「美しいカタチ」は、未来に継承される。【マツダ・ルーチェ・ロータリークーペ】

  • 撮影:谷井功
  • 文:藤原よしお

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マツダのデザインリーダー前田育男は、ヒストリックカーにも詳しい。新デザインを模索する前田にとって、特別な1台が社内のアーカイブにある。




ベルトーネから続く、日本のカーデザイン

若き日のジウジアーロが在籍するベルトーネが手がけたフラッグシップセダン「ルーチェ」。そのクーペ版として、1967年の東京モーターショーでプロトタイプ「RX87」を発表、69年に市販された。駆動方式をマツダ初のFFとするとともに完全自社デザインのボディなど数々の新機軸が盛り込まれたが、976台のみの生産に終わった。  | サイズ:全長4585mm×全幅1625mm×全高1385mm | エンジン:水冷直列2ローター | 排気量:655cc×2 | 最高出力:126PS/6000rpm | 最大トルク:17.5kgm/3500rpm

「マツダ・デザインのルーツとは?」

その問いに対し、2010年に「魂動」という独自のデザイン・フィロソフィーを提唱し、17年の東京モーターショーでその進化を表す「VISION COUPE」を発表したマツダ常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男は、ある1台に行き着くと語る。

それが69年発表の「ルーチェ・ロータリークーペ」だ。「古いクルマよりカッコいいものをつくりたい」と公言する彼がこのクルマに感じるのは“エレガント”だという。

「いま我々が目指している方向性の原点になるのが、このクルマです。たとえば人間も身なりだけでなく、知性や、品性といった中身がないと“エレガント”とは言われない。我々がつくりたいのは世界からエレガントと言われるクルマです」

ルーチェ・ロータリークーペは、ベルトーネが手がけた初代ルーチェをただ2ドア化したのではなく、当時のマツダ・デザイン部の手で、1からデザインし直されたものだ。フロントオーバーハングを伸ばしボディに動きをつけたこと。タイヤの存在を強調していないのにその位置を理解したデザインが施されていること。オリジナルデザインのよさをスポイルしていないことなどが、エレガントを際立たせている。

「このクルマはマツダ・ベルトーネ学校の卒業制作。これで合格点が取れたからマツダのデザインはひとり歩きを始められたのです」

セダンに比べ、長く低くなったノーズにより全体に動きが出ているのが、デザインハイライトのひとつ。ヘッドライトは試作段階ではルーバーで覆ったタイプや、ライトカバー付き、コンシールド式などいくつかの案が試されたが、セダン同様の4灯式に落ち着いた。

当初のデザイン案では薄いルーフが描かれていたが、プロトタイプが製作される段階で、厚みのあるルーフデザインに変えられた。これがマツダがベルトーネに提出したデザイン案に対して唯一ジウジアーロが注文をつけたところだったという。

リアフェンダー後部には車名のエンブレムが入る。

インパネのデザインは基本的にセダンと共通だがレブカウンターやメタルパネルによってスポーティな雰囲気に。マツダ初のパワーステアリングが付いたのも特徴的。

10Aとハウジングの幅は同じながら内径とローターの外径を拡大し排気量を1.3倍とした13Aユニット。FF専用に開発されたマツダ史上唯一のロータリーでもある。

2017年に発表された「VISION COUPE」。「魂動ーSOUL of MOTION」というデザイン哲学に基づいた次世代のマツダ・デザインの方向性と決意を示す1台である。

こちらの記事は、Vマガジン Vol.02「世界に誇る名ヴィンテージ こんな日本車を知っているか?」特集からの抜粋です。気になった方、ぜひチェックしてみてください。アマゾンで購入はこちらから。