優れた基本設計とポップなルックスで、愛され続ける革命的小型車。【名車のセオリー Vol.1 ミニ】

  • 文:鈴木真人
  • イラスト:東海林巨樹

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初期型(1964年)のモーリス・ミニ マイナー。

今回からスタートする新連載シリーズ「名車のセオリー  ロングヒットには理由がある」。時を経ても色褪せず圧倒的に支持され続ける、名車と呼ばれるモデル――。その変遷と愛される理由を、世相やカルチャーを交えて解説。第1回はイギリスが誇る名車、ミニを紹介する。

日本では本国イギリス以上にミニの人気が高かった。一種のお洒落アイテムとして扱われたきらいもある。それはいいのだが、クルマをよく知らない芸能人が好きなクルマを聞かれて「ミニ クーパー!」と勢いよく答えるのを聞くと、もやっとする。車名がクーパーで小さいからミニという言葉が加わっていると勘違いしているのだ。もちろん誤りで、この愛らしいカタチの小型車はミニという名称であり、クーパーというのはグレードなのだ。正確に言うと、1959年にデビューした際にはオースチン・セブンとモーリス・ミニ マイナーという2つの名をもっていた。ADO15というプロジェクトで開発され、製造元のBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)から2つのブランドで発売されたのだ。

2階建てのパワートレインとサスペンション。

このクルマの誕生には、きな臭い出来事が関わっている。1956年7月にエジプトがスエズ運河の国有化を発表し、イギリス、フランス、イスラエルが軍隊をシナイ半島に送った事件だ。スエズ危機と呼ばれる事態はエジプトの運河封鎖とシリアのパイプライン切断という結果を生み、ヨーロッパは石油供給に不安を抱えることになる。ガソリン消費量の少ないバブルカーと呼ばれるスモールカーが人気となったのは自然なことだ。BMCもバブルカー開発に乗り出したが、出来上がったのは革命的な構造をもつ小型車だった。ADO15プロジェクトを主導したのは、天才技師アレック・イシゴニスである。

モンテカルロラリーでは3度の優勝を果たしている。

ミニの全長は3mをわずかに超える3050mmで、幅は1410mm。ミニマムなサイズで4名乗車を可能にするには、エンジンルームを最小化するしかない。エンジンをフロントに置き前輪を駆動するFFを採用したのはもちろんだが、イシゴニスはさらに画期的な機構を考案した。当時のFF車は、エンジン、クラッチ、トランスミッションが縦に並ぶのが普通で、どうしてもノーズが長くなってしまう。イシゴニスは直列4気筒848ccエンジンを横置きにし、その下にあるオイルパンの中にトランスミッションを組み込む2階建て方式でスペースを節約したのである。

ファッションアイコンにもなった、唯一無二のコンパクトカー

ウッドフレームが特徴のミニ トラベラー。

省スペースのため、サスペンションにも工夫が凝らされた。金属バネの代わりに、ゴム製のラバーコーンサスペンションを採用したのだ。開発したのは、小径タイヤ自転車の歴史に名を残すアレックス・モールトンである。さらに10インチの小径タイヤを使ったことで、ミニは特異な操縦感覚をもつことになる。ハンドルからの入力がクイックに伝わり、ダイレクトなフィールが“ゴーカート感覚”と称された。敏捷な走行性能を活かしてレースに使おうと考えたのが、イシゴニスのレース仲間だったジョン・クーパーである。彼のチューニングしたミニはレースやラリーで大活躍し、ミニの高性能バージョンはミニ クーパーと呼ばれるようになった。

ミニスカートで知られるモデル、ツイッギーの愛車はミニだった。

映画『ミニミニ大作戦』(1969年)で階段走行する勇姿。

ミニにはバリエーションモデルが多く存在する。商用車としてつくられたバンや、荷台をもつピックアップもあった。荷室の外板に木製フレームを採用したコンパクトワゴンのカントリーマンやトラベラーは、実用的であると同時にスタイリッシュだった。ルーフもドアもないビーチバギーのモークという変わり種もある。シャシーとエンジンだけを使ってまったく別のボディを載せたレーシングカーも多くつくられた。ミニはファッションアイコンとなり、エリザベス女王からザ・ビートルズ、モデルのツイッギーなど、さまざまなセレブリティから愛された。人気は衰えず、基本設計を変えぬまま2000年まで生産が続けられるロングセラーになったのだ。

BMW ミニは2013年に3代目となった。

サイズが小さいことを活かして、ミニが活躍する映画がつくられている。1969年の『ミニミニ大作戦』だ。ロンドンの泥棒チームがトリノで金塊を強奪するストーリーで、ミニの小ささを活かしてイタリア警察のパトカー(アルファ ロメオ ジュリア スーパー)をきりきり舞いさせる。原題の『The Italian Job』はそのことを意味しているが、大胆な邦題のおかげもあって日本で大ヒットした。この映画は2003年にリメイクされており、やはりミニが登場する。ただ、こちらはBMWのもとでリブートされた新世代ミニである。少し大きくなったものの、愛らしくポップなスタイルは変わらない。ボディタイプのバリエーションが増え、内外装が豪華になってプレミアムコンパクトというジャンルを確立した。デビューから60年以上を経て、ミニはいまも新鮮な魅力を放ち続けている。

ミニ

BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)から1959年に発売されるが、会社の再編にともなって最後はローバーブランドとなった。ローバーがBMWに買収されたことで、2001年からはまったく異なる設計のモデルが販売されている。基本車型はひとつだったオリジナルミニに対し、BMW ミニはさまざまなバリエーションを展開し、クロスオーバーSUVやコンバーチブルなどをラインアップ。最近のモデルではリアコンビネーションランプがユニオンジャックモチーフとなり、英国車であることを強調している。