文字盤に夜空を描く、ロマンあふれる腕時計。

    Share:

    JAQUET DROZジャケ・ドロー

    文字盤に夜空を描く、ロマンあふれる腕時計。

    岩崎 寛(STASH)・写真
    photographs by Hiroshi Iwasaki
    並木浩一・文
    text by Koichi Namiki

    アべンチュリンの文字盤は、つくる・着ける双方にとって〝冒険〞であるかもしれない。希少で高級、ロマンティックな素材だが、安易に扱えば甘くメロウに過ぎる危険も孕むもの。そうしたジレンマを超えて、ジャケ・ドローがつくった新作「グラン・セコンド オフセンター アベンチュリン」は、注目すべき一本だ。

    そもそもジャケ・ドローの腕時計デザインは、優れて多義的である。理知的でありながら芸術的な作風は、誰も真似できないものだ。似ている時計が極めて少ないそのブランドの象徴的なモデルが「グラン・セコンド」である。スモール・セコンドの逆をいく大きな秒針と時分針のサークルが重なりをもつミニマルでモダンな平面構成は、現代の腕時計の意匠におけるひとつの傑作である。その元デザインを、あえて〝オフセンター〞でエキセントリックに破調する。文字盤の上で理性と情緒が切り結ぶ緊張感は、ダイナミズムの源泉である。

    その完成度の高さにアべンチュリンという新しい要素を掛け合わせてみると、未知の魅力が立ち上がった。瑠璃のような多色の彩りと輝きは、決して華美を一辺倒に主張しすぎない。端正な文字盤の中では素材のロマンティックさが純化され、原初的な美しさに還元されていく。ベゼルに配されたダイヤモンドも、ただ豪奢の表象にとどまってはいない。透明度の高いダイヤを幾何学的に連ねていくことで、視覚に規則的なリズムとして映るのである。

    男性がこの腕時計に臆することなく着けることができるのは、普遍的な美意識に照らし、ジェンダーという垣根を越えているからだろう。一方で、女性にうってつけの、ジュエリーとしての要素を多分にもった腕時計でもある。ある種の時計は、時間以上のことを伝えるものだ。見上げる星空が人にさまざまなものを思い出させるように、この腕時計のアべンチュリンが描く夜空もまた、実は雄弁なのである。

    グラン・セコンド オフセンター アベンチュリン

    自動巻き、SS、ケース径39㎜、ケース厚12.62㎜、ベゼルに176個のダイヤモンド(約1.19ct)、パワーリザーブ68時間、アベンチュリンダイヤル、18Kホワイトゴールドのメタルリング、アリゲーター革ストラップ、30m防水。¥2,041,200
    ジャケ・ドロー ブティック銀座 TEL:03-6254-7288