コンパクトカーの世界標準となった、ドイツ発のFFハッチバック【名車のセオリー Vol.4 フォルクスワーゲン ゴルフ】

  • 文:鈴木真人
  • イラスト:コサカダイキ

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初代ゴルフ(ゴルフⅠ)の全幅は1610mm。ポロの現行モデルよりコンパクトだった。

時を経ても色褪せず圧倒的に支持され続けるモデルを紹介する、連載シリーズ「名車のセオリー ロングヒットには理由がある」。第4回で取り上げるのは、コンパクトカーの世界標準であり続けてきたフォルクスワーゲン ゴルフ。合理的なパッケージングで小型車に革命を起こし、いまも他の追随を許さない存在だ。

ゴルフを語る上で避けて通れないのが、フォルクスワーゲンが躍進するきっかけとなった空前の大ヒットモデル、ビートルとの関係性だろう。第二次世界大戦の終わりとともに本格的な生産が始まったビートルは、手頃な価格と基本性能の高さで販売も好調だったが、プロトタイプがつくられたのは1936年。60年代に入ると、本国ドイツでは新たなモデルを求める声がしだいに強くなっていった。しかし偉大な先達の後を襲うのは簡単なことではない。期待が大きければ大きいほど、プロジェクトは困難になる。68年に登場したタイプ4(411/412)の評判は散々なものだった。スタイルはアップデートされていたものの、空冷水平対向エンジンをリアに搭載するというメカニズムは従来通りで、新しさを感じさせなかったのだ。ビートルの正統な後継車は74年にデビューした。ゴルフである。

タイプ4(イラストは412モデル)はシャシーやサスペンションなどに新技術が使われていたが、パワートレインはビートルから受け継いだもの。新世代のクルマというイメージは薄かった。

後継車といっても、ビートルとゴルフはまったく似ていない。フォルムは丸いビートルとは対極の四角張ったもの。曲面はほとんど使われていないのだ。さらに重要なのが駆動方式である。ビートルはエンジンを後部に置いて後輪を駆動するRR方式を採っていたが、ゴルフはフロントエンジン・フロントドライブのFF方式だ。空冷も水平対向もやめ、ボディ前端に横置きされるエンジンは水冷直列4気筒である。新時代のビートルを生み出すには、新しい発想が必要とされた。技術の発展によってFFでも良好なドライバビリティを確保することが可能になっており、冷却効率のいい水冷の採用も必然だった。正反対のメカニズムに見えるが、シンプルで合理的な設計ということでは共通している。

ゴルフはフロントに水冷直列4気筒エンジンを横置きし、前輪を駆動する。このFFハッチバックはベーシックカーの基本となった。

デザインを担当したのは、ジョルジェット・ジウジアーロである。無駄な装飾を排した直線的なフォルムは新鮮で、若々しさを感じさせた。コンパクトなボディでも室内は広く、大きなハッチバックは使い勝手がいい。優れたパッケージングは新たな時代を象徴していると受け止められた。走る・曲がる・止まるという基本性能は磨き上げられており、実用車として高いポテンシャルをもっていた。ビートルに代わる存在として認知されたゴルフは、世界中の自動車メーカーにとってお手本となり、超えるべき目標となる。影響を受けたモデルが次々とつくられた。1980年に第1回日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ ファミリアは、明らかにゴルフから多くを学んだモデルである。

マツダの5代目ファミリアは、1980年に始まった第1回カー・オブ・ザ・イヤーの受賞車。トヨタのマークⅡ三兄弟や日産のレパードなどのライバルを抑えての栄冠だった。

ポテンシャルを活かした、さまざまな派生モデルが登場。

日本に遅れてヨーロッパでも広がった、ミニバン需要に応えたのがトゥーラン。ルノーのセニックやオペルのザフィーラなどとともに、このジャンルの先駆けとなった。

ポテンシャルの高さを活かして、ゴルフを基にしたさまざまな派生モデルが生まれた。クーペスタイルのシロッコは、なぜかゴルフに先立って販売が開始されている。トランクが追加されたセダンのジェッタも、ゴルフがベースだ。初代から早くもオープンモデルのカブリオが登場し、ビートル時代から深い関係があるコーチビルダー、カルマン社がソフトトップを製作した。2003年になると、5代目ゴルフをベースにミニバンのトゥーランがつくられる。ヨーロッパではただのトゥーランだが、日本での販売名はゴルフ トゥーランだ。ブランド価値の高いゴルフの名を冠することで、販売促進が図れると考えたからだろう。

5代目ゴルフ(ゴルフⅤ)のGTIは2L直4ターボエンジンを搭載。さらに高出力なV6エンジンを搭載したR32というモデルもあった。

高性能モデルのGTIが、初代からラインアップされている。おとなしいルックスながら高い実力を秘めており、GTIはホットハッチの代名詞的な存在となった。5代目ゴルフではこれ見よがしな“ワッペングリル”が採用されたが、不評ですぐに廃止されてしまう。ゴルフユーザーは、過剰な派手さを嫌うのだ。ゴルフを基にしたビートルもつくられている。1998年に登場したニュービートルだ。丸くてかわいらしいフォルムで、室内にはビートルの特徴だった一輪挿しまで備えられているが、駆動方式はFFである。メカニズムが大幅に異なるのに、無理やりカタチを似せたことでパッケージ面では難もあったが、人気は高かった。ゴルフがベースということは、安心感をもたらすのだろう。

ゴルフは世界累計販売台数が3500万台を突破。最新モデルとなる8代目(ゴルフⅧ)の日本発売は、2020年末か2021年初頭になる予定だ。

ドイツ本国では、昨年12月から最新の8代目ゴルフの販売が始まっている。2ボックスのハッチバックで太いCピラーをもつ基本デザインは変わらないが、よりシャープで力強い造形となった。マイルドハイブリッドシステムの採用や、プラグインハイブリッドモデルの設定などが新しい。インフォテイメントや先進安全装備もアップデートされ、新世代に向けての準備も万全である。海外から聞こえてくる声によると、評判も上々のようだ。熟成を深めながら、最新の技術を取り入れて盤石の体制を築く。この新型ゴルフが新たなベンチマークとなり、世界中の自動車メーカーが追随していくことになるはずだ。

フォルクスワーゲン ゴルフ

ゴルフはビートルに代わるベーシックな大衆車として、1974年に登場。横置きエンジンのFFハッチバックという、ベーシックカーのお手本となった。ほどなく日本にも輸入されるようになり、試乗して完成度の高さに衝撃を受けた自動車評論家の徳大寺有恒は、書き上げたばかりだった新書『間違いだらけのクルマ選び』の原稿をすべて書き直したという。ゴルフは世代を経るに連れて大型化しているが、ゴルフは常にCセグメントを代表するモデルとされている。