クリーナーと、水洗い洗浄機の大胆な融合。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    クリーナーと、水洗い洗浄機の大胆な融合。

    掃除機のヘッドに取り付けることで、水を使った洗浄が可能になる。¥21,384

    掃除機用水洗いクリーナーヘッド「スイトル」。水を噴射しながら掃除機をかけ、瞬時にその水を吸い取る仕組みによって、床やソファなどの汚れを水洗いできるという画期的なツールだ。

    使い方は至極簡単で、内蔵する水タンクに500㎖の水を入れて、キャニスター式の掃除機のホースの先につなげば準備完了。カーペットにこぼしてしまったコーヒーも、掃除機のスイッチを入れてノズルの先端を汚れた部分に当てるだけで、床面に水が噴射されたと同時に、汚れを含んだ水が回収され、黒いシミがあっという間にきれいになっていく。

    掃除機本体には水が流れ込まない設計になっているから、安心だ。カーペットのコーヒーが、まるで床からスイトルの汚水タンクに瞬間移動するかのように見える様子は、驚きを超えて感動に値する。これさえあれば、食べこぼしの多い子どもがいようが、ペットが粗相をしようがなんの心配もいらないではないか。

    実は、水を吹き出しながら同時に吸い取るノズルの機構や、空気と汚水を完全に分離する特殊なファンなど、スイトルの技術は広島の発明家・川本栄一によって考案された。世界で特許技術として登録されており、中古車のクリーニング工場などの現場で採用されているものだ。

    しかし、これを民生用として製品化することが川本の夢であり、今回スイトルの企画設計を担うシリウス社に持ち込んだのが、誕生のきっかけだったのだという。2015年9月に原理試作品ができ、クラウドファンディングでの資金調達を経て、わずか1年半で製品化し、発売にこぎつけたのだから勢いがある。

    家庭用の掃除機に取り付けて使うヘッドという点では、このスイトルは厳密には家〝電〞製品そのものではない。あえてモーターなど〝掃除機の臓物〞を載せないことが、水洗いの機能そのものを際立たせ、重さなどの点で使い勝手を高めている点において、拍手を送りたい。

    デザインを手がけたイクシー社の小西哲哉は、パナソニックのデザイナー部門を経て独立。電動義手「handiii」の開発で国内外のデザイン賞を受賞するなど、評価が高いプロダクトデザイナーだ。スイトルでも、人間工学に基づいたハンドルの設計や、どんな掃除機にも違和感なく溶け込む色味を採用。仕上がりは美しく、使い勝手にも優れている。

    うっかり飲み物や食べ物をこぼしてしまった時のような緊急時以外にも、布団だって洗うことができる。水の噴射を止めて、回収だけを行う〝脱水〞機能も備えるため、後は軽く干すだけ。ペットのいる家庭はもちろん、介護の現場でも重宝されるだろう。スイトルは水洗いクリーナーヘッドなどではなく、立派な〝洗濯機〞なのだ。

    逆流防止弁があるので掃除機に水が流れてしまうことはない。多くの市販のキャニスター式掃除機に接続可能だ。

    神原サリー
    新聞社勤務を経て「家電コンシェルジュ」として独立。豊富な知識と積極的な取材をもとに、独自の視点で情報を発信している。2016年、広尾に「家電アトリエ」を開設。テレビ出演や執筆、コンサルティングなど幅広く活躍中。
    ※Pen本誌より転載