プロジェクターでタブレットを操る、新たな発想。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    プロジェクターでタブレットを操る、新たな発想。

    バッテリー内蔵で、どこへでも持ち運んで投射できる。約932ℊ。(H134×W69×D143㎜)¥161,870

    情報ディスプレイデバイスとして、20世紀の中盤からテレビの時代が長く続いたが、次のスターはプロジェクターになるはずと私は睨んでいる。なぜならば、機能性とメディア性、それにスマート性においてプロジェクターは圧倒的だからだ。まず画面サイズが自在。テレビでは55型を買うと、55型のサイズのままだが、プロジェクターはスクリーンとの距離やレンズズームの調整により、小画面から大画面まで自由だ。

    すると、コンテンツに最適な画面サイズを得ることができる。ニュースやバラエティ番組は小さな画面で、映画やコンサートなどの臨場感系の番組は大きな画面で。ボータブル型なら、どんなところでもスクリーンにできる。専用のスクリーンじゃなくても壁、天井、机、カーテンに投射すればよい。テレビデバイスでは、思いも付かなかったことだ。

    このポータブルプロジェクター「エクスぺリア タッチ」は、さらにコンテンツ性と機動性、双方向性が加わった。これまでのプロジェクターは、BDプレーヤーやレコーダーを接続し、映像信号を拡大投射する、いわば受け身のデバイスだったが、これは違う。わかりやすくいうと、スマホのプロジェクター版だ。投射されるのはアンドロイド系の画面。名称通り、投射された画面にタッチすることで、インターアクションする。つまり、スマホ、タブレットのタッチスクリーンを壁などに投影して巨大化させたものだ。ハード的には、少し前に発売されたソニーの超短焦点プロジェクターLSPX'P1の技術を踏襲している。

    大画面でインタラクティブに遊ぶのは面白い。たとえばピアノ演奏アプリ。机に投射すると本物のピアノキーサイズになる。本体下部に内蔵された赤外線センサーが10点同時センシングで常に画面上を見張っているから、複雑な和音と旋律も同時に鳴る。打鍵と発音の音ずれも少なかった。もちろん、普通のスマホ的なアプリも大画面で実行できる。「ハイ! エクスペリア」と呼びかけると音声認識が立ち上がり、天気予報やスケジュールなどの検索も可能だ。

    いまAR(拡張現実)が流行の兆しを見せているが、エクスぺリアタッチはヘッド・マウント・ディスプレイでなく、プロジェクターにて現実の場にイラストやCG、文字を重ねる「プロジェクターAR」だ。既にクルマのショールームで、テーブルに投映したクルマの360度映像を、指先で拡大・縮小・回転させるなど、その車種への理解を深めてもらうために活用されている。

    次の開発テーマは現実のオブジェに投映し、インタラクションを行うパーソナル・プロジェクション・マッピングだろう。エクスぺリア タッチは、そこまで展望できる未来志向のプロジェクターだ。

    ピアノアプリを起動すると、まるで本物のような鍵盤が現れる。サウンドも、和音でしっかりと響く。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載