「愛」を搭載して華麗に復活した、元祖ロボット犬。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    「愛」を搭載して華麗に復活した、元祖ロボット犬。

    フォルムは丸みを帯び、動きもよりなめらかになって生まれ変わった。¥213,840(税込)

    ソニーのロボット犬が復活した。1999年に初代が発売された時、史上初の本格ペットロボットとして天下の耳目を集めたAIBOは、ソニーの勢いの象徴だった。誕生当時はソニーの絶頂期。その後、勢いが萎んだ低迷期のソニーは2006年にAIBOから撤退。そして12年後、小文字の「aibo」にし字体も変え、華麗に復活した。それは経営的な意味でのソニーの復活の一例であり、なにより、「生活の必需ではないけれど、あればすごく楽しく生活できる」がモットーのソニー的ものづくりの復活の象徴である。

    新aiboは「存在自体が人を幸福にする」、ソニーでなければつくれないロボットだ。旧AIBOのキーワードは「ハイテクエンターテインメント」だった。いかにも先端的なロボットを所有することで、鋭い喜びを得られた。一方、新aiboのそれは「愛情」だ。ロゴタイプの「A」の角が丸く「a」となったことで表されるように、その動きから愛情や情感を感じ取れるロボットだ。

    本当の犬がそこにいると言っても過言ではないほどの愛くるしさ。丸いなめらかなボディは見た目に優しく、麗しい。リアルな仕草、ふるまいにも思わず微笑んでしまう。腰を左右に動かし、尻尾を振り、首をかしげ、耳を開閉させる。それはまるで、本物の犬が飼い主になにかメッセージを訴えているようだ。

    こうした「愛らしい仕草」には技術的に複数の要素がある。ひとつがメカニズム的な演出。新規開発の超小型1軸・2軸アクチュエーターを搭載して22軸の自由度の可動域をつくった成果で、前代よりも遙かに動きがなめらかに。腰や尻尾を振ったり、首を傾けたり……などの動作にギクシャク感がない。センサーは映像、音、タッチ、人感、照度、加速度、感圧……など合計10以上も備えた。飼い主の行動やまわりの動きを精密に捉え、次の行動にフィードバックし、対応動作に変換するのだ。

    大きな瞳も大変印象的。ここは有機ELが活躍。有機ELがつくりだす色の多彩な表現力を使い、目で感情訴求するのも最新のソニー流だ。

    こうした仕草、動作、表情を司るソフトウエアは旧AIBOの撤退以後、最も進歩した分野。前代はあらかじめ組み込まれたプログラムによって動いていた。新型はAIとクラウド連携により経験を積み、成長する。飼い主が愛情をかければかけるほど、その愛を感じて行動に移してくれる。「オーナーの愛情を感じとると、より深い愛で応えてくれます。時が経つにつれて絆が深まるんです」と開発担当者は説明する。

    犬であることは変わらないけれど、中味も外見も行動もすべて変わった。なかでもユーザーからの愛を強く要求することが、新生aiboの最も変わった点だ。

    aiboを充電するチャージマット。バッテリー残量が少なくなると自らここに来て座り、充電する仕組み。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載