北欧ヴィンテージの布、あなたならどう使いますか?
写真:永井泰史 文:小川 彩

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水墨画のようなパターンがプリントされたヴィンテージ・テキスタイル。掛け軸のように壁にかけたい! マリメッコ社のペンティ・リンタによるカイプー(1978年・約H220×W135cm)¥28,080

グラフィカルなパターンをインテリアに取り入れたくなったとき、カーテンやラグも選択肢のひとつですが、大判のテキスタイルをそのままもっていると、より気軽でフレキシブルに使えます。たとえば1枚の布をベッドやソファのカバーに、パーティションにかけて間仕切りとして、またテーブルクロスにと、さまざまな用途が思い浮かびます。

北欧と日本のクラフトやプロダクトを扱うショップ「t-b-d」では現在、1960~80年代を中心にしたフィンランドのヴィンテージテキスタイルのみを集めた企画展「Impression of Textile Design —テキスタイルのある風景—」を開催中です。マイヤ・イソラ、ヴォッコ・ヌルメスニエミや石本藤雄など、著名なデザイナーによるアイテムや、すでに生産中止となった希少なアイテムまで、クオリティの高いテキスタイルがセレクトされています。

ともにマリメッコ社のヴィンテージ。中央は石本藤雄によるラジュ(1981年・約H240×W140cm)¥22,680、右がマイヤ・イソラによるサモヴァーリ(1972年・約H204×W125cm)¥20,520

プリントの色合いがやわらかく落ち着いているのもヴィンテージテキスタイルの良さ。中には端がまつられているものも。ていねいに使われていたコンディションの良いものが揃います。

買い付けで北欧への出張も多いスタッフの戎愛子さんは、フィンランドのヴィンテージテキスタイルはしっかりとしたコットンの幅広の布地で、2メートルほどの使いやすいサイズが多いといいます。また自然をモチーフとしているものが多いので、日本のインテリアにも取り入れやすいと説明してくれました。

「北欧ではヴィンテージ・テキスタイルのコレクターが多いんです。男性がベッドカバーとしてヴィンテージテキスタイルを何枚も使い分けて楽しむ姿は印象的でした」

そのほかテーブルクロスとしてはもちろん、夏の野外を楽しむ北欧らしく、ピクニックに出かけるときに布をもっていき、草原に広げて使うこともあるとか。一面の緑の上に鮮やかな色合いのテキスタイルのある風景、それだけでわくわくしませんか。

ガラス製品のデザインを得意としたティモ・サルパネヴァによる、タンペラ社の希少なテキスタイル「アンビエンテ」(1960年・約H175×W125cm)¥17,280

ヴォッコ社の「ヤッティルーツ」は1973年のデザイン。美しいプリントで表現された力強いラインの上で、アラビア社のテーブルウエアの名作、バレンシアシリーズの鮮やかなブルーが映えます。

今回の企画展のためにセレクトされたアイテムは50点近く。パターンのリピートが長く、室内に風景が現れるような大きく広げて使いたいものを中心に、1点もののヴィンテージテキスタイルを販売します。力強いタッチでまっすぐなラインが描かれた「ラジュ」という石本藤雄さんによるテキスタイル。そしてロシアの湯を沸かす道具・サモワールのフォルムを大胆にあしらったマイヤ・イソラによるテキスタイル。ともにマリメッコ社製で、ベッドカバーやタペストリーにとインテリアに取り入れやすいシックな配色が魅力です。

逆に鮮やかな色合いで、テーブルまわりを楽しく演出したくなるのがボッコ社のアイテム。ヴォッコ・ヌルメスニエミによるシンプルな配色と線のみで構成されたコンセプチャルなパターンは、時を経ても色あせない力強さを感じます。そのほか木々や草花をモチーフとしたやさしい印象のものも多数。無造作にソファやクッションの上にかけたり、収納の目隠しに使ったりと、布に触れていると使い道が次々と浮かんできます。

マリメッコ社にも在席したヴォッコ・ヌルメスニエミが設立したヴォッコ社のテキスタイル4点。計算されたラインやドローイング、そして色数を抑えたシンプルなデザインは、すべて彼女が手がけています。

マリメッコ社のヴィンテージアイテムですが、どことなく日本の小紋柄を連想しませんか? そう、これらのテキスタイルはすべて石本藤雄さんによるデザインなんです。

企画展の英文タイトル「Impression of Textile Design」は、フィンランドのテキスタイルが、時に選んだ人の日々の心象風景を映したり、空間の印象をがらりと変えたりする存在であることを表しています。「北欧の人たちが暮らしの中で自然を写したモチーフや幾何学的なパターンなどテキスタイルを何枚か持つように、日本でもその時選んだ一枚の北欧の布に気分や季節をやわらかに託して、暮らしを楽しめるのでは」と、戎さんは言います。

ヴィンテージテキスタイルには工場が閉鎖されて廃番になった希少なものもありますが、現行品には過去のデザインを復刻し、色やスケールを変えるなどアップデートしたものも。年代に関係なく、フィンランドのテキスタイルに共通するのは普遍的なプロダクトとしての存在感。パターンは消費されることなく大切にアーカイブ化され、手に取ったときに積み重ねられ歴史を感じます。ものの良さを長く受け継いでいく確かさも息づいているようです。

「テーブルウエアを置くと、より一層テキスタイルの良さがわかるんです」と戎さん。北欧のコレクターの使い方や店舗での見せ方をお聞きしてみましょう。インテリアに取り入れる参考になります!

t-b-dでは、オーナーの築地さん自ら買い付ける北欧のガラスやセラミックを中心としたヴィンテージアイテムとともに、日本の作家と共同で手がけた魅力的なプロダクトも紹介しています。

表参道駅から根津美術館に向かう通りに面した古いビルの一室。 “後日決定”の意味をもつ“to be determined”の頭文字から名付けられた「t-b-d」は、学芸大学駅にあった北欧のヴィンテージ品を扱うショップ「biotope」のコンセプトをリファインした新店舗として、昨年秋にオープンしたばかりです。

北欧からはヴィンテージアイテム、アートセラミックスや工芸品など一期一会を大切にしたいものを。また日本からは北欧家具などと調和のとれるプロダクトを、オーナーの築地雅人さんを中心に独自の視点でセレクトしています。両者が出会ったときに魅力を高め合うような作用や発見をじっくり咀嚼して、ていねいに発信すること。そんな実験的な場として育てたいとの思いが店名に込められています。今年は日本の作家とコラボレーションする企画展も準備中といい、小さなスペースからの密度の高い発信に今後も期待が高まります。