腕時計のバンドをスマート化する、新たな発想。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    腕時計のバンドをスマート化する、新たな発想。

    現在は時計部分とセットの販売(¥46,224~)だが、ゆくゆくはバンドだけでの販売も予定しているという。

    私は、スマートウォッチは使えないと思っていた。機械式時計愛用者の私にとって、IT化した時計など使う場所がないからだ。いつもの機械式は右手首に、スマートウォッチは左手にという使い方も可能ではあるが、文字通りスマートじゃない。それならば、リストバンドがスマート機能をもてばよいではないか。時計はいつもの機械式で、そのバンドがスマートウォッチになっていれば問題は解決。そんな思いを本当に実現してしまったのが、ソニーの「wena wrist」だ。時計はセイコー「WIRED」のれっきとした自動巻き。バンドには最先端デジタル、時計本体はアナログの粋という組み合わせがなんとも愉快ではないか。

    スマートウォッチとしての機能はわずか3つだが、それで十分だ。①通知。スマホに来たメールやツイッター、LINEなどの到着を振動とLED光で教えてくれる。アプリによって点灯色を変えられるから、急いで見なければならない通知と後に回せる通知が見た目で分類できる。②歩数、消費カロリー、移動距離などを記録する活動量記録。専用アプリで目標歩数を設定し、その達成度をLEDで確認可能だ。③電子マネー機能。バンドにFeliCaが内蔵され、手首を読み取り機にかざして買い物ができる。

    これらの機能は、外観ではまったくわからない。フツーの金属製バンドと見た目は全然、変わらないし、その金属光沢やスムーズな曲がり具合は、フツーのバンド以上だ。なにより着け心地が抜群によい。装着してみるとラウンドが手首に馴染む。本体のセイコー製の自動巻き時計もシンプルなデザイン。バンドには、液晶表示などいっさい、ない。

    「本と電子書籍のように互いに打ち消し合うのものではなく、長年培ってきた腕時計文化に敬意を払いながら、開発しました」と、本製品のプロジェクトリーダーは言った。彼は学生時代から時計が大好きで、当時は機械式とスマートウォッチを本当に両腕に着けていた。両方を合体したいという思いを実現できそうな企業を探してソニーを選んだという。

    基板、振動素子、アンテナ、バッテリーをピースに分けて実装することで、バンドの薄さも確保。外装金属が電波の送受信を妨げるが、メタルバンド自体をアンテナとすることで問題を解決。バンドの感触、質感がいいのは医療用メスとしても使われるステンレス鋼SUS316L が採用されているからだ。これ、実は高級腕時計でも多く使われる素材。ラグ幅が22㎜の本体であれば、自分の愛用時計に替えるのも簡単。

    時計趣味を守りながら、スマート化するという思いはブランド名、wena=wear electronics naturallyに込められている。その熱き思いに拍手を贈りたい。

    さまざまな基板や回路を細かく分けてバンド全体に配すことができたのは、ソニーの技術力があってこそだ。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載