自分のやり方を固めず、常に変化したい。5年後は熱湯風呂に入っているかもしれません(笑)

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    51 成田悠輔|経済学者/起業家

    各界で活躍する方々に、それぞれのオンとオフ、よい時間の過ごし方などについて聞く連載「My Relax Time」。第51回は、経済学者であり起業家として活躍するかたわら、テレビ番組やYouTube番組にも数多く出演し、社会課題に一石を投じ続ける成田悠輔さんです。

    写真:殿村誠士 構成:舩越由実

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    成田悠輔(なりた・ゆうすけ)●1985年、東京都生まれ。専門はデータ・アルゴリズム・数学・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、多くの企業や自治体と共同研究・事業を行う。マサチューセッツ工科大学(MIT)Ph.D.。イェール大学アシスタント・プロフェッサー。半熟仮想株式会社代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤング・グローバル・リーダーのひとりに選出。著書に『22世紀の民主主義選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SBクリエイティブ)など。

    1年くらい前は社会的な問題について報道番組で議論するような仕事が多かったんですが、最近はアーティスト、クリエイターとゆったり話したり、お笑い番組で芸能人と掛け合ったりみたいな仕事が増えていますね。研究や教育もやっています。研究とは違って、メディアの仕事はほとんど気負いすることなく楽にしています。楽な時のほうが、いちばん自分の本質に近い部分が出やすいと思うからです。準備すればするほど型ができて、他人や業界のやり方に影響されてしまう。私がトークネタの準備を頑張っても芸人さんの話芸には敵わないし、ヘアメイクを頑張ってもモデルさんやアイドルさんたちとは戦えない。なので寝ぼけたまま寝癖で現場に行って、ぎこちなくつまらないことを話すのが、私なりの戦略です。まぁサボってるだけですが(笑)。

    最近は世の中の変化が早すぎます。求められること、許されることもどんどん変わるので、考えすぎずにいろいろなやり方を試すしかないかなと。そのために自分なりのやり方を固めないほうがいいと考えていて、5年経ったら別人ぐらいに変化しているのが理想ですね。実際、5年前は人前に出る仕事は一切していなかったので、他人から見たら別人になってそうです。5年後も変わっていると思いますよ。熱湯風呂に入っていたり、国際指名手配されたり、出家したりしているかもしれないです(笑)。

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    オンなのかオフなのか、休みなのか仕事中なのか分からなくなっていくと、リラックスして素直に仕事ができるようになるんじゃないかと思っています。たとえば「本番は練習のように、練習は本番のように」という言葉があります。音楽家でもアスリートでも、練習は惰性で流してしまいがちだし、本番は緊張しすぎる傾向がありますよね。だから練習と本番の中間の緊張度を取れたらいちばんいいわけです。そのためにオンオフを区別しなくてもいいような心と身体の状態をつくり出すように心掛けています。

    本番っぽい状況にお酒を持ち込んでみることもあります。飲みながら考えたり、飲みながら作業したりしたほうが、新しい発想が出てきやすいこともある。お酒を飲むのも、睡眠を増やしたり減らしたりするのも、要は自分の中にある別の側面を引き出すための手法です。フードデリバリーで1万円分頼んで暴飲暴食をしてみるとか、とりあえずお金を使ってみるのもいいですね。YouTuberみたいですが(笑)、一見しょうもないYouTubeのバラエティ企画みたいなものが意外に人間の創造性の本質に関わっているのかもしれません。

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    暴飲暴食や散財は持続可能性が低すぎますが、もうちょっと持続可能性がある方法として場所を変えてみるのもいいですね。先日、小田原にある江之浦測候所という不思議な場所に行ってきました。相模湾を眺める高台にある場所で、写真家、美術家の杉本博司さんが構想に10年、建築に10年をかけて、2010年に開所したそうです。色々な土地や時代から集められた石造品が散りばめられ、それらを覆うようにレモン畑や竹林が繁ります。茶室、ガラスでできた能舞台、そして海に向かう錆びついた鉄でできた飛び込み台も屹立する。杉本さんは「私は遺跡を作りたい。この測候所の基本は石でできている。現代文明が滅んだあと、例えば五千年後、ここは遺跡となって美しい姿を晒す」と語っています。普通は共存しないものが共存してしまっている場所に行って、ただただ石の声を聴いてみるのも一興です。

    そう考えてくると、たばこも同じく、自分のモードを変えてみるためのツールのひとつ。小田原に行く前に養老孟司さんに会いに行きました。養老さんはかなりのヘビースモーカーでちょくちょくタバコ休憩を取られます。僕は普段は吸わないのですが、養老さんにもらった久々の葉巻がおいしかった。養老さんが大学で教壇に立っていた時代は、たばこを吸いながら教える教授がいたり、オフィスで仕事をしながらたばこを吸うのが普通でした。現在では分煙化が進み、人前で吸うことは当たり前ではなくなりました。この数十年のたばこに対する世間の反応の変化と似たことが今後、ほかの嗜好品や娯楽にも起きるかもしれません。時代の空気はどんどん移ろうものだということを前提に、自分の生きる姿勢を柔軟に変えていくことが大事なんだと思います。

    ●WORKS

    『挫折しそうなときは、左折しよう』
    成田の初となる翻訳絵本。著者はマーク・コラジョバンニ、イラストはピーター・レイノルズ。

    『HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE09+ YUSUKE NARITA』
    ハイファッションを身に纏い、表紙を飾った一冊。表紙の撮影は写真家の野村佐紀子。

    問い合わせ先/JT
    www.jti.co.jp