次の一手は、 “ノイズを活かす”という新発想。
文:麻倉怜士

次の一手は、 “ノイズを活かす”という新発想。

2色展開。最大4時間の連続再生ができ、付属のケースで3回分の充電ができる。実勢価格各¥30,000

「ノイズ=騒音」は従来、イヤホンリスニングにおいては除去すべき対象だった。だから、ノイズをキャンセルしてイヤホンから再生される音楽のみに集中できる「ノイズキャンセリングイヤホン」が求められる。

でも、屋外にはいろいろな音がある。電車の走行音や飛行機のエンジン音は確かに騒音だが、駅のアナウンス音や、空港で飛行機を待っている時のゲート案内のアナウンスは明瞭に聞きたい。実は、イヤホンシーンでは、音楽と環境騒音の関係をどう扱うのかが、喫緊のトレンド。ソニーの完全ワイヤレスイヤホンではアプローチがふたつある。オーディオを専門とする部門のイヤホンはソフトウエアの力で、「必要な騒音」だけ耳に入れる。専用スマホアプリとスマホの加速度センサーにてユーザーの行動を判別、〝行動に応じて〞外音制御するのだ。

乗り物に乗っている時は、外来の音声だけ特定することで「音楽とアナウンス」のみ聴く。歩いている時はノイズキャンセル機能を切るので、音楽も周囲騒音のどちらも聴く。座っている/止まっている時はノイズキャンセルがされ、音楽だけになる――という具合だ。

ところがここに紹介する「エクスペリアイヤーデュオ」は、正反対に違う。周囲の騒音をまったくキャンセルしないのである。というより、積極的にそれを採り入れるのだ。

つまり常に周りの環境音を耳に入れ、それ込みで音楽を聴く。

イヤーパッドは、耳の下を通して装着する独特の下掛けスタイル。スピーカーユニットは耳の裏側に収納され、音導管を通して音楽は直接、鼓膜に達する。ドーナツ形の穴が開いているので、そこから外の音がどんどん〝侵入〞してくる。飛行騒音でも、電車の音でもお構いなしだ。

でも、それって外の音をバックグラウンドにして音楽を聴く、新しい聴取スタイルではなかろうか。思えば、ウォークマンは部屋のステレオ装置の前に鎮座して音楽を聴くという形を打破し、音楽を身に纏うことを可能にした。それはまさに音楽聴取形態の革命であった。次の革命がノイズキャンセルだ。周りの騒音を除去し、音楽だけを鼓膜に届けた。

そしていま、音楽は周囲の雑音とともに聴くのが最先端だ。いや、雑音というからイメージが悪い。駅のアナウンスを聴きながら、周りの人のざわめき、靴音、電車の音などが耳に入ってくるのをそのままに音楽を聴くのは、新鮮な音楽体験だ。音楽のボリュームがある一定以上ならば音楽が主体となり、騒音はバックに引っ込む。森林浴ではむしろ音楽の音量を抑えて、鳥の声、木々のざわめき、風の音とともに音楽を聴く幸せを味わえる。

音楽に新たな聴き方を与えた、画期的なイヤホンだ。

次の一手は、 “ノイズを活かす”という新発想。

下掛けスタイルもユニークだ。アシスタント機能も搭載しているので、音楽再生以外でも大いに活用できる。

麻倉怜士
デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。

ソニーモバイルコミュニケーションズ  TEL:0120-111-156

※Pen本誌より転載
次の一手は、 “ノイズを活かす”という新発想。