これぞ、椅子のなかの椅子。
Vol.70
これぞ、椅子のなかの椅子。
PP503

ハンス・J・ウェグナー

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

生涯に500脚以上もの椅子をデザインしたハンス・J・ウェグナー。彼ほど、木の椅子に精通した人物は他にいません。北欧の巨匠が突き詰めた「PP503」は、椅子のあるべき姿を示しました。

ミニマルでありながら温もりのあるフォルムや美しい接合部をつくり出すのは、家具職人のキャリアをもつウェグナーの技術と知識。卓越した造形センスもまた、木材への深い造詣と探究心がによるものです。 サイズは、W630×D520×H700×SH450mm。

ハンス・J・ウェグナーが1950年にデザインした「PP503」は、彼のキャリアでは初期にあたる椅子です。先にデザインした「チャイナチェア」を発展させ、より純粋な椅子のプロポーションの実現を目指しました。その出来栄えは、自身も「初めて自分の良さが出た」と認めたほど。しかし発表当初、この普遍的な魅力は見過ごされます。転機となったのは、1960年に行われたアメリカ大統領選のテレビ討論会です。候補者のジョン・F・ケネディがこの椅子に座る佇まいが美しく、「これぞ椅子のなかの椅子」と「The Chair」の名で呼ばれるようになりました。

ウェグナーは量産品から職人の技術を活かした家具まで、工房ごとの特性に合わせてデザインを提供しています。それは、自身も木工の技術を有していたからに他なりません。「PP503」は現在、ウェグナーの願いから優れた加工技術を持つPP モブラーが生産しています。晩年まで工房に立ち寄り、職人に指導をしていたというウェグナー。現在でもその意志は忠実に守られ、職人の手作業により一脚ずつ丁寧に作り上げられています。

同じ根から育った木の材を使うと決められています。そうすることで各部材が経年変化した後の姿も美しくなります。木の収縮率も同じなので、強度的にも丈夫な椅子になります。

最初期はアームから背にかけてのジョイント部分に藤が巻かれていたものの、フィンガージョイントの精度が上がったことでデザインとして見せるようになりました。座面が藤編みのモデルもあり、こちらの方が最初にデザインされたものです。アメリカへの輸出時にレザーが好まれることから、後年に追加されました。

これぞ、椅子のなかの椅子。