が「座敷」。
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ガラス越しに「坪庭」が見える「座敷」がフレグランス類のコーナーになった。
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ル ラボを代表するオード パルファム「SANTAL 33」50mL ¥29,700(税込)をはじめとするフレグランスが並ぶ。京都町家限定の香りはなく、ラインナップは既存店と同じだ。

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2階 ギャラリー

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1階階段より2階に上がると、ギャラリーの2部屋がある。畳敷きなので靴を脱いで上がるのが閲覧マナー。
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階段を上がった先の部屋は「調香の間」。調香の原料や道具などを置いたデスクが片側の壁面に設置されている。
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あたかも明治・大正時代に調香が行われていたような佇まい。幻想的な異空間に魅了される。
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展示原料はル ラボ製品に使用されているもの。調香師のノートも再現されている。この部屋にいるとフレグランスの成り立ちが伝わってくる。

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「調香の間」の反対側は「工匠の間」。作家のギャラリーとして活用されていく。
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モノづくりの歴史を物語る古道具たち。仕事道具に美を見出す感性は、アメリカのル ラボも日本の我々も共通している。
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天井のシーリングライトは和紙の円型のものが新たに取り付けられた。改装前は長方形の箱型ライトだった。
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掛け軸があった床の間をきれいに整え直して再活用。書は展示作家である加茂学の作品。
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書家の仕事場を表現した道具のディスプレイ。

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「工匠の間」の窓からは中庭が見える。揺らぎのある窓ガラスも改装前のもの。
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「坪庭」と呼ばれる町家の小さな中庭。奥の部屋がカフェスペースだ。

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屋外 中庭

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通り庭を出て坪庭から蔵に続く裏口。高い上部から光が差し込み、薄暗い室内を照らす。通路の土間には調理用のかまどなどが置かれていた。
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寂れた坪庭が見事に蘇った。昔のままここにあるかのように自然な仕上がり。

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酒蔵の重厚な扉と外装を残し、室内をスタンド形式のテイクアウトカフェに。

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離れ コーヒー&ティーカフェ

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店名は「ル ラボ カフェ 京都町家」。コンパクトに整えられたスタンド形式のテイクアウトカフェだ。
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ル ラボ 京都町家の家屋の図案がプリントされた紙カップ。この絵は店のショッパーにも描かれた、世界でこの店だけの独自企画。

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この日は抹茶ラテをオーダー。スタッフが専用道具で抹茶を点てていく。
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きび糖シロップを入れたあとカップに注がれたのはオーツミルク。ヴィーガンカフェなので動物性食品を使わないのが店の方針。
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オーツミルクのさらりとしたコクと、きび糖の優しい甘さが抹茶の風味を引き立てる爽やかフレーバ。¥700(税込)。

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1階 エントランス

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正面左側の格子の内側が町家での「ミセ」部屋。格子による目隠し構造も町家の流儀だ。これは太い木材を組み立てた「酒屋格子」で、重い酒樽が当たっても壊れないよう頑丈につくられた。室内は水、アルコール、香料を瓶に詰めフレッシュな状態で販売する「メイド・トゥ・オーダー」の作業場になる予定。
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のれんをくぐり中に入ると古書が出迎える。隣(写真左)に並べられたル ラボのキャンドルと違和感なく調和するインテリア。
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調度品の大半は日本製のビンテージ。収納家具上に飾られた額装の押し花のようにヨーロッパから運んだ品もある。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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