京都で出合う暮らしの道具に魅せられて。

第5回 老舗の逸品編

伝統品からデザインに優れた新しい逸品まで幅広く“いいもの”を紹介する「京都で出合う暮らしの道具に魅せられて」。第5回となる「老舗の逸品編」では、数百年の歴史を誇る、京都を代表する老舗の専門店を紹介します。料理や宮大工、工芸などさまざまな職人が切磋琢磨してきた街ゆえ、老舗の専門店には長い年月をかけて磨き上げられた逸品がずらり。日々の暮らしに取り入れるなら、調理器具や食卓周りの道具がお薦めです。よい道具を使えば、料理も食事もより楽しく豊かになるでしょう。

写真・蛭子 真 文・小長谷奈都子

内藤商店

いちばん人気の座敷用の長柄箒は毎週土曜日に不定期で入荷する。「わたしもお嫁に来た時にお姑さんにもらった箒をいまでも使っているんですよ」と内藤さん。

野菜や食器、フライパンや鍋、まな板や土鍋と、洗うものによって棕梠の硬さを使い分けて。小さいものはすりおろした柚子の皮を集めたり、急須の口を洗ったり。棕梠キリワラ¥500〜

棕梠はヤシ科の常緑高木。洗剤をつけなくてもきれいに洗うことができるし、丈夫で、手入れも簡単。ひもがついたタワシはボディ用。肌がツヤツヤになり、血行もよくなるそう。

三条大橋のたもとに昔ながらの風情で佇む、棕梠(しゅろ)の箒やタワシの専門店。創業は文政元年(1818年)にさかのぼり、江戸時代に東海道の西の起点であるこの地に誕生したそう。店内に並ぶ商品は約230種類。棕梠の産地である和歌山で、職人に手づくりされたものがほとんどです。いちばん人気が座敷用長柄箒で、こちらは常に入荷待ちの状態。ほかにも、庭掃除用の箒、タワシ、からだ用のボディブラシ、障子の桟やパソコンの埃取り、パームのバスマットなど。一つひとつ使いやすいように工夫がされていて、説明を聞くほどに試したくなるものばかり。実はこの店、看板を掲げていません。「いいものをつくっていれば、お客様は繰り返し足を運んでくれますから」。7代目当主・内藤幸子さんの優しい笑顔にも癒されます。
内藤商店
京都市中京区三条大橋西詰
営|9時30分〜19時30分
休|1/1〜1/3
☎︎|075-221-3018

市原平兵衞商店

オリジナル商品は、長さや太さなど多様な型のサンプルが用意されているから、実際に手にとって、自分に合うものを選ぶことができる。箸のほか、竹のスプーンや楊枝なども。

左から、平安箸拭き漆¥4,104、京風もりつけ箸(28cm)¥1,404、みやこばし(大)¥6,480。京風もりつけ箸は細いほうが繊細な盛り付け用、反対側はやわらかい食材やお弁当詰めの時に具材を寄せるのに重宝。

揚げ物用は衣がつきにくいように太い箸先、焼き物用は焦げない丈夫な素材のものなど、調理法別に箸が揃うのも専門店ならでは。

明和元年(1764年)の創業より、宮廷御用達として続く箸専門店。「一代に一品以上の箸をつくること」という家訓のもと、いつの時代も独自の製品を生み出してきました。先代である7代目が考案したみやこばしは、とりわけファンが多い一品。約150年の時を経た希少な煤竹を使い、細く削った箸先が特徴です。当代考案の平安箸は、粘り気と弾力性のある、育って3年めの京都の竹を使用したもので、拭き漆仕上げが施されたもの。ほかにも、ひとりひとりに合った箸を選んでほしいと、店内には約400種類が揃います。箸の使い方や手入れ方法など、ていねいにアドバイスをもらえるのも嬉しいポイント。毎日口に触れるものだからこそ、数ある中から吟味して、お気に入りの品を探してはいかがでしょうか?
市原平兵衞商店
京都市下京区堺町通四条下ル
営|10時〜18時30分(月〜土)、11時〜18時(日、祭)
休|不定休
☎︎|075-341-3831

菊一文字

包丁だけでも菜切りや牛刀、蕎麦切り、中華包丁などさまざまな種類が揃う。店名は、後鳥羽上皇の時代、刀匠の始祖といわれる則宗が、菊の御紋と横一文字の刻印から菊一文字と呼ばれた、その名工の名にあやかって。

左から、昔懐かしい和式の折りたたみナイフ、肥後守ナイフ¥1,728、最も一般的で使いやすい、銀三不錆鋼 三徳包丁¥15,120、釣り好きにお薦めの鯵切り包丁¥8,640

店内の壁にかけられた剪定や園芸用の鋏。こんなに種類があるものかと、驚かされる品揃え。

明治9年の廃刀令以降、一般刃物の取り扱いをスタートした菊一文字。鍛冶屋としての歴史まで遡ると、なんと700年以上という老舗中の老舗。 寺町三条のアーケード内にある店内には、包丁を中心に、園芸用の剪定鋏、裁縫用の裁ち鋏、大工道具、彫刻刀、梳き鋏、爪切りなど、ありとあらゆる刃物がところ狭しと並んでいます。同じ種類でも、サイズや素材もさまざま、プロ用から家庭用までと幅広い品揃え。道具好きなら、一つひとつを眺めるだけでも楽しめること間違いなしです。ここでまず求めるなら、切れ味と錆びにくさに定評のある包丁を。名入れの無料サービスや、自社製品にかぎり修理や研磨にも対応してもらえるので、一生ものを探してみては? 切れ味の違う包丁が、料理の腕を格段に上げてくれるはずです!
菊一文字
京都市中京区三条通寺町東入ル石橋町14
営|11時〜17時30分頃(月〜水、金、土)
  12時〜17時30分頃(日)
休|木曜
☎︎|︎075-221-0077
www.kikuichimonji.co.jp

公長齋小菅

長年、百貨店等の小売店への卸売をメインとしてきた公長齋小菅が、2011年にオープンした初の直営店。店舗デザインは、デザイナーの小泉誠氏に依頼。

デンマークのデザインスタジオ「OeO」とコラボレートした新作「コペンハーゲン・コレクション」。トレイL¥8,640、ライススプーン、サーバー各¥2,376、テイスティングスプーン¥1,836

円筒形をした竹の内側の湾曲をそのままデザインに落とし込んだ「minotake」シリーズは、小泉誠氏とともに製作。しゃもじやヘラなど、救いやすく、手に馴染む使い心地のよさが魅力。

賑やかな三条河原町交差点から至近にあるホテルの1階、モダンで洗練されたインテリアが街ゆく人の目を引きます。ここは1898年創業の老舗創作竹工芸品メーカー、公長齋小菅のフラッグシップショップ。センスよくディスプレイされているのは、花籠からバスケット、トレイ、調理器具、お香に至るまで、すべて自社製作の竹アイテムです。骨董の竹籠や竹をテーマにしたアート作品も空間を飾っています。「竹工芸を知って楽しんでもらえる発信地にしたい」と語るのは、五代目小菅達之さん。北欧デザインのエッセンスを商品に取り入れたり、イタリアの革工房とタッグを組むなど、若い感性を発揮して、幅広い世代や海外に販路を広げている立役者。伝統を重んじながら進取の精神をもつ、それが京都の老舗の真骨頂です。
公長齋小菅
京都市中京区三条通河原町東入ル中島町74
ロイヤルパークホテル ザ 京都1F
営|10時〜20時
休|無休
☎︎|︎075-221-8687
www.kohchosai.co.jp