上白石萌歌が語る谷川俊太郎の魅力「心をニュートラルな位置に戻してくれる」

  • 写真:吉田 塩
  • 編集&文:佐野慎悟
  • スタイリング:道端亜未
  • ヘア&メイク:猪股真衣子(TRON)

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70年を超えるキャリアの中で、詩集、絵本、翻訳、作詞など、あらゆる分野で数え切れないほどの作品を残してきた谷川俊太郎。13歳から101歳まで、各世代を代表するファンのことばから、いつまでも色褪せることのない、谷川作品の魅力の神髄に迫る。現在発売中のPen最新号『みんなの谷川俊太郎』から抜粋して紹介する。

Pen最新号『みんなの谷川俊太郎』。今年4月から開催されている『谷川俊太郎 絵本★百貨展』の見どころから、谷川俊太郎のインタビュー、自宅で見つけた思いが宿った品々などを掲載。また、10代から101歳までの俳優・作家・ミュージシャンらが、谷川作品について語ってくれた。谷川俊太郎の「ことば」をいま改めて見つめ直し、その魅力を未来へとつなげたい。

『みんなの谷川俊太郎』
Pen 2023年7月号 ¥880(税込)
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上白石萌歌●2000年、鹿児島県生まれ。11年に「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを獲得し、12年にデビュー。“adieu(アデュー)”名義で歌手としても活動。TBSドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』に出演中。シャツ¥29,700/ポール・スミス(ポール・スミス リミテッド☎03-3478-5600) イヤリング¥13,200/プラス ヴァンドーム(https://vendome.jp/plusvendome)

寛大さをもたらす詩の力で、心の弁当箱を詰め替える

俳優の上白石萌歌が谷川俊太郎の作品を初めて手にしたのは、小学5年生の頃。両親からビジュアルブックの『あさ 朝』をプレゼントされた彼女は「朝のリレー」を読んで、すぐに詩の世界へと引き込まれたという。

「私は小学1年生から3年生までをメキシコで暮らした後に、4年生の時に地元の鹿児島に戻ってきたので、“メキシコの娘”が出てくる『朝のリレー』には、すぐに親近感を抱きました。日本にいた時は、地球の裏側にいる人のことを深く考えるようなことはありませんでしたが、ちょうど、ついこの間までメキシコにいて、いまは日本にいるという自分の状況が詩の内容とリンクして、丸い地球で朝のリレーをつないでいくというイメージが、とてもクリアに実感できたんです」

上白石さんは大人になったいまも、日課のように谷川の作品に触れているそうだ。

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上白石さんの谷川コレクション。谷川の撮る写真も好きということで、5/27まで開催されていた谷川俊太郎写真展『楽園 lost & found』のチケットの半券も大切に保存している。

「私は寝る前に読書をすることが好きで、ベッドサイドには、常に谷川さんの詩集が数冊置いてあります。谷川さんの詩は、いつでも子どもの頃の感覚を思い出させてくれて、心をニュートラルな位置に戻してくれるんです。つい最近も、休みの日の朝に公園で谷川さんの詩集を読んでいたら、本の上に一匹の蜘蛛が上ってきたのを見て、少し幸せな気持ちになれたんです。普段なら蜘蛛を怖いと思ったかもしれませんが、谷川さんの詩を読んでいると、少し寛大な心もちになれるんです」

上白石さんのお気に入りは、『これが私の優しさです』に収録されている「おべんとうの歌」。些細なことに喜びを見出していく冒頭からの流れが、彼女の心に“寛大さ”をもたらすのだろう。

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『これが私の優しさです』
谷川俊太郎 著 集英社文庫 ¥528

1993年刊行の詩集。『二十億光年の孤独』『ことばあそびうた』『コカコーラ・レッスン』などからの抜粋で構成されており、「おべんとうの歌」は『うつむく青年』(1971年)に初出。

そして少し腹をたてる
あんまり簡単に
幸せになった自分に

(「おべんとうの歌」より)

 

「ただ、いちばん好きなところは、あまりに小さなことで幸せになった自分に腹を立てる“そして少し腹をたてる〜”という部分です。人は小さなことで幸せになれる分、同じくらい小さなことで傷ついたりもします。人の心ってお弁当箱みたいに詰められるものの量が限られていて、そこになにを詰めるかで、生き方が変わってくる。そういうことを考えさせられます。誰もが共感できる内容から始まり、話が進むうちに視点が変わって自分を俯瞰で見るようになり、最後には地球の重さを考えるというスケール感のある展開も、谷川さんらしくて大好きな部分です」

谷川の詩には、心の弁当箱をきれいに詰め替えてくれる、不思議な作用があるようだ。

詩、絵本、歌、翻訳、心に響く”ことば”のすべて
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