部屋に合わせて音響を設計する、職人的ステレオ

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    部屋に合わせて音響を設計する、職人的ステレオ

    素材感を活かしたミニマルなデザインで、どんな部屋にも合う。(W450×H143×D280㎜)¥108,000(税込)

    かつてラジカセという複合オーディオがあった。ラジオ受信とカセット再生ふたつの機能をひとつの筐体に収めた便利なステレオとして、多くの人に愛された。その現代版がテクニクスの「OTTAVA f(フォルテ)」。音源+アンプ+スピーカーが組み込まれた一体型ステレオだ。

    このオール・イン・ワン・システムはもともと、数年前にイギリスのメーカーが提案した。これもその仲間に加わるわけだが、他社製品との違いは鮮明だ。ひとつがCDドライブの内蔵。ヨーロッパではCDが下火で、彼らの一体型ステレオはCDドライブを外しているが、日本ではディスクメディアは相変わらず愛用されている。さらにFMチューナー、ネットワーク、ストリーミング、ハイレゾなどにすべて対応。スピーカーは2.1チャンネル構成で、本体前面にトゥイーター2基とミッドレンジ2基、本体底面に下に向けてウーファーを1基、搭載している。

    本機の本当の凄さは、「ルーム・チューニング」にある。ステレオが奏でる音は、必ず部屋の影響を受ける。壁に近ければ、低音が壁で反射、増幅され過剰になる。部屋の中央に置けば、今度は低音が不足する。そうした部屋の影響はこれまで避けることはできず、我々は部屋の癖込みで、ステレオの音を聴いていた。本機は、それを直せるのだ。

    一体型としては世界で初めて自動音場補正機能「Space Tune」を搭載。スピーカーから測定音を発し、そこからの直接音と、部屋の壁で四方八方に反射する間接音を採取し、部屋の音響的な癖を12バンドのイコライザーで是正する。つまり部屋の音響の特徴を掴み、再生時にその癖の特性の逆の位相をスピーカーから音に加える。空間にて癖の部分が打ち消され、凸凹のない理想の音が再生されるという理屈だ。

    具体的にはスマホ、タブレット(iOSのみ)の内蔵マイクにてテスト信号を測定。アプリのTechnics Music Appで操作する。プリセットモードには、「FREE=部屋の中央」「WALL=壁際」「CORNER=部屋の角」の3つがあり、計測した結果をその逆特性で補正するのがMEASUREDモードだ。

    そのように補正すると、音が格段によくなる。部屋の真ん中に置き、測定なしのFREEと比較すると、レンジ感が広がり、低域の量感と解像度が向上。特にスケールが増して、音楽の安定感が高まった。低域と中域のつながりもスムーズになり、ヴォーカルの質感もアップした。

    部屋に単体コンポーネントを置く場所はないけれどいい音で音楽を楽しみたい人には、最適なステレオだ。直線で構成した素材感を活かしたデザインも、いい味だ。

    底面にはサブウーハー、リアにはデュアル・ロングポートも。低音域から超高音域まで表情豊かに再生する。

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据えている。巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)、『パナソニックの3D大戦略』(日経BP社)がある。
    ※Pen本誌より転載