【名車図鑑】ポルトガルで戦った、美しい市販レーサー「ポルシェ550 ス...

【名車図鑑】ポルトガルで戦った、美しい市販レーサー「ポルシェ550 スパイダー」。

撮影:谷井功 文:三重宗久

ポルシェ初の純レース仕様モデル「550スパイダー」は、レースを愛するものへ市販したモデルでもあった。さまざまなスターたちが好んだ市販レーサーの細部を探る。

1956年式 ポルシェ550 スパイダー エンジン:空冷水平対向4気筒 最高出力:110PS/7000rpm 最大トルク:3.2kgm/5300rpm 車重:550kg

低く薄いノーズは、空気抵抗に優れた。

空冷4気筒をミッドシップに搭載する550スパイダーは、ノーズにラジエーターを置く必要がないことから、低く薄いスタイルを特徴としていた。このことが空気抵抗を大きく減らす効果につながり、レースではしばしば大型車に負けない成績を残すことに。カバーの中に取り付けられたヘッドランプはボッシュ製。ウィンドシールド前方中央に置かれるのはフィラーキャップ。アルミボディはドイツ南方にあったヴェンドラーが製作したもの。

このクルマは、まさにシルバーの流星だ。

輝くような銀色の流星が夕陽に向かって長い坂を下っていった。1955年9月30日の午後6時少し前である。前方に地方道がクロスするインターセクションがあった。その手前でシルバーの流星が1台のセダンを追い越す。自分の車線に戻ると、反対車線からフォードのクーペが前を横切ろうとしているのが見えた。流星のドライバーは独り言のように口に出す。「あのクルマは出てこないだろうな」。その一瞬の後、フォードは動き始め、道をふさぐ形となった。流星のようなスピードで飛んできていたポルシェ550スパイダーは避けきれずに衝突、ふたりの乗員のうちのドライバーが死亡、同乗者は重傷を負った。

シャシー・ナンバー「0055」のスパイダーを運転していたのは、国民的なスターになりかかっていたジェームス・ディーンであった。彼はそれまでポルシェ356スピードスターで幾度かレースに出ていたが、新しいレース専用の550を見てすぐに気に入り、輸入されたばかりのクルマを手に入れて、サリーナスで開催される予定のレースに参加するべく、道を急いでいたところであった。

550スパイダーはポルシェが初めて市販したレース専用モデルである。それまでの356がリアエンジン・レイアウトをとっていたのに対して、レースによりふさわしいミッドシップを採用している。エンジンはエルンスト・フールマン博士の設計で、ツインカム・ヘッドなどの精密かつ高度な機構をもち「ポルシェの中でも特別に訓練されたメカニックしか組むことはできない」といわれた。排気量は1500ccだが、レースでは大型のマシンを凌ぐスピードを示したから、プロとアマチュアを問わず、レーサーたちから広く支持された。その中にはスターと呼ばれる人も含まれ、そのひとりがジェームス・ディーンなのであった。

装飾を嫌い、機能のみに徹することを信条としたバウハウスへの傾倒が見られる。メーターパネルだけで構成されたダッシュボードと、簡単なプルスイッチがドライバーの目に入るもののすべて。コックピットを取り巻く構造材としてのフレームは、年式などによって各種の仕様に分かれている。着座位置は同時代のライバル車に比べてはるかに低い。ミッドエンジンのもたらしたもうひとつの利点というべきである。

ドライバーの正面には3本スポークのステアリングを通して、3連のメーターが並ぶ。中央は回転計、左に速度計を配置。

こちらの記事は、Vマガジン Vol.02「世界に誇る名ヴィンテージ こんな日本車を知っているか?」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから。

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