「被写体に誠実に向き合えるカメラ」フォトグラファー長山一樹が語る、ライカSL2の真価

  • 写真:長山一樹 
  • 文:一史

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優しく滑らかなレンズのボケ味を生かした立体感のある切り撮り。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.」 f:4.0 SS:1/800sec ISO:100 EV:−1 3/10

「楽しかったなあ。『ライカSL2』での撮影」

これはフォトグラファー長山一樹がインタビュー取材を終えた帰り際につぶやいた台詞である。さらに続けてもう一言。

「ホントにほしくなってるんですよね……買っちゃおうかな??」

ここに掲載している写真は、有名俳優からファッションモデルまでスタイリッシュに人物を撮り続ける長山が、ライカのフルサイズミラーレスカメラ「ライカSL2」とともに過ごした私的な一日の記録。このために東京から静岡県の熱海まで足を運び、カメラと自身を和モダンの世界に置いた。仕事生活から離れた、写真好きなひとりの男の“趣味”の目線が息づく。

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歴史ある旅館にて、さまざまなレンズで撮影

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長山一樹のセルフポートレート。ライカSL2とレンズの力で光も影も階調豊かに表現されている。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」 f:4.0 SS:1/320sec ISO:100 EV:−1 3/10

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部屋は熱海の旅館「大観荘」。長山の馴染みの旅館だ。普段は入れない特別な部屋を彼が自ら交渉して撮影許可が出た。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」 f:4.0  SS:1/60sec ISO:400 EV:−1 3/10

今回の撮り下ろしはカメラ本体がライカSL2で、レンズもすべてライカ製。クラシックなスーツの着こなしで知られるスタイルアイコンでもある長山自身が被写体になった写真は、彼がディレクションしたセルフポートレート。アンダーな暗めのトーンに露出を決め、シャープな構図にまろやかなニュアンスを与えた。さらに、ライカレンズ特有の滑らかなボケ味を活かす狙い方にもトライ。

撮り終えたあとのデジタル調整については、「色温度を調整しています。写真の印象を決める重要な要素ですから。ただトリミングはわずかですし、基本設定もデフォルトから変えていません。どれも掲載したものはほぼ、“撮って出し”といえるでしょう」とのこと。

低コントラストでアンダーに撮った写真でも、シャドウ(最暗部)が潰れずにハイライト(最明部)まで豊かな階調が出ている。このラティテュード(露光域)の広い画質は、ライカならではといえるだろう。

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ミラーレスカメラへの期待

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「ライカのズームレンズは単焦点レベルのクオリティ」と長山。「ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.」MM:46 f:5.6 SS:1/6sec ISO:100 EV:−1 3/10

実は長山がライカSLシステムを試すのは今回がはじめてではない。初代「ライカSL」を発売当時に購入して使ったことがあるのだ。しかし仕事で中判のハッセルブラッドに加えて国内メーカーの一眼レフを使う彼には、ミラーレスカメラに違和感があったらしい。

「どうしてもブラックアウト(※撮影中にファインダーが短時間真っ黒になる現象)やレスポンスの遅さが当時のミラーレスカメラには感じられて。海外旅行などでスナップする趣味の領域ではレンジファインダーのM型ライカが便利でよく使ってましたが、ライカSLは狙った意図で被写体を撮る目的のカメラ。そうなると仕事の道具としては国産一眼レフで十分という結論に至り、やむなく手放しました」

それでも長山はメカとしての魅力を放つライカへの思いを捨て切れず、アップデートされた次世代のライカSL2を試す機会を狙っていた。今回じっさいに使った感想を聞いてみると、「ついに僕の仕事で使えるカメラになりました。これならミラーレスを仕事で使う気になります。電子ビューファインダーの解像度は高く、ブラックアウトも気にならない。静物はともかく人物撮影ではブラックアウトは大問題ですから、そこが解消されたのが嬉しいですね。フォーカスも初代より早くなってます。もちろんライカレンズを仕事で使えることの喜びも大きいです」

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ボケが大きな開放絞りでもピント面はシャープ。開放から使えるライカレンズの個性を生かした写真だ。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/75mm ASPH.」 f:2.0 SS:1/1000 sec ISO:400 EV:−1 3/10

 

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手前にひさしを写り込ませた、浮世絵の歌川広重のように奥行きのある構図。色温度調整で青みを強調した色具合も巧みだ。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」f:2.0 SS:1/400sec ISO:100 EV:−1 3/10

LマウントのライカSL2は専用のSLレンズだけでなく、同マウントを採用した他社のレンズも使用可能。ライカのシステムを導入するときにコストを抑えたり、用途によって各社のレンズの特性を楽しんだりすることも可能だ。ただしプロフェッショナルフォトグラファーの長山にとっては、「ライカ=レンズ」でもある。気に入ったレンズを使いたいからボディにライカSL2を選ぶといった、ライカ好きらしい逆転発想をする。

「今回の試し撮りで楽しみだったことのひとつが、近年ラインアップに加わった『バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.』を使うこと。既存の『バリオ・エルマリート SL24-90mm F2.8-4.0 ASPH.』は周辺光量落ち(※写真の四隅が暗くなること)がなく、ピントの芯が開放絞りからシャープな素晴らしいレンズです。ズームレンズとは思えないほどのクオリティ。ふだん単焦点しか使わない僕も別格と思う出来栄えでした。そこで開放絞り値が2.8通しで明るくなったうえに、小型化された24-70mmも気になっていました。しかも価格も手に取りやすくなってます。試したらこちらも素晴らしい画質で、レンズ選びの新たな選択肢が加わったことを実感できました」

わずかな仕上がりの違いでも気にするプロフェッショナルフォトグラファーの見解には説得力がある。記事内の写真には24-70mmの作例はないが、レンズ選びの参考に覚えておこう。

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その美しいボケ味が、ライカを選ぶ理由のひとつ

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Lマウントレンズを代表する単焦点50mmの作例。「開放絞りのボケ味を見たかった作例です」と長山。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」 f:2.0 SS:1/640sec ISO:100 EV:−1 3/10

「このレンズは、“ザ・ライカ”です」と長山が言う「アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」も入手しておきたいレンズ。歪みなく素直にモノが写る50mmは写真を学ぶ人に推奨される基本の画角であり、経験を積んでさらに愛着が湧くレンズでもある。

「これに限らずライカのレンズはボケがとても自然です。一般のレンズだと特定の距離から奥が急にボケて、境目がはっきりしがちですがライカは滑らか。風景より人物の顔を撮るとその違いが明白に出ます。優しいボケは、料理に例えるなら和食の出汁のようなもの。味の濃い料理のわかりやすさというよりも、素材そのもののよさを知ってくると大きな違いを感じるようになります」

レンズの味わいの差を大切にする長山でも、その価値観が万人向けではないことも指摘する。「いまはスマートフォンで写真を見るのが一般的になりました。多くの人が好むのは、背景が強くボケた写真。そのような写真を人に見せると、『おおっ』と強い反応が返ってきます。周辺光量落ちもデジタルで補正できますし、正直言って、目の前にある写真がいいカメラといいレンズで撮られたものかどうかはいまやプロでも判断しにくいでしょう。でも撮る側にはその違いはとても重要。ちょっとした差かもしれないけど、そこに写真に向かう気持ちが表れてくるものです」

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撮る気持ちにさせるライカSL2のボディ

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アンダーな露光と青い色合いが、何気ない松の葉をオブジェとして浮かび上がらせた。「ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.」 f:2.0  SS:1/400sec ISO:100 EV:−1 3/10

写真に向かう気持ちを高めてくれるのは、金属削り出しならではの重量感があるライカSL2のボディにも共通するようだ。「機能面だけなら他社のカメラと大きな違いは感じません。でもきちんと被写体に向き合いたくなる、写真を撮りたくなるカメラとなると、ライカ以外に選択肢がないんです。メカを触っているという物質的な手応えがあります。マニュアルでピント合わせして使いたくなるカメラ。子供の頃のように脳内でアドレナリンを出してくれる、そんなカメラです」

次々と絶賛のコメントが飛び出す彼に、ボタン類といった実用面での使い勝手を聞いてみた。「僕の私的な希望で言うなら」と前置きしたうえで彼が語ったのが以下の見解だ。「フィルム時代のカメラを使い慣れた身ですから、欲を言うなら外観だけでISO感度、露出、シャッタースピードらの設定が一目でわかるアナログの専門ダイヤルがほしかったところです。もっともミラーレスカメラは、背面液晶へのタッチで素早く設定を変えられます。じっさいに使って不便さは感じませんでした」

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M型からライカSLシステムへの広がり

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陽が落ちた海岸を古典映画のごとくにスナップ。「ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.」 MM:90 f:4.0  SS:1/800sec ISO:400 EV:−1 3/10

たとえばレンジファインダーのM型ライカを持っている人が次のステップとしてライカSLシステムを手に入れるなら、どんな布陣を組むのがいいのだろうか。「最初はL用Mレンズアダプターをつけて、M型用のレンズを取りつけて使うのがいいと思います。M型とミラーレス一眼のカメラとでは撮り方が異なりますから、親しみのあるレンズでそのズレを埋めていく作業をすれば、現代的なライカSLシステムのよさに気づいていくでしょう。食わず嫌いを克服できるかも」

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ライカの思想が詰まったフルサイズミラーレスシステム

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「本体のエッジを丸くせず、メカっぽくした設計もいい」と長山が語るライカSL2。人間工学的に基づき無駄を削ぎ落したデザインは写真を撮る機械としてのひとつの考え方だ。「ライカを購入することは、その思想や哲学にお金を払うということ」。Photo: Leica

これまで国内メーカーで揃えていた仕事用一眼レフのシステムを総とっかえするかもしれないほど、ライカSLシステムに惹かれている長山。「“本物”を安っぽく撮らず、ポートレートはしっかりと撮る」という写真スタイルの彼には、「被写体に誠実に向き合うときにふさわしい」ライカSL2が心に響くのだろう。

ミラーレスは背面液晶でも電子ビューファインダーでも、写真の明るさや色をリアルタイムで確かめられる。意図した写真を手軽に得やすい便利なシステムである。この出現により誰もが失敗しない写真を撮れるようになった。しかし良質な写真が増えてきたことと、使う満足感を得られるカメラの数とは必ずしも比例しないようだ。現代の先端テクノロジーを搭載しつつ、撮る人の精神性に作用する貫禄を併せ持つフルサイズミラーレスカメラは、世界中を見回してもライカSLシステムをおいてほかにないのかもしれない。

ライカカメラジャパン

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