アイアンシェルフの“サイズカスタム”に挑戦しよう!

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    写真:永井泰史 文:小川 彩

    #10アイアンシェルフの“サイズカスタム”に挑戦しよう!

    中央が、今回紹介するサイズオーダー可能なオリジナルの「リベットシェルフ」(W120×D35×H90cm)¥97,200(オーダー内容で金額は変動)。ちなみにこの製品は、これからリベットの装飾を施す未完成品。

    ヴィンテージの風合いを施した、ハードな鉄の存在感に目を奪われる棚。今回ご紹介するのは、東京・世田谷にあるヴィンテージファニチャーショップ「ハウス オブ フェール トラヴァイユ」のオリジナルアイテム「リベットシェルフ」です。

    新しい生活のはじまりなど、なにかと移動の多い季節。ものを整理するだけでなく、見せ方も一新できる収納家具でインテリアの印象を変えてみるのはどうでしょう。本誌でも活躍中のスタイリスト、今吉高志さんも新居へと引越したばかりのひとり。大切にしてきたファッションや建築・デザイン関連の洋書を収納する棚として、このリベットシェルフのサイズオーダーをすると聞きました。Lアングルを利用した骨組みと棚板を溶接したシンプルな構造のこの棚は、ミリ単位のサイズオーダーが可能なのです。今回は、フェール トラヴァイユを訪ねる今吉さんに同行し、発注の現場にお邪魔してきました。

    リベットシェルフの骨組みの前後四隅、計8カ所に施すリベットの装飾を選ぶ今吉さんと森川さん。ちなみにリベットの形状は平頭、丸頭、皿頭の3種類から選べます。好みのかたちを選べるのもうれしい限り。

    幅、奥行、高さ、棚板のピッチを伝えて見積もりを算出。サイズが大きかったり、収納するものの重量によっては鉄板の厚みを増したり、補強の部材を入れるなどの対応をするといい、細部まで相談できるのが心強い。

    スタイリングの仕事で使ってからすっかりファンになったという今吉さんは、「このリベットシェルフは子どもっぽくなくほどよくシックで、モダンなデザインのアイテムとも不思議と相性がいいんです」といいます。

    「大小ある洋書のサイズに合わせて上段は32cm、下段は40cmの高さに。棚の上にスキャナを置きたいのですが、なるべく奥行に余白をつくらず洋書のジャストサイズでつくりたいんです」とスケッチを見せながら今吉さんが相談するのは、オーナーの森川竜也さん。「120cm幅であれば通常の3mm厚の鉄板で強度は保ちますね。棚の脚は掃除機のヘッドが入る高さで骨組みを発注しましょう」と答えます。そんなやり取りを重ねながら内寸などの細かいサイズを決定、リベットの形状をセレクトして見積もりが完成します。ラフでもよいので、イメージする形のスケッチを準備しておくと話がスムーズかもしれません。

    店内にはパーツも多数並びます。気に入ったヴィンテージの鉄製脚部が店頭や在庫にあれば、セミオーダーとして別注テーブルの制作にも対応してくれます。世界にひとつのユニークなテーブルに出合えるかも。

    Lアングルの骨組みを脚としたオリジナルの「リベットテーブル」(W150×D75×H73cm)¥118,800。こちらも寸法などカスタムが可能。ちなみに写真の加工した無垢天板はオーク材。リベットは平頭仕上げです。

    また、シェルフと同構造の「リベットテーブル」も展開しています。こちらもサイズオーダーが可能なほか、テーブルの脚を鉄のヴィンテージアイテムにするセミオーダーも人気だそう。

    「テーブルの天板にはオーク材を使って、鉄の表情に合わせた表面の仕上げを施していますが、より古びた味わいに加工するなどエイジングのご相談も受けています。カウンターなど店舗什器への要望も多いんですよ」と森川さん。納期はシェルフとテーブルともにサイズオーダーしてから完成まで約2~3週間を見ておきましょう。

    ちなみに製品名にもなっている「リベット」とは金属板を継ぎ合わせる「鋲」のこと。溶接技術が発達していない古い時代の鉄家具はリベット接合が多かったそうです。森川さんはヴィンテージのひとつのスタイルとしてリベットを捉えて、Lアングルの骨組みを外部で溶接してもらい、自社工房で表面加工を施してから棚板を溶接した後に、オリジナルの装飾としてリベットを取り入れているそうです。

    深みある鉄の表情を、工房でつくり出す。

    店の奥にある工房。森川さんとスタッフは、ヴィンテージの風合いを生かしつつ、店舗や日常生活で使いやすいような鉄や塗装の仕上げ感に整える作業を行います。

    輸入したままのヴィンテージアイテムは、実はこのような表情をしています。ここから洗浄し、フェール トラヴァイユらしい表情へと加工するのが腕の見せ所なのです。

    店名は日本語訳で「鉄の仕事場」で、ホームページにも「このサイトは、鉄を多く含んでおります……」と記載するくらい鉄モノ好きの森川さん。そんな森川さんの鉄の仕上げを、今吉さんは「日本でつくられたものとは思えない、国籍不明の絶妙な表情」と評します。

    「店頭に並んでいるものは自然に古びたような表情に見えますが、実は仕上げを徹底的に施しているんです。経年変化でいい具合に黒く酸化した鉄製のヴィンテージ家具を修理する際、やむを得ず現代の鋼材などで補強したり、金物を製作したりすると元の質感と違いが出てしまいます。そこで全体の質感を整えるために現代の部材にも加工を施し始めました。メンテナンスすることで、なんとも言えない黒い質感を全体的に生み出すことができるのです。その技術を今回のリベットシェルフの仕上げにも活かしています」

    この加工は「クロゾメ仕上げ」とも呼ばれ、日本でも伝統的な鉄の防錆として知られています。工房での試行錯誤の結果、フランスのヴィンテージ家具の雰囲気に合う独自の鉄加工の技法が誕生したのでしょう。

    「椅子の裏側の加工や形状から、ものづくりの現場を想像してしまいます」という森川さんお気に入りのアイテムのひとつ。オーデルベルグ&オルソンによる1940年代のワークチェア¥149,040

    入荷する量がわずかなので、すぐに売り切れてしまうという照明器具や鉄製の建築金物。奥は船舶で使われていたロシアとスペイン製のカプセルランプ。日本仕様に加工済みです。

    店舗兼工房は、洋画家・向井潤吉の弟で造形作家・向井良吉のアトリエだった建物を改修したもの。「8年前に中目黒から世田谷のこの場所に移転したのですが、かつての創作の場の空気感がまだ残っていました」という森川さん。天井が高く自然光が注ぐ店には、ヴィンテージアイテムのコアなファンから、プロのスタイリストまで幅広い層が訪れます。

    年に何度か買い付けに行くフランスやベルギーの古い工場などから出てくるデッドストックの家具や、インドの鉄の計量カップにいたる小物まで、長年付き合いのある業者から仕入れることが多いという森川さん。基本的に店頭にあるアイテムは1点ものがほとんどで、複数揃っていてもそれぞれ仕上げの具合やコンディションが異なるもの。まずはお店に行ってみて、自分の目で質感や仕上げを確かめるのが一番。営業中は加工作業をしている場合も多いため、まず店を訪ねる日時をメールや電話で相談してから足を運ぶことをお勧めします。きっと鉄製の家具の新たな魅力を発見できるに違いありません。

    住宅街の中に立つ工場のような建物がフェール トラヴァイユ。小さな階段を登って、臆せず白いエントランスをくぐりましょう。森川さんたちが手塩にかけた家具が迎えてくれます。

    HOUSE OF FER TRAVAIL

    東京都世田谷区世田谷1-20-10
    TEL:03-5477-6730
    不定営業のため、営業時間や定休日は下記ウェブサイトのBLOGをご確認ください。
    www.fertravail.jp