土鍋をまるごと 家電化した、驚きの炊飯器。

  • 文:神原サリー

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青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

土鍋をまるごと 家電化した、驚きの炊飯器。

土鍋そのものの形に合わせて真円にした本体。マットな質感も美しい。¥86,184(税込)

シロカの家電を初めて知ったのは、ホームベーカリーだった。シンプルなデザインだが過不足のない機能設定で、おいしく焼き上がる。その後もコーヒーメーカーや電気圧力鍋など魅力ある家電を次々と打ち出していた。そんなシロカが炊飯器市場に参入すると聞いて驚いた。素材にこだわった内釜を武器に、大手家電メーカーの高級モデルが乱立するようになって10年以上経ついま、残された一手はあるのかと。でも、未踏の地があったのだ。炊飯鍋の最高峰と言われる伊賀焼の土鍋「かまどさん」をそのまま電気炊飯器にして、スイッチひとつで炊くという道が。伊賀焼の老舗窯元「長谷園」と組み、かまどさんの味を実現させたのが「かまどさん電気」だ。

185年の歴史をもつ長谷園の七代目当主、長谷優磁は「『つくり手は真の使い手であれ』がモットー。薪がガスや電気になり、加熱の方式がレンジやIHと変化していっても、その時代その生活に合った『こうだったらいいのにな』を叶えるのが、モノづくりの基本だ」と話す。

直火でかまどさんを使えない人のための電気炊飯器の開発は、夢だったのだという。既にIH対応の土鍋はチャレンジ済みだったが、理想の炊き上がりにならずNGに。「本物の土鍋採用、電気炊飯器」を実現させるにあたり大手メーカーからの引き合いもあったが、効率優先では一緒に仕事ができないと突っぱねたこともあった。IH炊飯が全盛の時代にヒーターを使うことを厭わず、ただ「おいしいごはんを炊くこと」だけに熱意をもっていたシロカとの出合いは必然だったのかもしれない。

とはいえ、炎で包んで加熱し、火を止めれば自然に冷却されていくガスでの加熱と電気とでは、そもそもエネルギーの力が異なる。ヒーターで同様の加熱状態を再現するには、かなりの苦労があったという。試行錯誤の末、4年の歳月を経て完成した本体は、鍋底が当たる底面に高熱に耐えるステンレスを採用し、シーズヒーターで直接土鍋に熱を与える方式に。蒸らし工程では冷却用のファンで外気を入れ、ふっくらと炊きあがるよう調整した。

土鍋も、土の配合を見直すことで大量生産とサイズの精度の高さを両立。焼成後には鍋底の中心部に手作業で温度を測るためのセンサーを埋め込むなど、従来通りに見えて、実はいちからつくり直したのだ。

ふっくらとして艶やか、口に入れると甘みと粘りがある理想的な白米は、三合分だと約60分で炊き上がる。炊き上がったら、土鍋を取り出してそのまま食卓に運んでおひつのように使えるように、シリコン製の鍋敷きも付属している。七代目当主が語った「卓上で鍋を囲む幸せ。熱いものを熱いまま食べられる幸せ」が、ここにある。

伊賀焼の土鍋「かまどさん」がまるごとすっぽり本体に収まっている。オリジナル同様、内蓋もついている。

神原サリー
新聞社勤務を経て「家電コンシェルジュ」として独立。豊富な知識と積極的な取材をもとに、独自の視点で情報を発信している。2016年、広尾に「家電アトリエ」を開設。テレビ出演や執筆、コンサルティングなど幅広く活躍中。
※Pen本誌より転載