戦場で鍛えられた走破性能をもつ、史上最強の4輪駆動車。【名車のセオリー Vol.3 ジープ】

  • 文:鈴木真人
  • イラスト:コサカダイキ

Share:

初代ジープの「ウィリス MB」は、現行の7スロット(吸気口)と異なり9スロットのフロントグリルをもつ。

時を経ても色褪せず圧倒的に支持され続けるモデルを紹介する、連載シリーズ「名車のセオリー ロングヒットには理由がある」。第3回で取り上げるのは、クロスカントリー4輪駆動車の代名詞となっているジープ。高級SUVに転身してからも、アメリカの軍用車から始まった歴史が高い信頼の源となっている。

4輪駆動のオフロード車の中で、最も有名なのがジープだろう。メルセデス・ベンツのGクラスのことを「メルセデスのジープ」と呼ぶ人がいるくらいだ。ジープが長年にわたって絶大な信頼を得ている理由は、その出自にある。アメリカ陸軍の要請でつくられた軍用車であり、走破性能には妥協がない。1940年にアメリカ陸軍の小型偵察車開発委員会は、自動車メーカー135社に仕様書を送った。車両重量585kg、ホイールベース2030mm、トレッド1190mmを下回るサイズの4輪駆動車で、重機関銃を搭載することが求められた。ヨーロッパ戦線ではドイツ軍のキューベルワーゲンが猛威を振るっており、対抗する必要があったのだ。要請に応じたのはアメリカン・バンタム、ウィリス・オーバーランド、フォードの3社。プロトタイプを提供したアメリカン・バンタムの設計が採用されたが、生産を担ったのはウィリス・オーバーランドとフォードである。

TVドラマ『コンバット!』では、第二次世界大戦時のヨーロッパ西部戦線でジープが活躍するシーンが描かれた。

初期モデルの製品名は、「ウィリス MB」と「フォード GPW」。軍での制式名称は「1/4-TON 4x4 TRUCK(WILLYS-OVERLAND MODEL MB and FORD MODEL GPW)」である。ジープと呼ばれるようになった理由ははっきりしていないが、”General Purpose”(多目的、万能)の略称“GP”から来たという説が有力とされている。シャシーはハシゴ型フレームで、前後ともにリーフリジッドのサスペンション。悪路の走破性を最優先したオフロード車の基本にのっとっている。砂漠から積雪地帯までカバーし、最大31度の斜面を上る能力をもつ。パワーユニットは2.2L直列4気筒のサイドバルブエンジン。耐久性と使い勝手を重視したチューニングで、2000回転で最大トルク14.5kgmが得られた。第二次世界大戦中に、ウィリス MBとフォード GPWを合わせると60万台以上が生産されている。

初期の三菱「ジープ J1」型。ウィリス社から技術とパーツを提供されていた。

多くの日本人が、戦後すぐにジープを知ることになる。進駐軍の兵士が移動手段として使い、数千台のジープが日本全国を走っていた。日本の自動車産業は壊滅状態となっており、高性能なジープを目の当たりにして工業力の差を思い知っただろう。無邪気な子どもたちにとってはまぶしい存在だった。当時は小学生だった自動車評論家の徳大寺有恒も、初めて憧れたクルマはジープだったと語っている。次の世代はTVドラマの『コンバット!』でジープを知ったはずだ。1962年から放映されたアメリカのドラマで、第二次世界大戦末期の西部戦線が舞台となっていた。ジープで荒れ地を駆け回ってナチス・ドイツを蹴散らすシーンに、男の子は茶の間から喝采を送っていたという。

軍用車からプレミアムSUVへ、華麗な進化を遂げたオフローダー

民生モデルの「ジープ CJ-5」は、1954年から83年まで生産された。

日本でもジープが生産されていたことがあった。1951年に警察予備隊が発足し、山野の移動や輸送のための四輪駆動車が必要となったのだ。プロトタイプをつくるよう求められたのは、トヨタ、日産、三菱の3社。審査の結果、ウィリス社のライセンスを受けていた三菱が製品供給を行うことになる。これが「三菱 ジープ」で、当初はウィリス社のパーツを使った完全ノックダウン生産だった。56年に完全国産化を達成し、2001年まで販売されていた。この経験は、「パジェロ」の開発に活かされている。トヨタがつくったモデルは「トヨタ ジープ」と呼ばれていたが、三菱が採用されたことで「BJ」型に名称を変更。これが発展したモデルが「ランドクルーザー」である。日産が開発したモデルには「パトロール」という名が付けられ、日本では3代目から「サファリ」となった。

「ジープ CJ-7」はプラスティックトップを採用し、さらに快適性を高めている。

ジープは朝鮮戦争でも軍用車として使われた。ウィリス MBとフォード GPWだけでなく、後継モデルの「ウィリス M38」も配備されている。ベトナム戦争では、「ケネディジープ」と呼ばれた「フォード  M151」が主力となった。モノコックボディでコイルスプリングの4輪独立懸架を採用しており、初代モデルとは大きく異なる構造となっている。四輪駆動車の走破性能を活かし、民生モデルもつくられるようになった。早くも1945年に「ジープ CJ」型が登場している。CJというのは「シビリアンジープ」の略で、農業などで使える実用性を備えていた。CJ型の後継モデルとなったのが、87年にデビューした「ジープ ラングラー」である。

現行型の「ジープ ラングラー」は最もスパルタンなモデルで、日本市場でも人気を博している。

豪華装備の最新型「ジープ グランドチェロキー」も、本格的な4輪駆動システムを有する。

1974年にはワゴンタイプの「ジープ チェロキー」が誕生している。モデルチェンジを経るに従い快適性を向上させ、2013年に登場した5代目モデルはクロスオーバーSUVとなった。さらに大型の「グランドチェロキー」は、メルセデス・ベンツやBMWなどのプレミアムSUVと肩を並べる存在となっている。いまはジープにも、他の乗用車と変わらぬ運転感覚と豪華な装備が求められる時代なのだ。高速巡航をこなし、乗員には静粛で心地よい空間を与えなければならない。軍用車からSUVへと華麗な変身を遂げたジープだが、悪路を安全に走破する能力は守り続けている。時流に乗ってつくられた新参者とは違い、歴史の重みがあるのだ。確固とした誕生の物語をもっているからこそ、ジープの名はいまも特別な輝きを放っているのだろう。

ジープ

第二次世界大戦時に、アメリカ陸軍の軍用車として誕生したジープは、ドイツ軍のキューベルワーゲンを凌ぐ性能で連合軍の勝利に貢献した。ラダーフレームにリーフ式のサスペンション、パートタイム4WD機構という、悪路の走破性に特化したつくりになっている。戦場で証明された信頼性は民生モデルになっても評価され、ジープの名は4輪駆動車の代名詞となった。現在ではラングラー、チェロキー、グランドチェロキーに加え、小型モデルのレネゲードやコンパスもラインアップされている。