大満足の『MUCA展』、カウズ、バンクシー、インベーダーらが“美術”してる展覧会【後編】

  • 写真・文:一史

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前編(バンクシー編)に続きお届けする、
「MUCA展 ICONS of Urban Art~バンクシーからカウズまで~」
の後編は、バンクシー以外の5名の作品からのピックアップ。
オープン前日の2024年3月14日(木)に開催されたメディア向け内覧会で鑑賞したもの。
ストリート・アートをルーツに持つ現代作家10名の作品群はどれも魅力的でしたが、そのなかから特に「実物を見てよかった」と感じた作品です。
前回でも少し触れましたが、「作品が持つ物質感」を存分に味わえました。
メディアに流通する写真では伝わりにくい、作家の手の温もりを実感できたのは会場に行ったからこそ。

KAWS/カウズ

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カウズの美術性をまず感じたのが展覧会エントランス最初の部屋の隅っこ。アイコンフィギュアが中央に展示された部屋の壁に、さりげなく設置された小部屋。
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小部屋の中身はキャラが描かれた木の箱。閉じ込められた設定なのでしょうか?美術展らしい展示です。
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木箱の小部屋は、MUCA展の最初のエリアであるこの部屋の右下。解剖模型をパロディにしたメイン展示のフィギュアより小部屋のほうが私的に好みです。『KAWS/4ft Companion (Dissected Brown)/4フィートのコンパニオン(解剖されたブラウン版)/2009年』。

実は会場に行くまでカウズの魅力をずっと理解できていなかった者です。
アイコンキャラを利用したコラボ商品ばかりが目につき、素直によさを感じる機会がなくて。
2021年に東京・森アーツセンターギャラリーで行われた大規模な単独展にも足を運ばず。
今回この『MUCA展』で期待したことのひとつが、カウズを美術としてちゃんと見ること。
わたしの偏見を打ち壊してほしかったのです。
その結果、確かに心地いい刺激を受けました。
(ちょっと嬉しい)
ただ悲しいことにわたしの感性が鈍いのか、某歴史的キャラクターがルーツと思われる目がバッテンのアイコンキャラ「コンパニオン」自体の魅力はわからずじまいです。

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MUCA展の最初の展示作家であるカウズの展示大部屋。白黒の絵は3点ともキャラクター「コンパニオン」を描いたもの。
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キャンバス横も丁寧に塗られ、作品が四角い立体の固まりとして確かな重みを持って存在してました。『KAWS/M4/2000年』。

コンパニオンの手のバツ印も、不思議な耳を持つ骸骨のような顔も別のモチーフから引用した説があるようです。
要は、元ネタがあると。
モノの見方を変えるパロディ手法の作家でしょうから、オリジナルでない寄せ集めなのがむしろ必然なのかもしれません。
作品に繰り返しコンパニオンを登場させ知名度を上げたことで成立させたのが、上写真のモノクロキャンバスアート。
コンパニオンの部分アップを描いたグラフィック。
図案として素直にカッコいい印象でした。
モチーフのコンパニオンを知らない子どもが見たら、この抽象性をどう感じるか気になります。

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カウズの展示大部屋の反対側。中央の台は小さなブロンズフィギュアの集合体。
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今回のカウズのうち最高に魅力的だったシリーズ。DKNYなど90年代に大ブレイクしたアメリカブランドのポスターにペイントした作品群。左端『KAWS/Ad Disruption (Calvin Klein) /広告への悪戯(カルバン・クライン)/1997年 』。

カウズのコーナーでいちばん心惹かれた、街なかのファッション広告に落書きしたストリートアート。
カウズを一躍有名にしたとされる作品群です。
わたしはファッション分野が仕事の主舞台ですから、より親しみを感じました。
これらの落書きがファッション写真を決して見下している印象はないんですよ。
むしろ「これ好きだけど自分ならこうしたいなあ」というおふざけで描き足したように思います。

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フランスのファッション誌「ジャルース」表紙への落書き作品。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。
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手袋とヘビ(?)のように化身したアイコンキャラが描き足されてます。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。

フランスの雑誌「JaLOUSe(ジャルース)」もこんなことに w
とはいえ元のモデルの表情がイッちゃってますから、カウズが描き足したところで写真の凄みは損なわれていないはず。
ずっと見ていたくなる傑作ですね。

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モデルがアクセサリーとしてぶら下げたのは、コンパクトフィルムカメラの名機「ヤシカ T4 ズーム」。海外市場向け名称の日本製カメラ。見た目チープで中身が凄いやつ。優れたファッション写真はディテールにも凝ってるのです。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。

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VHILS/ヴィルズ

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見る者を引き付ける木製扉と一体化した肖像。『VHILS/Dispersal Series #14 /消失シリーズ#14 /2019年』。
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近くに寄ると気づく、カッターナイフで削った濃淡表現。『VHILS/Dispersal Series #14 /消失シリーズ#14 /2019年』。

遠目では、または単なる記録撮影では込められた思いが伝わりにくい作品。
間近で見たことで感じた物質感と作家の手の温もりが心に響きました。
ヴィルズは都市の壁や廃墟を削り肖像画をつくったり、廃材を活用する都市の移り変わりを見つめる作風のようです。
この扉はスタジオで制作されたもの。
以下の動画の1分51秒に制作の様子が。

Vhils | Explosive Street Art

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JR/ジェイアール

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中央作品『JR/The Wrinkles of the City, Mr. Ma, Shanghai, China, 2010 /都市の皺「ミスター・マ」上海 中国 2010 /2010年』。
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紙の凹凸、ひび割れが写真にさらなる奥行きを与えています。『JR/The Wrinkles of the City, Mr. Ma, Shanghai, China, 2010 /都市の皺「ミスター・マ」上海 中国 2010 /2010年』。

イスラエルでパレスチナ問題の和解を図る写真を街に飾ったり、ブラジルの貧民街に足を運ぶ社会活動家のJR。
バンクシーと同様にストリート・アートが持つ力を最大限に活用している人なのでしょう。
会場は彼の活動自体に焦点を当てた展示で、本質を伝えようとする真摯な姿勢に思えました。
そのなかでも上写真の作品が街の息遣いまで感じられて強く印象に残っています。
「いつか亡くなる高齢者が若者に伝えるべきことに気づくことが大切」だと。

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INVADER/インベーダー

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パンク世代には感慨深いシド・ヴィシャスのドット絵。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。
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正面から見るとタイル構造なのがわかります。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。
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実はなんとルービックキューブをつなぎ合わせた構造。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。

これも立体の物質感がとてもよかった作品。
「ルービックキューブでこんなことできるんだ!」と。
芸術性への関心より、面白さの感情のほうが先に来ましたね。

ファミコンゲーム時代のようなピクセル絵を街に描いてきた作家の名はインベーダー。
ビデオゲーム黎明期の代表ゲームそのままの名前。
作風は徹底してピクセルモザイクです。
若くして亡くなったパンクロックのアイコンミュージシャンを題材に選んだことに意味があるのか?ルービックキューブを使ったことに必然があるのか?
わたしにはぜんぜんわからなかったですが w、とても魅力的な作品なことは間違いなし。

ルービックキューブは簡単にパーツをバラバラに分解して組み立て直せますから、制作はそこそこの時間で済んだと推察されます。
色も光も、各3原色の組み合わせでどんな色もつくれますから、冷静に考えればルービックキューブでなんでも描けるのでしょう。
とはいえわたしなんぞには思いつきもしない手法を披露してくれたインベーダーです。

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OS GEMEOS/オスジェメオス

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ファンタジーなムードもある絵画。『OS GEMEOS /Rhina/リーナ/2010年』。
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左人物の頭部にだけスパンコールが貼り付けられた立体表現。会場の照明を効果的にキラキラと反射して、作品に複雑な表情を加えてました。『OS GEMEOS /Rhina/リーナ/2010年』。

絵画的美しさでいえば、「MUCA展」でこれがベストだと思うのですが、皆さんはいかがでしょう?
ブラジルの双子ユニットで、1980年代ヒップホップシーンがストリートで活動し出した原点のようです。

絵本のような世界の魅力を言語化する頭脳をわたしが持ち合わせておらず、作品で伝えたい意図がなにかもわからずじまい。
右脳が揺すられつつ左脳が静寂なバランスの悪さが落ち着かず、作品横の解説文を読んでみましたが、「彼らのアイコニックな作品」くらいしか説明されておらず w

魅力的、ってだけで良しとします。
円形をモチーフだけでなく配置にも取り入れ、四角い画面の中心に据える安定感のある構図。
グリーン色の額縁も素晴らしいですね。
額なしだと印象がかなり変わりそうです。

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出口のグッズ販売部屋に貼られた展覧会のポスター。

前編(バンクシー編)と併せてお届けした「MUCA展」レポはこれで終了。
街で人の目を惹かせるストリート・アートは、いかにキャッチーなキャラクター性やアイコン性を獲得できるかが勝負なのだと実感しました。
ストリートで成功するとはそういうことなのでしょう。
何を伝えたいかの立ち位置はその人しだい。
社会問題に向き合うがゆえに屋外に出る人もいれば、街遊びの延長線上に思える人もいたり。
街から切り離して美術として展示し、各々の作家を並列して知ることができるこの展覧会の会期は2024年6月21日(金)まで。

All photos&text©KAZUSHI

Pen Online記事一覧
www.pen-online.jp/columnist/kazushi-takahashi/

KAZUSHI instagram
www.instagram.com/kazushikazu

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【画像】大満足の『MUCA展』、カウズ、バンクシー、インベーダーらが“美術”してる展覧会【後編】

KAWS/カウズ

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カウズの美術性をまず感じたのが展覧会エントランス最初の部屋の隅っこ。アイコンフィギュアが中央に展示された部屋の壁に、さりげなく設置された小部屋。
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小部屋の中身はキャラが描かれた木の箱。閉じ込められた設定なのでしょうか?美術展らしい展示です。
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木箱の小部屋は、MUCA展の最初のエリアであるこの部屋の右下。解剖模型をパロディにしたメイン展示のフィギュアより小部屋のほうが私的に好みです。『KAWS/4ft Companion (Dissected Brown)/4フィートのコンパニオン(解剖されたブラウン版)/2009年』

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MUCA展の最初の展示作家であるカウズの展示大部屋。白黒の絵は3点ともキャラクター「コンパニオン」を描いたもの。
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キャンバス横も丁寧に塗られ、作品が四角い立体の固まりとして確かな重みを持って存在してました。『KAWS/M4/2000年』

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カウズの展示大部屋の反対側。中央の台は小さなブロンズフィギュアの集合体。
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最高に魅力的だったシリーズ!DKNYなど90年代に大ブレイクしたアメリカブランドのポスターにペイントした作品群。左端『KAWS/Ad Disruption (Calvin Klein) /広告への悪戯(カルバン・クライン)/1997年

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フランスのファッション誌「ジャルース」表紙への落書き作品。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。
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手袋とヘビ(?)のように化身したアイコンキャラが描き足されてます。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。

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モデルがアクセサリーとしてぶら下げたのは、コンパクトフィルムカメラの超名機「ヤシカ T4 ズーム」。海外市場向け名称の日本製カメラ。見た目チープで中身が凄いやつ。優れたファッション写真はディテールにも凝ってるのです。『KAWS/Jalouse/ジャルーズ(嫉妬)/2007年』。

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VHILS/ヴィルズ

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見る者を引き付ける木製扉と一体化した肖像。『VHILS/Dispersal Series #14 /消失シリーズ#14 /2019年』。
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近くに寄ると気づく、カッターナイフで削った濃淡表現。『VHILS/Dispersal Series #14 /消失シリーズ#14 /2019年』。

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JR/ジェイアール

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中央作品『JR/The Wrinkles of the City, Mr. Ma, Shanghai, China, 2010 /都市の皺「ミスター・マ」上海 中国 2010 /2010年』。
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紙の凹凸、ひび割れが写真にさらなる奥行きを与えています。『JR/The Wrinkles of the City, Mr. Ma, Shanghai, China, 2010 /都市の皺「ミスター・マ」上海 中国 2010 /2010年』。

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INVADER/インベーダー

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パンク世代には感慨深いシド・ヴィシャスのドット絵。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。
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正面から見るとタイル構造なのがわかります。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。
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実はなんとルービックキューブをつなぎ合わせた構造。『INVADER /Rubik Arrested Sid Vicious /ルービックに捕まったシド・ヴィシャス /2007年』。

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OS GEMEOS/オスジェメオス

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ファンタジーなムードもある絵画。『OS GEMEOS /Rhina/リーナ/2010年』。
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左人物の頭部にだけスパンコールが貼り付けられた立体表現。会場の照明を効果的にキラキラと反射して、作品に複雑な表情を加えてました。『OS GEMEOS /Rhina/リーナ/2010年』。

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出口のグッズ販売部屋に貼られた展覧会のポスター。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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