なんともキュートな電気自動車「XBUS」が、ドイツのスタートアップから誕生!

  • 文:小川フミオ

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ドイツのスタートアップ企業が手がけるXBUS

自動車が電気で走るようになると、発想が自由になる。重厚長大と揶揄されてきた旧来の自動車産業とは離れて、柔軟な発想でクルマづくりをするスタートアップが増えている。2021年に発表された、独エレクトリックブランズ Electric Brands AG社の「XBUS」はいい例だと思う。

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トールボーイタイプのスタイルがキュートなピュアEV

とにかくキュート。クルマ好きいがいにも、カメラや家電やインテリアなどに関心を持つひとの興味を惹くことまちがいない。丸目2灯式のヘッドランプとともに、定規を使って精緻に仕上げたようなボディスタイリングが魅力的だ。

フェラーリのような官能性はないかもしれないが、なんとなく古くて、それでも、誰も実現したことがないという意味において、未来的。等身大で愛せそうな、かわいらしいカタチは、街中で走っていても、まったく威嚇的でない。

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ドイツ本国での発表会の風景

XBUS(エックスバスと読む)は、「交通渋滞などをみていると、いま必要とされるクルマにとって大型化は答えでないと思った」と語るドイツ人の創設者、ラルフ・ハラー氏によって企画された。

「個人の移動手段だったら、小さくて、かつスマートで、多様性があって、そしてサステナブルなプロダクトが求められていると感じていました。排ガスを出さずに、快適に、比較的長い距離を、適度な速度で走れるクルマなら、市場が存在するはずです」

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エレクトリックブランズ社創業者のラルフ・ハラー氏

プロジェクトがスタートしたのは3年前。求められる要素を検討していった結果いきついたのが、「モデュラー・ユニバーサルビークル」だったという。

モデュラーとは、車体のバリエーションがいくつもあって、ユーザーが用途に応じて載せかえられる方式。いっぽう、ユニバーサルとは、EU(UNECE=国際連合欧州経済委員会)の規格に合致していること。ちょっと専門的になってしまうけど、「L7e-B2」という「全地形対応車カテゴリ」に属する。

シャシーが2種類用意され、ボディタイプはなんと8種類。シャシーは、一般市街地用と、オフロード。ボディは、「バス」「ティッパー(小さな運搬車)」「カーゴボックス」「ユニバーサル(バスをベースに商業に使える仕様)」「ピックアップ!(ビックリマーク付きは2列シートのいわゆるダブルキャブ仕様)」「ピックアップ(シングルキャブ仕様)」「オープン!(ルーフの大部分が開く仕様)」「キャンパー(ポップアップルーフや流し台まで備えた2人キャンプ仕様)」となっている。

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商業車としてもさまざまなボディバリエーションに対応する

8つのボディすべてのデザインを担当したのは、ロシア系のヤロスラフ・ヤコブレフ Yaroslav Yakovlev氏。東京在住で、フェラーリ、ヤマハ発動機、ダイハツ、それにSUBARUでデザイナーとして働いてきた経歴を持つひとだ。

「私がこのプロジェクトの話を聞いたとき、強く興味をもったのは、無限ともいえるような可能性を秘めたコンセプトです。デザインしたときに気をつかったのは、第一に軽量化。装飾過多になって重量増を招かないよう、たとえば、ドアハンドルはボディにくぼみを作るようにしましたし、側面の後方確認用ミラーは従来の物理的なものでなくカメラを使う、といったぐあいです」

結果、魅力的なシンプルなエクステリアが実現した。全長3945ミリ、全幅1690ミリ、全高1960ミリあるいは2040ミリのボディは、見た目かなり背高。

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ドイツの自然に溶け込むようなスタイリング

走る姿をビデオで観ていると、独特の雰囲気が、メルセデス・ベンツが手がける多目的作業用トラック「UNIMOGウニモグ」を連想させたりして、クルマ好きの心をくすぐる。いっぽう、ボディのプロポーションはバランスがよくとれていて、それも一種の機能美となっているのだ。

「インテリアも、クルマにおいてたいへん重要です。なにしろ乗車しているあいだ、ずっと見ているわけですから。そこでXBUSでは、見た目の楽しさはとにかく心がけました。同時に機能性も追求しています」

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タブレット型のモニターだけが目立つようなシンプルな造型のコクピット

モーターは4つで、各車輪に取り付けられている。出力は合計で15kW(ピークパワーは56kW)。出力はやや控えめであるものの、最大トルクはオーバー1000Nmに達するそうだ。フェラーリのプラグインハイブリッドスポーツ「SF90ストラダーレ」だって770Nmなのに。「ドライバーはきっと楽しんでくれるはずです」とは、マルティン・ヘンネCEOの言。

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エレクトリックブランズ社のマルティン・ヘンネCEO

搭載バッテリーの出力は10kWh。コンパクトなタイプで、航続距離は100から200キロとされている。たいていの用途にはこれで充分ではとエレクトリックブランズAGではしており、ルーフトップにソラーパネルを装着すると200キロかせげるという。

オプションで、24パックの大容量バッテリー搭載も可能になり、これに上記ソラーパネルによる発電を加えると、走行距離はいっきに600キロにまで伸びる。指定ステーションでバッテリーを交換して遠出する可能性も、同社では指摘している。これも先述のモデュラー方式にのっとった考えかただ。

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ボディの仕様は好みでいかようにも作れる

生産はドイツのイデニオン IDEENION Automobil AG社と共同で行われる。同社はコンセプトカーの製作などを得意としてきており、最近日本でも発表された「アウディQ4 e-tron」のコンセプトモデル(2019年)なども手がけたことで知られる。

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観た目の楽しさを追求したというコクピット(ステアリングホイール背後の板状のものは回生ブレーキの強さを調節するためのパドルシフトだろうか)

XBUSの生産開始はドイツで2022年なかばが予定されている。価格はドイツの付加価値税込みで2万ユーロていど。

2万ユーロ(邦貨で約259万円)は高いのでは、という声に対して、マルティン・ヘンネCEOは「すでに1万台以上のオーダーをいただいており、価格に見合った内容のプロダクトであれば市場は評価してくれることのいい証明だと思っています」という趣旨のコメントを出している。