たどり着いた、モデュール化という発想。独創の照明器具「モデュレックス」の魅力を探る。

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    照明器具自体をモデュール化した「モデュレックス」。 誕生以来、その根幹にあるのは、照明技術を通して「空間を使う相手の要求に応えること」でした。
    そもそもブランド誕生の発端になったのは、産業用ハロゲンランプを商業空間にもち込もうとしたこと。商業空間といっても、衣食住をはじめ多種多様なジャンルの数だけ、必要とされる光の種類は異なります。単に光量があればいいという話ではありません。演色に優れたハロゲンランプを光源にすれば、情感をもった空間演出が可能になるのではないか、そんな考えから照明デザインの提供が始まりました。
    ひとつのフォルムで多様な光の機能を実現する「ブラックコーン」、光のバリエーションを柔軟に変えられる「SX-100」、性能は保持しながらスケールをそれまでの8分の1にした「CHIBI・LA」など、照明業界の革命児として次々と新機軸を打ち出しています。
    モデュレックスは、照明システムの可変性・発展性をモデュール設計として確立。寸法規格に縛られていた照明を解き放ち、従来の器具の概念を超えた構造を完成させたのです。照らす対象や、空間そのものの雰囲気を変更するようなケースにもスムーズに対応。天井ごと入れ替えるような大規模工事をすることなく、モデュール構成の一部を見直すだけで照明効果が調整可能になりました。照明の質と効率をトレードオフにすることなく、さまざまな要求やシチュエーションへ柔軟に対応するモデュレックス。以下のデザイナーとモデュレックス代表の対談からも、この空間を生かす照明の哲学が見えてきます。ご自宅や店舗に照明の導入をお考えの方は、ぜひお読みください。(Pen編集部)
    明かりを操り、理想の空間を紡ぎ出す。

    空間を活かす照明とは、どうあるべきか──多彩なフィールドで活躍するデザイナーとモデュレックス代表、ふたりのプロフェッショナルが語り尽くす。

    グエナエル・ニコラ
    Gwenael Nicolas
    キュリオシティ代表

    ●1966年、フランス生まれ。E.S.A.Gインテリアデザイン科、RCAインダストリアルデザイン科卒業。91年来日、98年キュリオシティ設立。数多くのプレステージブランドのショップデザインを担当。

    曄道悟朗
    Goro Terumichi
    モデュレックス・ホールディングス 代表
    モデュレックス 代表

    ●1971年、東京都生まれ。マサチューセッツ州立大学を経て早稲田大学商学部を卒業。銀行勤務後、現職へ。ハバナシガー、音楽、腕時計、カメラ、靴など多岐にわたり造詣が深い。

    曄道 ニコラさん率いるキュリオシティとは、2002年からショップライティングを中心に多くのプロジェクトでご一緒しています。昨年もベルルッティ阪急メンズ大阪店のオープンに参画しました。最初とても驚いたのですが、ニコラさんのプランは照明器具の数がとても少ないのが特徴ですよね。

    ニコラ そう、それは光と影の効果を吟味した結果なのです。そのバランスを知ったのは、実は日本に来てからなんですよ。たとえば、天気のよい日にお寺を見てもコントラストが強過ぎて建築の複雑さが分からない。でも、曇りの日なら構造や意匠まではっきり見える。つまり、素材や形を際立たせるには光を当てればいいってことではないんです。光が当たってなくても美しく見えるし、影のなかに空間としての深さがあるというか。だから光は最小限でいい。引き算の考え方ですね。

    曄道 非常によくわかります。我々が扱うモデュレックスという照明器具のスタンスも、まさに光を引き算するというものです。モデュレックスは舞台照明から始まった会社なので、照明は見えないほうがいいという考え方なんなると、照明は可能な限り少ないほうがいいんです。ニコラさんにもお贈りしていますが、モデュレックスのクリスマスプレゼントは毎年キャンドルです。なぜかといえば、キャンドルが1本、適切な場所に置いてあったらそれで充分なことがあります。照明器具屋なのにね(笑)。

    ニコラ 空間をカッコよく見せるための光ではなく、人のための光であれば充分ですね。さらに人のための光を突き詰めていくと、光は人に合わせて動くほうがいい。あるいは、人がいるところだけ光があればいいと思います。人が座ったら、座った部分が光るとか、面白いですよね。

    曄道 なるほど。とても興味深いお話です。いま、モデュレックスが少しずつ進めていることと近いかもしれません。それは、平面図に照明を機械的に配置するスタティック・ライティングの否定です。たとえば、好きな人が目の前にいて、ふたりの間にキャンドルがあるとします。椅子に座ったら、10秒ほどかけてキャンドルの下が、「さりげなく」フワ〜ッと明るくなり、そこにひとつの世界が誕生し、親密な時間が流れる。そして、席を立ったら30秒ほどかけてソ〜ッと暗くなる。このような人のための光を、ダイナミック・ライティングとして提唱したい。人間と照明とを、連動させるアプローチです。

    ニコラ その点では人間の感覚について考える必要がありますね。直島にあるジェームズ・タレルの作品『バックサイド・オブ・ザ・ムーン』のように、真っ暗の空間に入った時には、最初は何も見えなくて──。

    曄道 でも、だんだん目が慣れてきて、見えるようになってくる。

    ニコラ そう、人間の感覚で見えるようになる。感覚というのは、変化するもの。オンとオフではないんです。

    曄道 そのとおりですね。

    ニコラ 人間の感覚を活かしながら、光を調節する。それが自在にできたなら、本当によい空間になるんじゃないかな。デザインは人間の感覚にもっとプレッシャーを与えないと。簡単なだけのユニバーサルデザインからは、経験も工夫も生まれてきません。経験することは面倒かもしれませんが、価値のあることです。

    曄道 本当にそうですね。照明も感覚に訴えかけることが大切だと思っています。モデュレックスが目指しているのは、情感を生み出すことなんです。過ごしているうちに、自然とその空間が好きになっていくような。

    ニコラ なるほど。インテリア・デザインでブランディングする場合、空間の雰囲気もブランドのアイデンティティとなります。訪れた人の記憶に、その雰囲気の印象が残るんです。好きとか嫌いとか。光は、雰囲気をつくるうえで最も大きなエレメントですね。

    曄道 とても責任のある仕事だと思っています。

    ニコラ 雰囲気をつくるうえで光と素材の組み合わせ方も重要。特に、革や木といった自然素材のライティングは難しい。それでも自然素材を使いたいと思います。建材も人工物、ライティングもコンビニみたいにデジタルな空間は、人間の住む場所じゃないと思います。そんなCGのような空間で生活していては感覚が育たない。我が家では、子どももプラスティックではなく陶器の食器を使い、大人と同じものを食べています。たとえば、辛口カレーです。さらには、数もあまり付けたくない。最小限から考えたいと思っています。極端なハナシ、真っ暗闇からスタートして、必要なところだけ照明を設置するのがベストという。

    ニコラ 同感です。

    曄道 僕は照明器具をたくさん売ろうとは思っていないんです。ただ、人のくらしが豊かになってほしい。そうなんかも食べますよ。

    曄道 確かに子どもというものは、初めて見るものを触るのも、場合によっては食べることも平気でやります。経験することを怖がらないし、躊躇もしませんね。むしろ、アグレッシブに向かっていくぐらいでちょうどいいのかもしれません。

    ニコラ 大切なことですよね。子どもの頃から感覚を育てていかないと、経験に基づく判断ができない人間になってしまいます。

    曄道 感覚が育つ空間、そのためのライティング。実現したいと思います。

    ニコラ そのためにメーカーとデザイナーはコミュニケーションを密にして、かなり先のビジョンまで共有する必要があります。いまある技術でなにができるかではないんです。本当になにが欲しいかを、ゼロから考えることが大切ですね。

    曄道 我々はいま、41年かけて積み上げてきたものを、いったん捨てるつもりで製品開発を進めています。過去の製品を全て旧モデルとして、新しいモデルを真っ白な紙に書き始めているんです。ゼロからの挑戦、と言っていいかもしれません。

    ニコラ とても大事なことですが、なかなかできることではありません。

    曄道 勇気が要ることでしたね。でもやってよかった、そう思えるように全力を傾けていますよ。

    ニコラ シフトとエボリューション。いまは、そういう時代だといえます。そのチャレンジがどんな実を結ぶか、いまから楽しみですね。

    曄道 ベルルッティ阪急メンズ大阪店は、見事にメンズブランドの空間に。

    ニコラ メンズとウィメンズとでは照明が異なります。今回は全体を暗く、フォーカスポイントを設けました。商品とお客様だけをコネクトする、サロンのように寛げる空間にしたかった。

    曄道 男にとって、そういった時間は大切ですからね。でも実は、お話をいただいた時、担当のライティングデザイナーはニコラさんの意図をつかめなかった。彼はまだ20代で、何十万もする靴を買った経験がなかったので。そこで、彼を連れてベルルッティの店舗へ実際に靴を見に行ったんです。

    ニコラ やはり現場は大事ですよね。

    曄道 お客様の目線に立つことは靴の値段以上に価値があることですから。彼はベルルッティの本店で、座り心地のよいソファに座って、儀式のような一連の靴選びのサービスを存分に受けました。そこで知ったのです。店に入った時とソファに座った時の視点の違い、最高のサービスを演出する光の重要性。それらは平面図を眺めているだけでは知り得なかったことでした。

    ニコラ そう。お客様は立ったり座ったりと動くもの。だから我々デザイナーは静止画として美しい空間をつくっていては意味がないんです。

    曄道 とてもよくわかります。人が動いて使い込むからこそ、空間はもっとよくなるんだと思います。ですから、オープンした日が一番よいのではなく、訪れた人がその場所を好きになって、もっと長い時間を過ごしたくなって、そしてまた訪れたくなって……。そういった空間をつくるライティングをやっていきたいんです。

    ニコラ 本当に重要な仕事ですよね。私はいつもオープンして3日後あたりにクライアントに反響を聞くんです。

    曄道 ベルルッティ、どうでした?

    ニコラ すごくよいって。

    曄道 それ聞くと、嬉しいですよね。

    ニコラ 嬉しいですね。私たちは商品とお客様をつなぐブリッジをつくっているわけですから。さらには、そのブリッジによって購入という経験が記憶により深く残ればよいですね。

    曄道 是非そのサポートをさせてください。今後も我々は脇役としての照明に徹していきますので。より存在感のないさりげない照明……そのための熱の制御やリフレクター、レンズ、あらゆる面でのイノベーションを創出します。過去からの延長線ではありません。いままでを一度ゼロにリセットしてからエボリューションを目指します。

    ニコラ 楽しみですね、ライティングのフューチャー。

    曄道 本当ですね。僕、そもそもライティングが大好きなんです。ライティングの未来を考えると、楽しくて仕方がないんです。

    照明は最小限でいい、
    光を引き算する考え方。
    情感を生み出すこと、
    それを目指すのが
    モデュレックスです。
    ──曄道悟朗

    空間の雰囲気をつくる、
    最も大きなエレメントが
    光だと思います。
    ──グエナエル・ニコラ
    どんな要求にも、「光」で答えを探すスタイル

    高級車のショールームから、ホテルの照明まで。対象となる空間が変わっても、モデュレックスのミッションは変わりません。

    ASTON MARTIN アトランティックカーズ
    巧みな明暗差で、クルマがさらなる色気を放つ。

    東京都港区麻布台3-5-5  TEL:03-3583-8611
    営業時間:9時30分~18時 無休(※年末年始・夏季休業を除く) www.astonmartin-atlanticcars.co.jp
     
    映画『007』シリーズでも活躍する英国車、アストン・マーティン。ボディのRが描く曲線、中でも後ろから見た時の“ヒップライン”の美しさに定評のあるクルマです。
    この“色気”を、ショールームという室内空間でいかに表現するか。単に照らし上げればいいというものではありません。光量だけでは、モノが見えても色気は漂わないから、思わず身を乗り出しそうになるくらいの引力を、クルマに纏わせる必要があります。
    この課題をクリアするために、1台あたり6基のモデュレックスが配されました。前輪のホイール、サイドボディのR、そして後輪のホイールを、各1基のモデュレックスが左右両面から狙い撃ちます。それぞれの曲面が光を受け止め、クルマ全体が粒子の衣で覆われていくのです。
    直接の照明だけでなく周囲の光量をあえて抑えることで、クルマそのものを浮き立たせる効果も。特に夜間のショールームで目にできる色気は、一見の価値があります。

    クルマの上部にうっすらと見える丸い照明器具。左右各3基ずつ、合計6基のモデュレックスが、アストン・マーティンのもつ色気を最大限に引き出すよう、配置されている。
    鬼怒川金谷ホテル KINUGAWA KANAYA
    ドラマティックな演出で、その気にさせる技術。

    栃木県日光市鬼怒川温泉大原1394
    TEL:0120-12-9999(フリーダイヤル) www.kinugawakanaya.com

    鬼怒川渓谷を見下ろす、自然豊かな場所に位置するホテル。時々刻々と変化していく緑の表情と、ロビーやダイニング、客室などゾーンに応じた館内の印象、その両者をドラマティックに演出し、あたかもナチュラルなかたちであるように働きかける照明が求められていました。どの時間帯、どの場所にいても画一的なイメージを抱くのではなく、過ごすタイミングによって移ろいを感じさせる“動的な照明”が、さり気なく配されています。
    たとえば、大きな窓から山々と渓谷を望めるロビー。ホテルの顔でありながら、押し付けがましい重厚さは微塵もありません。自然にリラックスできるよう、調整された明るさの照明が宿泊客にそっと寄り添います。一歩足を踏み入れた瞬間から充実したひとときを予感させ、オフタイムを満喫する気分が盛り上がってくるのがわかります。
    光と影が織りなす“企み”に、あえて躍らされたくなるような空間が広がります。

    日没前後の時間がひと際美しいダイニング。ちょっとカクテルを飲みたくなったり、スムーズに会話が弾んだり。意識することなくリラックスできる照明演出を、時間帯に応じて展開する。

    ModuleX 問い合わせ/株式会社モデュレックス(旧株式会社ウシオスペックス) www.ModuleX.JP