名作椅子に座れる!『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』で見つけたいお気に入りの1脚

  • 文・写真:はろるど

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『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』から「スカンジナビアンモダン:手仕事と機能性の共存」展示風景。撮影もOK。

1967年、東京・小平に開館した武蔵野美術大学美術館。特に20世紀の国内外の優れたデザイナーによるポスターやモダンチェアのコレクションで知られ、開館以来、4万点にもおよぶデザイン資料や美術作品を収集してきた。それに生活用品や玩具といったプロダクトデザインや版画や着物、武蔵野美術大学の教員の作品、また大辻清司写真コレクションなども所蔵し、年間を通じて多くの企画展を行って、学外にも広く公開している。毎回の企画展を楽しみにしているファンも少なくない。

現在、武蔵野美術大学美術館にて開かれている『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』では、約400脚のモダンチェアコレクションから精選された約250脚をまとめて公開。単に名品を紹介するだけでなく、近代以前のチェアにはじまり、19世紀末から20世紀前半のヨーロッパでおきたデザイン運動、さらにスカンジナビアンモダンやイタリアンモダンなど、時代や地域で多様に展開したモダンチェアのデザインの歴史を追いかけている。1脚1脚のチェアの置かれた時代や思想の背景までが浮き彫りになる展示だ。

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「近代椅子のデザインの源流」展示風景。展示台の上に乗っていないチェアは座ることができる。なお座ったり触れたりする際は、アルコール消毒とともに、使い捨てのビニール手袋を着用する必要がある。(会場にて配布)

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『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』から2階展示室風景。ヴィコ・マジストレッティの『ガウディ』(1992年)といったイタリアンモダンなどのチェアが展示されている。

デザイナー、ミヒャエル・トーネット(1796〜1871年)が開発した「曲木」の技術は、木の組成と強さを損なわずに曲線や曲面を作り出せる点を特徴としている。そして彼と親族によって立ち上げられゲブルーダー・トーネット社からは、技術・生産方式において産業革命を象徴するようなモダンチェアが生み出された。一方、20世紀中頃のアメリカでは、FRPや成形合板、アルミニウムといった新素材が開発、発展し、それまでは成形が難しかった曲面やポップな色彩を可能にした新しいデザインの家具が世に送られていく。名作チェアを目の前にすると、ついつい色やかたちといったデザインにばかり気を取られてしまうが、こうした知られざる素材や技術に着目していくのも面白い。

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手前に見えるのはロバート・ヴェンチューリの『クイーン・アン・チェア』(製造年不明)。会場内のキャプションは最低限で、詳しい解説や作品情報はQRコードから特設サイト(https://chairs-for-all.musabi.ac.jp)にて閲覧できる。

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梅田正徳の『月苑』(2005年)や倉俣史朗の『How High the Moon』(2020年)などが暗がりの展示室に置かれている。

このほか、日本におけるポストモダンを牽引した倉俣史朗(1934〜1991年)と梅田正徳(1941年〜)をはじめ、国内のデザイナーによるチェアも公開。そして何よりも嬉しいのは一部を除いて、実際に手で触れたり、座れることだ。ゆったりと腰掛けながら座り心地を堪能していると、それぞれのチェアの個性を身体全体にて感じ取れる。なお会期は10月2日までだが、8月14日までの前期を終えると一旦クローズし、一部の内容を入れ替えて9月5日から後期がスタートする。同大学では初の試みとなるモダンチェアのデザイン史を俯瞰した『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』にて、あれこれ比べながらお気に入りの1脚を見つけたい。

『みんなの椅子 ムサビのデザインⅦ』
開催期間:2022年7月11日(月)~8月14日(日)、9月5日(月)~10月2日(日)
開催場所:武蔵野美術大学 美術館
東京都小平市小川町1-736
TEL:042-342-6003
開館時間:12時~20時 ※土・日、祝日は10時〜17時
休館日:水
入場無料
https://mauml.musabi.ac.jp
https://chairs-for-all.musabi.ac.jp