東京古靴日和#9
NIKE AIR FORCE1の“AIR崩壊”からのリメイク法

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    シューズデザイナーの勝川永一です。
    「東京古靴日和」9回目のコラムです。

    私は「H.KATSUKAWA」というシューズブランドを展開するにあたって、イギリスの伝統的な紳士靴の本質的なモノづくりから強く影響を受け、そこをベースに独自の視点を取り入れたシューズクリエイションをしてきました。
    また、靴を何度もリペアをし長くという習慣は、サーキュレーションという観点からも現代人にとってより大事な習慣となりつつあるのではないでしょうか。
    そのような想いで、シューズデザインと並行してリペアやリメイク事業を【The Shoe of Life / シューオブライフ】というリペア店で12年間運営しています。

    さて、今回の「東京古靴日和」は、「NIKE AIR FORCE1の“AIR崩壊”からのリメイク」です。

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    ソールの違和感の原因を探ってみると…

    ずいぶん履いていなかったAIR FORCE 1を、ひさしぶりに履いてみると、「あれ?なんだか足の底が固い?」と違和感を感じました。
    私自身、初めての感覚です。

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    そもそもこのAIR FORCE1は、1982年に発売されたブルース・キゴア氏デザインのバスケットボールシューズです。先進的でバスケットボールコートだけでなく、ポップカルチャーにおいても基盤となっている1足です。
    個人的には、このボリュームあるシューズのフォルムが、ストリートファッションのボトムのフォルムも作ったのではないかと感じています。
    またその当時に画期的だったのは、ソール内部にエアクッションシステムが搭載されていることです。具体的には、中が空洞のミッドソールに圧縮ガスを閉じ込めたポリウレタン製のエアバックを埋め込んでいます。
    それによって優れたクッション性を実現しました。

    そんなレジェンダリーな存在であり、大好きなAIR FORCE1ですが、修理職人としては、この初めての違和感の原因を調べずにはいられません。とりあえず、こういう時は中を開けてみるしかありません。

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    スクリーンショット 2022-11-27 11.05.06.png

    サイドステッチを丁寧に切り、底を開ける準備をします。

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    そして、開けてみました。なるほど。中が加水分解している模様です。そして目に入ったのは、半透明のパーツ!これが“AIR”ですね。そのエアクッションシステムも硬化し割れています。
    割れてAIRのないポリウレタン素材が、足あたりを固くしていた様です。正直なところ、エアクッションシステムも初めて見る体験です。

    東京古靴日和09_5.jpg

    スニーカー好きの方なら、大事にとっておいたスニーカーをいざ履いてみたら「底がぼろっと取れてしまった…」といった経験をされたことがある方も多いのではないでしょうか。
    その原因は、ソールの加水分解です。

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    スニーカーの“加水分解”とは?

    ここで一度、よく聞く「加水分解ってなに?」という事を、簡単に説明します。

    私が運営している靴修理店「The Shoe of Life」でも、特にニューバランスのソール加水分解の修理を多数、請け負っておりますがスニーカーのミッドソールにはEVAやポリウレタン素材が多く使用されています。
    このEVAやポリウレタン素材は、軽くてクッション性が高く、耐磨耗性にもすぐれておりシューズにとって最高の素材と言えます。

    その反面、化学的に生成された化合物であることにより、空気中の湿度により加水分解による劣化が起こりやすいという点が最大の弱点です。

    空気の乾燥した欧米では、この様な加水分解が起こりにくいという話を聞いて、驚いたことがあります。その理由は、上記のような理論だったわけです。
    高温多湿なアジアに生まれ住んでいる以上、加水分解は一生背負わなければならない運命です。

    しかし、憂いているばかりでは何も始まりません。
    ここは、久しぶりに修理職人としての意地の見せ所でしょうか。大好きなこのNIKE AIR FORECE1をまた快適に履けるように、なんとかして修理したいと思います。

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    “崩壊したAIR”の代わりに入れるもの

    東京古靴日和09_4.jpg

    修理するとなると、加水分解してしまったエアクッションシステム部に、あらたなクッション要素を入れるしかないでしょう。その場合、加工しやすく修理工程でなにかと使うことの多い、青スポンジをソールの形状にカットしぴったりと敷き詰めてみます。

    このスポンジは、中敷きの下に仕込んだりもするスポンジで、履き心地に直結する部分に使うスポンジとして発泡率も丁度よいものだと思います。

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    ソールを再接着しサイドミシンで縫いなおします(写真を取り忘れてしまい、別のタイミングでの写真となりますが作業内容は同じです。ご容赦ください)。

    東京古靴日和09_1.jpg

    そしてこちらで完成です。クリーニングもして綺麗に仕上がりました。

    正直、NIKE AIR FORECE1の中身を見ることも稀な経験ですが、この様に劣化した部分を修理すれば、この大好きなAIR FORCE1も長く長く愛用していけるわけです。

    中に仕込んだ青スポンジの弾力を感じながら、いままで以上の愛着が、より感じられそうです。お気に入りのスニーカーも、修理して大事に長く履いていけると素敵です。

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    COMME des GARCOMS HOMME DEUXのセットアップにNIKE AIR FORECE1を合わせる

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    そしてなによりも肝心なのは、この履き心地が復活したNIKEAIRFORCE1をどう履くか?ということです。

    今回は、COMME des GARCOMS HOMME DEUXのネイビーのセットアップに合わせてみました。インナーもジョンスメドレーのネイビーのクルーネックニットでシンプルにラフに合わせてみました。
    やはり足元がAIR FORCE1だと若さ溢れるスタイリングになりました。
    正直なところ、自分でも「年甲斐もなく…」と突っ込みたくなる雰囲気を醸し出しています。しかし、たまにはいいかなと思い直して、さらに勢いで最近お気に入りで行く、池尻のイケてるストリートBAR「LOBBY」へ、年甲斐もなく、今週末は呑みに行こうかなと思います。

    連載記事

    勝川永一

    シューズデザイナー / レザーアーティスト

    靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。

    勝川永一

    シューズデザイナー / レザーアーティスト

    靴メーカー勤務後、渡英。ポールハーデン氏に師事したのち、2004年に帰国。その後、修理職人として働きながら、’07年にブランド「H.Katsukawa From Tokyo」をスタート。2016年にNorthampton Museum and Art Galleryにおいて、勝川永一のコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が、東洋人初めての靴作品として、その美術館コレクションに収蔵される。