森岡書店店主・森岡督行さんが案内する、もうひとつの銀座。

写真・永井泰史 文・山田泰巨

Pen 5/1号「アートな、銀座。」特集 連動企画 本誌購入はこちらから

人々で賑わう銀座の中心を少し離れた場所で、「一冊の本を売る本屋」を営む森岡督行さん。週替わりで一冊の本に限って販売する「森岡書店銀座店」は、その審美眼に惹かれて人々が集うサロンのような書店です。最寄りは東銀座駅。以前は木挽町と呼ばれていた、歌舞伎座周辺の穏やかなエリアです。常に賑わう中央通り沿いの銀座と打って変わり、昔ながらの風情を残すこの界隈には、もうひとつの銀座の顔があるといってもいいでしょう。そんな街の魅力を森岡さんとともに探りました。

「一冊の本を売る本屋」なるコンセプトを掲げ、森岡督行さんが銀座に新たな店を開いたのは2015年5月のこと。毎週新装開店するようなものと笑って表現します。店を構えたのは1929年竣工当時の面影をいまに残す鈴木ビル。「銀座に惹かれて店を構えたというよりも、ビルに惹かれてこの地に店を開いたんです」と森岡さんは言います。
森岡さんの心をつかんだのはその佇まいではなく、名取洋之助が主宰する日本工房が、戦中期にここで事務所を構えていたという歴史にあります。日本工房とは、海外に日本の政治・軍事方針や文化水準を伝える目的でつくられた対外宣伝誌「NIPPON」を制作していた団体。森岡さんは神保町の一誠堂書店で勤めていた頃から「NIPPON」を収集し、それにまつわる書籍を制作したこともあります。以前に鈴木ビルで「NIPPON」にまつわる展示を行ったこともあり、40年ぶりに空いたというビルの一角に店を構えることになりました。
「ここに店を構えるようになって、あらためて銀座はハレの場所であり、華やかで日常から離れた場所なのだと再確認したんです。けれどそれは浮ついているのとは違います。この街には誠実な手仕事が脈々と受け継がれているのです」
店を構えるようになってから近隣を歩き回るようになったという森岡さん。今回は森岡さんが通うという5つの店を、その魅力を語っていただきながら案内してもらうことにしました。