Pen編集者16名が初公開!我が愛読誌、教えます。

歌舞伎、中村屋、そして「演劇界」という雑誌について。

演劇界

飯島 摩美

はじまりは平成中村座。

私が歌舞伎を観にせっせと劇場へ通うようになったきっかけは、2008年の平成中村座でした。中村屋が浅草寺の境内に江戸時代さながら芝居小屋を建てると知り、これは、とチケットを押さえたのです。演目も、現代人にもなじみのある「忠臣蔵」、初心者にはぴったりです。

芝居小屋の雰囲気はたまりませんでした。会場のまわりには賑やかに出店が並び、観客でごった返す小屋は熱気にあふれ、役者たちの汗が客席まで飛び散ってくるのです。ああ、江戸の芝居小屋はなんて心躍らせる場所なんだと、すっぽり歌舞伎の世界に入り込みました。それから歌舞伎座へちょくちょく通うようになり、いまではほぼ毎月の催しに……。
そんななか、気になる特集や贔屓の役者さんが登場すると、拝読させていただいているのが「演劇界」。唯一の歌舞伎専門誌だけあって舞台写真が豊富、A4雑誌サイズで見られるのがうれしいですね。携帯ストラップにもなってしまった中村屋の人気者、中村小山三さんの連載も掲載されていたんですよ。

今月は、私に歌舞伎の楽しみを教えてくれた十八代目中村勘三郎さんの巻頭大特集。表紙は、三島由紀夫作、『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』。2014年10月歌舞伎座、十七世勘三郎・十八世勘三郎追善公演の演目です。写真は、ご子息の勘九郎さん、七之助さんご兄弟が演じる、鰯賣猿源氏(写真下・勘九郎)と傾城蛍火(写真上・七之助)。私も大好きな場面で、これはもうジャケ買いの一冊。

特集は篠山紀信さん撮影の十八代目勘三郎当たり役撰にはじまり、片岡仁左衛門さんや坂東玉三郎さんらが語る勘三郎さんとの舞台の思い出や、昭和52年増刊号掲載の「勘九郎日記」など懐かしい記事の再掲載など、読みごたえある記事が充実。なかでも、中村屋一門が勘三郎さんについて語ったお話には勘三郎さんのお人柄がぎゅっと凝縮されていて、素敵な一門の物語に胸が熱くなる内容です。10月追善公演やその他、劇場公演の舞台写真もたっぷり掲載されていて、目に心にうれしい一冊なのです。

2012年春、昼夜公演がすべて終わり桜吹雪が舞い散る中、舞台後ろの扉がさーっと開くと、まるで絵に描いたような満開の桜とスカイツリー。現実と夢が入り混じったような美しい光景に、舞台上の役者たちも夢うつつの表情。いまでも目に焼き付いて離れない、私と平成中村座の思い出です。
演劇界

最新号の別冊付録は、十八代目中村勘三郎の、「芸の軌跡-出演年表-」。(表紙・誌面写真:青野豊)

演劇界
演劇出版社発行・小学館発売
毎月5日発売
¥1,700
明治40年創刊(当時「演藝画報」)
編集長:新村 清美