ヴィンテージキルトと、運命の出会いを楽しむ。
写真:永井泰史 文:小川 彩

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端切れを継いだ痕跡がコラージュのように美しいヴィンテージキルト。インドからやってきたキルトを、奄美大島で藍と泥の2種を混ぜて染めなおしています。この商品はおよそ約150×200㎝。¥43,200

同じものをコートハンガーにかけてみると、また違った表情が生まれてきます。無作為の模様が絵画的で、薄手であればタペストリーのように壁面に飾っても楽しめることでしょう。

年末にむけ、整理や掃除を終えてすっきりとした室内。そこに、装飾的なテキスタイルを置いてみるのはどうでしょう。新しい空気が部屋に流れるのを感じます。

布を幾重にも縫い合わせるキルトは薄手ながらにしっかりしていて、インテリアスローにもラグにもなる、扱いやすく使い勝手のよいアイテムです。どこか女性的な印象の強いキルトですが、インドのヴィンテージキルトと出会い、その印象は大きく変わりました。アノニマスな雰囲気と使い込んで洗いざらした素材感は力強さを秘めたもの。今回紹介するのは、藍や泥で後染め(オーバーダイ)したヴィンテージや、藍と泥を混ぜて染めたキルトです。

布を縫い合わせたステッチが、一枚一枚異なる味わいを持っているのがキルトの面白さ。この藍染めのキルトは模様のある布でリムをつくっています。¥38,800

地の模様が控えめに浮かび上がるのも、後染めの良さかもしれません。泥染めは染料が繊維に入り込んで重量感もあり、ラグとして使うのに向いています。¥41,010

キルトといってもさまざまな技法がありますが、インドでは各家庭で女性が手づくりするシンプルなものといいます。母から娘へと贈る風習もあるそうです。

「床に敷いたり物を包んだりと日常使いするなかで、破れたらもう1枚布を重ねたり継ぎを当てたりして、積層していったキルトがほとんどです。ステッチもシンプルに直進させたものや、金糸を使っているものまでさまざま。このキルトの面白さは使い込んだキルトをクリーニングして藍で後染めすることで、それぞれの表情をより際立たせている点でしょう」

そのようにキルトの魅力を語ってくれたのは、早稲田鶴巻町にある「on the shore」店主の谷俊介さん。家具メーカーをはじめとしたインテリア業界で販売やインテリアコーディネートの仕事を経て、2014年3月にインテリアショップをオープンしました。

モロッコのベルベル人が織るアンティークのラグもセレクト。こちらは「ベニワレン」と、地名が呼称となった織物。ウール100%で毛足が長くしっかり目が詰まり、あたたかです。約150×250㎝。¥194,400

ブルーの壁面が印象的な「on the shore」の店内。アールデコ調の上海のアンティーク家具やコンテンポラリーな照明器具など、新旧のアイテムを織り交ぜたスタイル提案が魅力的です。

モダンなプロダクトからアンティークまで。時代や地域を越えたもののセレクトは、アフリカやアジアの古い家具や調度品をうまく取り入れた、ヨーロッパのインテリアスタイリングの影響だと、谷さんはいいます。このヴィンテージキルトは、そうしたスタイリングに活躍することに間違いないでしょう。一枚一枚、表情もサイズも違うキルトに迷う人も多いかもしれません。でも谷さんは、「バリエーションを見てから選びたいとおっしゃる方もいますが、古いものって直観的な偶然の出会いを楽しむところがありますよね」と言います。

後染めなので色落ちや経年変化は避けられませんが、それも味のうち。使い込んでいるので縮みはほとんどないそうで、気になるようであれば何度か水を通してから使うのもいいかもしれません。布を重ねてつくられているので、使い古して擦れてくると、下地の布が見えてくるのも楽しみです。この世にひとつしかないものとの出会いは、心に残ったら逃さない。そして育てていく楽しみが、ものに宿っています。”物語のあるもの”との暮らしを始まる、素敵なきっかけがここにはありそうです。