滋賀発のたおやかな和のバラ「WABARA」に、世界が注目し始めています。

  • 文:脇本暁子

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WABARAは自然に限りなく近い環境で生育されます。優しい色合いと、通常のバラより丈夫で花の持ちがよいことで知られます。photo:Masaki Komatsu

しらたま、つきよみ、暦、わたぼうし……。そんな名前をもつバラをご存じですか? これらは、バラ育種家の國枝啓司さんが生み出したオリジナル品種、「WABARA」の名前です。國枝さんは、皇太子殿下と雅子妃殿下ご成婚の際に「プリンセスマサコ」を献上した、日本を代表するバラ育種家のひとり。バラ農家の2代目だった彼が、”生きたバラをつくる”というコンセプトで30年以上をかけて生み出したバラたちは、日本語のたおやかなネーミングにふさわしい、中間色の淡い色合いで、日本のみならず海外からも注目されています。

2003年に設営されたバラ園「Rose Farm KEIJI」は、17年4月に琵琶湖のほとりに移転オープンしました。4haの広大な農園で、「土をつくることが仕事で、バラはむしろ副産物」と言う國枝さん。化学肥料は与えず、自然に限りなく近い環境で約60種類のバラを育てています。

ドイツに留学経験もある息子の健一さんがプロデュースして販売する、さまざまな商品にも注目です。オンラインショップから注文できるフラワーボックス「わばら農園」は、農園で咲いているそのままのバラを詰め合わせたもの。開けた瞬間、ふくよかな香りが広がるのに驚かされます。実は、野に咲くバラほど、子孫を残そうとするために香りが強いのだそう。バラの香りにはフルーツ香や丁字などのスパイス香、紅茶の香りまであるとか。懸命に光を得ようと曲がった茎や葉も、あえてそのまま一緒に入れて、本来のバラそのままの姿を楽しめるフラワーボックスです。

また、同じくオンラインショップから注文できる「わばら標本箱」は、名前が書かれたこよりが付いたバラを並べて届けてくれます。カフェオレ色の「いおり」や赤紫色に白色がミックスされた「暦」、ブラウン、黄色、オレンジ色の間の色合いの「そら」などの名前が付いた多様なバラは、実はすべて小豆色がかかったスモーキーなピンク色の「葵」という品種から生まれたものです。一見、突然変異と思われる色でも、遺伝子にはもともとあった色で、それが表出しただけというから驚きです。古来から世界で交雑交配が繰り返されてきたバラの歴史と多様さに、想いを馳せたいものです。

琵琶湖のほとりにあるRose Farm KEIJI。農園ツアーや、小学生を対象とした花育の授業など、さまざまな活動を行っています。photo:Masaki Komatsu

「わばら標本箱」¥5,400(税込)photo:Masaki Komatsu

鑑賞するだけでなく、飲んで食べてバラを楽しむ。

photo:Masaki Komatsu

Rose Farm KEIJIでは、バラを愛でて楽しむだけでなく、食べたり飲んだりする食用化にも熱心に取り組んでいます。バラの花びらは90%以上が水分といわれています。農園で一つひとつ手で摘んだバラを、日本の最新技術で花弁の細胞の水だけを取り出したローズウォーターは、口に含むとほんのり甘く、香りが喉を抜けていきます。もともと漢方や薬として古来から利用されてきたバラは、抗炎症作用、美白作用などの薬効も期待されています。水分を取り出して乾燥させた花弁は、ローズペタルとして塩に混ぜて‟バラ塩”として使うこともできます。

他にも、京都にあるレストラン「LUDENS」の田淵章仁シェフが考案した、バラを発酵させてつくったパンや、「WABARAグラノーラ」など、これまでのバラのイメージを覆す料理を開発中。今後も、不定期で農園ツアーやフードイベントを開催していく予定です。また、JR守山駅から徒歩5分のところには、Rose Farm KEIJIのコンセプトショップ「WABARA café」があり、そちらでもバラを使ったメニューが楽しめます。

WABARAは日本だけでなく、イギリス、アメリカ、ケニア、コロンビアでも栽培が始まっています。日本の豊潤な四季をそのまま映し出したような色合いと、野の花のしなやかさをもつバラ。ぜひ実際に見て、触れて、味わって感じてください。

WABARAのローズペタルをひと晩かけて抽出した、WABARA100%のローズティー。華やかな香りと余韻が楽しめます。photo:Masaki Komatsu

バラの花びらを乾燥させたローズペタル。心身のストレスを緩和する効果があると、古来から使われてきました。photo:Masaki Komatsu

Rose Farm KEIJI
滋賀県守山市杉江町1465
TEL:080-5713-0909
www.rosefarm-keiji.net